イオンビームの照射で、アルミニウムの薄膜上に髪の毛の1000分の1ぐらいの細さの「ナノワイヤ」を大量に成長させることに、名古屋大学のグループが成功した。単結晶からなる純金属ナノワイヤは欠陥が少なく強度が高いほか、光に対する特性からセンサー装置やオプトエレクトロニクスへの活用が期待されるという。
純金属のナノワイヤは、ひげを意味するウィスカとも呼ばれる。直径100~600ナノメートル(ナノは10億分の1)程度の線状ナノ構造体で、2000年ごろから表面光の伝搬、発光、電子散乱といった光学や電子工学的な性質が注目を集めている。
今回、名古屋大学大学院工学研究科助教として研究を行った木村康裕・九州大学工学研究院准教授(材料力学)によると、金属の中でもアルミニウムのナノワイヤは光デバイスなどへの応用が期待されている。ただ、ナノワイヤを大量につくる手法が難しいことが課題になっていた。
木村准教授は修士学生時代から約10年間に渡り研究を続けてきた。当初は電流を用いてナノワイヤをつくる手法を研究していたが、条件をそろえてもナノワイヤが成長しない時期が数年続いた。その原因を探るため、ナノワイヤをつくる薄膜を顕微鏡で観察したところ、薄膜内部のアルミニウム結晶の粒が比較的大きいことがナノワイヤの成長に必要らしいと気づいた。
結晶粒を大きくするにはイオンビーム照射が有効な方法と考え、木村准教授らは厚さ100ナノメートルのアルミニウム薄膜にガリウムイオンビームを照射した。すると、木がたくさん生えた森のように薄膜からナノワイヤが成長した。ナノワイヤは、直径がおおむね100~300ナノメートル、長さが20~100マイクロメートル(マイクロは100万分の1)ほどだった。ナノワイヤの密度と長さにはトレードオフの関係がみられた。
木村准教授らは薄膜内部の結晶粒に着目し、ナノワイヤが成長するためのシミュレーションを行った。イオンビーム照射によって薄膜表層の結晶粒が大きくなり粗粒化する一方、薄膜下層は細かい粒のまま。この粒の大きさの違いにより圧力の勾配が生じてアルミニウム原子の上昇流を起こし、ある特定の結晶粒が結晶の核のように働いて集まった原子が薄膜から上へ延びるように単結晶となりナノワイヤとして成長することが考えられる。
半導体や有機材料、金属酸化物のナノワイヤは大量合成法が報告されている。純金属のアルミニウムナノワイヤでは、固体中の原子輸送現象である原子拡散によって作られた場合の本数密度は1975年に1平方センチメートルあたり20万本が報告されていたが、イオンビーム照射であれば1800万本になることが実証できた。木村准教授は「金属の原子スケールモノづくり技術の出発点になると期待される」としている。
研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業や日本学術振興会の科学研究費補助金の支援を受けて行い、論文は8月8日付の米科学誌「サイエンス」に掲載された。
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