早稲田大学(早大)は9月12日、水素キャリアとしての利用が期待されるアンモニアから水素を取り出すためには、従来の400℃以上が必要なアンモニア分解反応から、200℃程度でも反応が進められる新たなプロセスを見出したことを発表した。

同成果は同大理工学術院の関根泰教授の研究グループに属する大淵ゆきの氏(修士2年)、土井咲英(修士修了)ならびにヤンマーホールディングスの御手洗健太研究員らによるもの。詳細は「Chemical Science」に掲載された

クリーンなエネルギー資源として水素の活用が期待されているが、水素な常温では気体であり、エネルギー密度が小さいため、輸送の際などは液体化する必要がある。しかし、その液化には高圧・低温が必要で、貯蔵や輸送には相応のコストがかかることから、より効率的に水素の貯蔵・輸送を可能とする水素と容易に変換が可能なキャリアの活用が期待されている。

中でもアンモニアは水素含有率が17.6wt%と高く、容易に液化でき可搬性に優れるため、水素キャリアの有力な候補とされている。アンモニアを水素キャリアとして利用する際、最終的には水素を取り出すためのアンモニア分解反応が必要になるが、この反応は高温ほど起こりやすい反応であり、アンモニアの100%分解のためには一般的に400 ℃以上の高温が必要とされており、より高効率かつ簡便に水素を得るために、その分解反応の低温化が求められている。

研究グループは今回、アンモニア分解反応の低温化を目指し、電極を上下から直接触媒層に触れさせ、電流を流すことで水素を取り出すさまざまな反応を低温で促進することを可能とする電場触媒反応を応用することにしたという。

今回の研究では半導体性を示す酸化セリウム(CeO2)上に、Ruのほか、Fe、Ni、Coなどの金属を乗せた触媒を用いたという。

  • 電場触媒反応

    電場触媒反応のイメージ図 (出所:早大)

実際に試したところ、電流を流した電場アンモニア分解反応では、125℃という従来では反応がほぼ進行しない低温域で、約100%のアンモニア分解率を達成できることを確認したという。また、高価なRuの場合のみならず、FeやNiといった安価な金属を使用した場合にも低温で反応が促進できることも確認したとする。

  • 125℃での電場アンモニア分解の結果

    125℃での電場アンモニア分解の結果(左)と金属の種類を変化させた場合の試験結果(中央および右) (出所:早大)

また、電場アンモニア分解反応では、従来とは異なり100~200℃の温度域にて低温ほど反応速度が上がる特異的な現象も確認されたことから、研究グループでは低温ほど有利である吸着現象が関与した新しい反応メカニズムが生じていると考え、そのメカニズムの解明に向けた実験も実施。その結果、従来の反応メカニズムで律速段階である触媒表面からの窒素の脱離が促進されたことが判明したという。具体的には、従来の反応メカニズムではアンモニア(NH3)から最初に水素(H)が脱離、触媒表面にNが残され、N同士が結合しN2を生成していたが、触媒に電流を流すことで、触媒表面ではH+が豊富な状態となり、NとHで形成されるNHの存在量が増加。NH同士はN同士よりも結合しやすく、N2H2という中間物質が生成され、ここからHが脱離することでアンモニア分解反応が完了する反応メカニズムが推測されたとする。

研究グループでは、機械学習ポテンシャルを用いた理論的シミュレーションによる詳細検討も実施。その結果、電場反応時にはRuとCeO2の境界でN2H2を経由したメカニズムが進行しやすいことがわかり、これが電場アンモニア分解反応を低温で進行させるメカニズムとして有力であることが示されたと説明している。

  • 電場アンモニア分解反応

    電場アンモニア分解反応のイメージ (出所:早大)

  • 従来の反応と電場による反応のイメージ

    従来の反応と電場による反応のイメージ図 (出所:早大)

なお、研究グループでは、今回開発された反応手法を用いることで、工場やエンジンなどの排熱を利用して水素を得たいときに小型設備でその場で得ることが可能になると説明しており、これにより水素キャリアとしてのアンモニア利用の拡大、ひいては扱いが難しい水素の利用の拡大につながると考えられるとしており、今後、より少ない投入エネルギーで、アンモニアからより多くの水素を取り出すべく、実験的手法と計算科学シミュレーションを組み合わせて引き続き検討を行っていくとともに、ヤンマーと社会実装に向けた課題解決を目指すとしている。