米中間の緊張が続くなか、IBMは最近になって中国にある主要な研究部門を閉鎖すると発表した。具体的には、中国にあるIBMの研究開発と試験に特化した2つの研究部門を閉鎖する。その後は中国でビジネスを続ける多国籍企業向けのサービスに重点を移すとされ、中国における研究開発機能は他国に移される計画で、移転先としてインドが報じられている。また、研究部門の閉鎖と移転の背景には、中国当局による監視強化、中国経済の景気後退などがメディアで挙げられているが、それだけではなく、今後も長期的に続く米中対立も大きな要因だろう。

無論、メディアが挙げた中国当局による監視強化とも関連するが、近年、米中対立は軍事や安全保障だけでなく、経済や貿易、人権や先端テクノロジーなど多方面で展開されており、特に先端テクノロジー分野はその主戦場になっている。

その最もたるケースが先端半導体だ。米国のバイデン政権は2022年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止する目的で、先端半導体分野で中国向けの輸出規制を大幅に強化した。そして、米国単独ではそれを阻止できない可能性を懸念するバイデン政権は昨年1月、先端半導体の製造装置を駆使する日本とオランダに対して米国による輸出規制に参加するよう呼び掛け、日本とオランダはそれぞれの経済合理性とのバランスを取る形で、先端半導体分野で中国向けの輸出で規制を開始した。しかし、米国は両国の規制レベルは十分でないと不満を募らせ、さらに踏み込んだ規制を実施するよう求めるだけでなく、韓国やドイツなど友好国にも輸出規制で同調するよう呼び掛けている。

こういった米国の姿勢からは、先端半導体などハイテク競争で中国との競争に負けない、先端テクノロジー分野から中国を排除するという強い意気込みが感じられる。そして、日本や欧州などの間ではこうした米国の保護主義的な姿勢に警戒するべきとの声も聞かれ、米中によるハイテク競争のいっそうの激化が懸念されている。

こういった状況においては、中国で先端テクノロジーを手掛ける米国企業などはビジネスがしにくくなるだろう。先端テクノロジー分野が米中対立の主戦場となれば、米国政府が中国で先端テクノロジーを手掛ける米国企業に圧力を加え、中国政府が同企業に監視の目を強化することは想像に難くない。今回のIBMによる閉鎖と移転にもこういった背景があると考えられよう。