インフラからアプリケーションまで幅広い技術を持つOracle、同社が9月9日から12日にかけて米ラスベガスで開催した年次イベント「Oracle CloudWorld 2024」には1万6000人が来場した。来場者の中には、最初の顧客である米・中央情報局(CIA)からCDNのCloudflareまで、多彩な業種、規模の顧客が含まれている。

OracleのCEOを務めるSafra Catz氏は基調講演で、テージ上に顧客を招き、Oracleの技術がどのように成長を支援しているのかについて語った。→共同創業者兼取締役会長兼CTOを務めるLarry Ellison氏の基調講演の記事はこちら

  • Oracle CEO Safra Catz氏

顧客第1号のCIAのCIOは何を語ったのか

「Oracleは創業から47年を迎えた。存続を支えたのは、能力と技術、そして顧客だ」とCatz氏は会場に向かって語った。

Oracleは現在クラウドにフォーカスしているが、「Larry(共同創業者兼CTOのLarry Ellison氏)の革新的なビジョンの下、当社は他社とは異なる方法でクラウドを構築した。われわれのクラウドは高速かつ安全で、顧客が望む方法で実行できる」とCatz氏は違いを強調そた。その基盤の上にAI、Autonomous Database、Fusion Applications、業種別アプリケーションなどが載る。同社の戦略はインフラからアプリまでフルスタックでクラウドを提供することた。同時に、Microsoft、AWS、Googleと提携するなど、クラウドにおけるパートナー戦略の拡大も進めている。

Oracleの最も古い顧客がCIAだ(Oracleの社名は、Ellison氏らがCIAで進めていたプロジェクトのコード名が由来)。CIAのCIOであるLa'Naia Jones氏は、Oracleがセキュリティを重視する姿勢を称賛し、「OracleがセキュリティをCIAと同じぐらい重要視していることを光栄に思っている」と述べた。「CIAの任務を考えると、単体では大きすぎるし、難しすぎる。だからパートナーシップが重要になる。われわれは世界中で活動しており、グローバルなパートナーを必要としている」と同氏。

  • 左から、CIA CIO La'Naia Jones氏、Safra Catz氏

データベース管理者(DBA)としてCIAに入社し、現職に登り詰めたJones氏は、データと技術の重要性について、「私がCIOという地位に就いていることが、データと技術がいかに重要かを物語っている。技術はパワフルで変革的であり、われわれの生活を変えている」と述べた。

Jones氏は現在、CIAがどのように技術を活用しているのかには触れなかったが、AIについては活用を探っていると明かした。「企業と同様に、情報機関や防衛の分野でも生成AIを活用したい。物流、サプライチェーン、財務、HRなどにおいて、AIを活用して作業を補強したり、さまざまな形式の膨大な生データを迅速な推論したり、翻訳・要約したりして、高速に意味のあるものにしたい」とJones氏。

Jones氏の言に対し、Catz氏は「CIAはOracleの設計基準」とし、「Oracleは“すべてを・どこでも”というポリシーの下で、機密性が高く閉ざされた地域で利用できないのであれば、GA(一般提供)にはしないことにしている。CIAからたくさんのことを学んでいる」と続けた。

CloudflareがOCIを選んだ3つの理由

OCIを利用する顧客として登場したのが、CDNなどを提供するベンダーのCloudflareだ。OCIを選んだ理由を聞かれた共同創業者兼COOのMichelle Zatlyn氏は、次のように回答した。

  • 左から、Cloudflare 共同創業者兼COO Michelle Zatlyn氏、Safra Catz氏

「仕事上、世界中の企業とやりとりしているが、性能、セキュリティ体制などさまざまな理由から、OCIを選ぶ企業が増えている。Oracleは巨大なレガシーを持ちながら非常にモダンだ。OCIチームはとても革新的で、顧客のことを考えた新しいアイデアを市場にもたらしている。ダイナミックさ、機敏さを備えている」

今年のイベントの大きなテーマがマルチクラウドだが、Zatlyn氏はそれについても「マルチクラウドの世界では、複数のクラウドからニーズに最適な機能を組み合わせて環境を構築したい。OCIはそれを実現しようとしている」と評価した。そして、「50%以上の企業がマルチクラウドの状態。5年前とは大きな違いであり、この比率は日々増えている」と付け加えた。

最後に、Zatlyn氏は価格性能比を挙げ、「AIを活用するにあたって、今後さらに重要な特徴になる」と述べた。

CloudflareとOracleは、マルチクラウドで協業関係でもある。マルチクラウド環境ではCloudflareが提供する“コネクティビティクラウド”が重要になる、とZatlyn氏。同社のコネクティビティクラウドはセキュリティと可視化を特徴するため、攻撃から保護できるという。Cloudflareは9月9日だけで、1570億件の攻撃から顧客を防御したと胸を張った。

また、Zatlyn氏は「この3年で71%の国がデータをローカルに置く法律を可決している」など、データをローカルに置く動きが高まっていること、AIの推論を行う場所としてエッジが注目されていることなどにも触れた。Cloudflareは120カ国330都市で展開しているが、先に発表した「Workers AI」は、顧客は自社のトレーニングセットとモデルをOracleで使い、Cloudflareの分散ネットワークで推論を行えると紹介した。

Fusionでデジタル化進めるホテル業のMGM

Fusion Applicationsの顧客として登場したのがMGM Resorts InternationalのCEO、Bill Hornbuckle氏だ。

  • 左から、MGM Resorts International CEO Bill Hornbuckle氏、Safra Catz氏

MGMの本拠地であるラスベガスは、「カジノ中心の街から、世界クラスのリゾート地へと進化し、ビジネスの行き先にもなっている」とHornbuckle氏。都市の成長とともにMGMも成長、現在はラスベガスに5万5000人、世界に8万人のスタッフがいる。日本にも拡大を図っているところだ。

このような拡大と成長に対応するために、技術は不可欠だという。例えばラスベガスのホテル「Bellagio Las Vegas Hotel and Casino」の客室数は4000。「どうやってパーソナライズするか、自宅のように感じてもらうか、自分のことを理解していると感じてもらうかが重要」とHornbuckle氏。

そこでデジタルが重要な役割を果たす。「デジタルを使うことで、デジタルのコンシェルジェ、デジタルのチェックインを提供し、長い列でお待たせしなくても良くなる」(Hornbuckle氏)

MGMではコロナ禍でデジタルチェックインを導入、現在35%の宿泊客がスマートフォンでデジタルチェックインを利用しているという。空港からチェックインし、そのままモバイルキーを使って部屋に入り、デジタルコンシェルジェに相談できるそうだ。

カスタマーサービスではAIも活用している。「予約関連だけで1日当たり1万5000~2万件の電話があるが、そのうちの20%しかコンバージョンしない」とHornbuckle氏。そこで同社は、AIを利用して残る80%を効率よく処理することを狙っている。最終的には20%をAIで対応することを目指しているという。

Hornbuckle氏によると、カジノ(ゲーム)の売上の50%が1%の顧客から得たものだという。この1%の顧客については誕生日、子供の誕生日など詳しく知っているが、さらに、頻繁に足を運ぶ顧客についてもAIを利用してパーソナライズを進めていきたいとした。

このようなMGMのデジタル面での取り組みを支えているのが、Fusion、ホテルプロパティ管理ソリューションのOPERAといったOracleの技術だ。Hornbuckle氏によると、導入は2018年に決定し、2020年5月に実装を開始したとのこと。

導入による成果として、労働力が25~30%削減、財務システムの合理化を進めることができている、とHornbuckle氏は述べた。