2024年9月4日から9月6日にかけて千葉県の幕張メッセにて開催された最先端科学・分析システム&ソリューション展「JASIS 2024」にて、島津製作所は最新の分析機器を交えたトータルソリューションを展示していた。

エネルギー分散型蛍光X線分析装置「ALTRACE」

同社ブースの中でもっとも注目を集めていたのは、開催前日となる9月3日に発表されたばかりのエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)「ALTRACE(アルトレス)」。同装置は、島津製作所のEDX製品のフラッグシップモデルという位置づけで、試料を容器に入れるだけという簡便な前処理で、試料中の無機元素(有害重金属)の種類や量を分析することを可能とした。また、液体から粉末まで幅広い試料に対応しており、その他の無機元素の測定手法と比較しても迅速かつ容易な仕組みとなっている。

  • エネルギー分散型蛍光X線分析装置「ALTRACE」の外観

    エネルギー分散型蛍光X線分析装置「ALTRACE」の外観

食品や飲料水のほか、家具、家電、玩具、そして化粧品などの原材料には有害重金属が微量に含まれており、近年こうした重金属に対する規制強化が各国で進められている。製品の安全性を保っていくため、製造・出荷工程での検査を目的としたEDXの需要は高まりつつあるほか、こうした背景もあり分析装置に不慣れなユーザーが使う場面も増加傾向にあるということで、簡単かつ高感度に測定できるEDX装置が求められていたという。

  • ALTRACEの内部の様子

    ALTRACEの内部の様子

これまでも有害重金属を分析できる装置はあったものの、分析の感度が悪く、微量の物質を計るのが難しい場合が多かったり、ICP発光分析装置を使っての分析の場合は、硝酸や塩酸で煮る工程が必要となるため危険性があることから敬遠されることが多いほか、最大でも12個までしか連続で分析できず、手間と時間が多くかかったりと課題が多かったとのこと。

今回開発されたALTRACEは、指定の場所に1g~2gの試料が入った容器を入れるだけで自動で分析が開始され、かつ一度に48個の試料を分析することが可能なため、試料数が多い分析でも、研究員の負荷を軽減し作業効率を向上できるという。また、分析にかかる時間もおおむね10~20分程度にまで短縮、長年、分析に携わってきた同社ブースの担当者は昔は2時間くらいかかっていたと振り返っており、大幅な時間短縮が実現されたと言えるだろう。

  • 試料を入れる容器

    試料を入れる容器

  • 一度に48個の試料を分析できる

    一度に48個の試料を分析することが可能

ではなぜこのような効率化が実現できたのか。その理由は、「X線のパワーを強くしたこと」と「X線光学系と信号処理系の設計を一新したこと」にあるという。ハードウェアの改良によってより多くのデータを取得できるようになったことで、微量の無機元素を高感度で測定できるようになり、従来のEDXでは分析が難しかったカドミウムなどといった重金属の検出下限が向上、測定感度は業界最高クラスに到達したとのこと。ブースでは0.0001%ほどの微量の銀を測定するデモも行われており、その高感度を体感することができた。

  • 分析結果の画面

    分析結果の画面

今後はデータの改ざんがないかなどのデータインテグリティの分野にも注力してていくなど、同社が有しているソフトウェア的な強みも取り入れていきたいとブース担当者は展望を語っていた。

抗体糖鎖自動前処理装置「MUP-3100」

ALTRACE以外に注目を集めていたのが、同社の抗体N型糖鎖分析キット用の抗体糖鎖自動前処理装置「MUP-3100」だ。

  • 抗体糖鎖自動前処理装置「MUP-3100」

    抗体糖鎖自動前処理装置「MUP-3100」

同装置は、島津製作所と住友ベークライトが協同で開発したもので、サンプルと試薬を装置にセットするだけで、ロボットが培養上清中抗体の修飾糖鎖を自動的に前処理してくれるというもの。

100以上の試料分析を行う場合は同社が持つ他ラインナップの大型装置の方が適しているとブース担当者は語っており、どちらかというとMUP-3100は数十ほどの試料を分析し、短期間で自動化を導入したいユーザーに適しているという。

最大24個の試料サンプルを1度にセットでき、1日に2回処理ができるため、分析者の負担軽減や、夜間や休日の運転により業務の効率化、前処理のバラつきの排除を実現する。

  • ロボットが前処理を自動で行ってくれる

    ロボットが前処理を自動で行ってくれる

また、自動運転前に画像処理により必要な試薬類のセット状況を確認し、セットされていないサンプル、試薬、消耗品があれば、運転開始前に知らせてくれる機能もあるほか、自動運転中もセンサーによりピペットチップ着脱やカラムの把持を監視し、誤動作を防いでくれるとのこと。「人間は誰でもミスすることはありますから、そういう時にもセットがうまくいっていなくてまた1から分析をし直すということがないようにアラート機能をつけています」と担当者は述べていた。

従来は、培養上清中の抗体サンプルから糖鎖を切り出すまでに煩雑な操作が必要で、前処理に2日以上の時間を要していたというが、抗体N型糖鎖分析キットとMUP-3100を組み合わせて使用することで、24個のサンプル試料を6時間で前処理できるという。人間の作業としては、装置に試料をセットし、ボタンを押すだけだ。

製品と製品の組み合わせや、製品に活用されている独自技術の応用などで幅広いラインナップを兼ね備えている島津製作所。同展示会でもさまざまな製品が展示されており、「トータルな提案ができるのが強みです」とブース担当者は述べていた。