東京工業大学(東工大)と東京理科大学(理科大)は7月16日、アンモニアを高密度で吸着し、また回収も簡便に行え、繰り返し使用できる吸着材料を開発したと共同で発表した。
同成果は、東工大 理学院 化学系の小野公輔准教授、同・石川智貴大学院生(研究当時)、同・政野紫苑大学院生、同・後藤敬教授、理科大 理学部 化学科の河合英敏教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
アンモニアは一般的には刺激臭のある有毒物質(環境汚染物質)だが、燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出しないカーボンフリー燃料であることや、水素原子を高い重量密度・体積密度で含むため(同じ体積で、液体アンモニアは液体水素の約1.7倍の水素を含むことが可能)、運搬や貯蔵に課題がある次世代エネルギーの水素のキャリアとしての利用でも注目されている。もし、アンモニアを液体アンモニア以上の密度で吸着材料に吸着させ、固体状態で貯蔵/運搬することができれば、水素貯蔵における大きなブレークスルーになるといえる。このような背景から、アンモニアを高密度で貯蔵し、繰り返し安定に吸脱着できる材料の開発が強く望まれている。
現在、ガス吸着材料として自己集合性の高分子材料が盛んに研究されているが、これらの材料は、構成成分を弱い相互作用で連結することで合成されているため、反応性の高いアンモニアの吸着材料には適していないという。そのため、安定してアンモニアを繰り返し吸脱着できる材料は限られているのが現状だ。
これまでの研究で研究チームは、ベンゼン環が連結された環構造を形成する化合物であり、ナノメートルサイズの広い内部空間を有する有機分子「オリゴフェニレンリング」を開発してきた。同リング状分子は炭素-炭素結合に由来した高い化学安定性を有し、内部を2つの官能基で修飾できる特徴を持つ。そこで、アンモニアと相互作用する酸性官能基を有するリング状分子を合成し、固体中で積層させることができれば、酸性の細孔を有する細孔性単分子材料になるのではないかと着想したという。そして同材料は、既存の自己集合性高分子材料が抱える安定性の問題を根本的に解決でき、繰り返しアンモニアを吸脱着できる材料になるのではないかと期待し研究を進めることにしたとする。
今回の研究では、酸性官能基としてカルボキシ(CO2H)基を有する「オリゴフェニレンリング1a」(以下、「リング1a」と省略)が合成された。リング1aのクロロホルム溶液にメタノールを加えて再沈殿させると、リング1aがカラム状に積層した構造の結晶性固体が選択的に得られることが判明。同結晶性固体は340℃まで加熱しても分解せず、また1Mの塩酸や水酸化ナトリウム水溶液に1日間さらしても安定だったとした。
そこで同結晶性固体材料を用いて、20℃におけるアンモニアガスの吸着実験が行われた。すると、極低圧からアンモニアが吸着され、最終的には8.27mmol/gのアンモニアが吸着されたとした。この時の材料内でのアンモニア吸着密度は0.533g/cm3と、液体アンモニアの密度に近い値(-33℃で0.681g/cm3)になったという。
さらに、結晶性の劣化や吸着量の減少を伴うことなく、アンモニアを繰り返し安定に吸脱着できることも確認された。20℃で9回連続で行われたアンモニアの吸脱着の等温線(アンモニアの圧力を変化させていった時に、材料がアンモニアを吸着した量を表したグラフ)では、9回分の吸脱着線がよく重なっていることからも吸脱着が安定して繰り返し行えていることが明らかにされた。また通常の吸着材では、再利用時に残留アンモニアを取り除くため、減圧しながら数時間から1日程度、100~300℃程度で加熱する必要があるが、今回の材料では、室温下で1時間の減圧だけで完全にアンモニアを取り除いて再生することができたとした。
今回の研究成果は、水素キャリアとして注目を集めているアンモニアの吸着材料の新候補を提示するものであり、水素社会の発展に寄与するアンモニア吸着材の開発につながる点で、社会的に大きなインパクトを持つといえるとした。
研究チームは今後、リング状分子の内部を適切な官能基で修飾することで、アンモニアに対するさらなる吸着能や選択性を向上させ、液体アンモニア以上の密度でアンモニアを吸着できる材料の開発を目指すとしている。