MCBI、筑波大学、メモリークリニックとりで、伊藤園の4者は9月2日、認知症の前段階である「軽度認知障害」(MCI)と、さらにその前段階の「主観的認知機能低下」(SCD)の高齢者を対象にした臨床試験「抹茶の認知機能低下抑制効果を評価する試験」を共同で実施し、抹茶を継続摂取することによる社会的認知機能の改善および睡眠の質の向上傾向を確認したことを共同で発表した。

同成果は、MCBI 研究開発担当の内田和彦取締役会長、筑波大 医学医療系精神医学の新井哲明教授、メモリークリニックとりでの朝田隆理事長、伊藤園 中央研究所の瀧原孝宣所長らの共同研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLOS ONE」に掲載された。

緑茶とは、茶葉を発酵させずに製造した不発酵茶の総称であり、製法によって玉露、煎茶、番茶、焙じ茶、そして抹茶などに分かれる。抹茶は甜茶(てんちゃ)が原料で、茶葉を摘む前に、藁や専用の黒いシートなどを20日間ほど被せて日光を遮った上で蒸して乾燥させ、これを石臼で細かく挽いたもの。日光を遮ることで茶葉の色が濃くなり、身体にはいいが渋みの元でもある緑茶の成分としてお馴染みの「カテキン」の生成が抑えられ、うまみ成分の「テアニン」が主要成分となる。テアニンは、ストレス緩和、睡眠改善、さらにはワーキングメモリ(作業記憶)の改善などの効果があることがわかっている。またカテキンには、血中コレステロールの低下、体脂肪の低下、さらにはワーキングメモリの改善などの効果があることが報告されている。

  • 研究のイメージ

    研究のイメージ(出所:伊藤園Webサイト)

なお、中高齢者を対象にした抹茶を1日2gずつ12週間、継続摂取した過去の実験では、注意力と判断力の精度を高める効果があったことが報告されていた。そこで研究チームは今回、抹茶の長期摂取の介入前後に、試験参加者への認知機能検査、睡眠調査、血中バイオマーカー測定、脳イメージングなどを実施し、抹茶の効果を総合的に解析する臨床試験を行うことにしたという。

実験では、60~85歳の939名の応募者の中から、MCIおよびSCD(客観的には認知機能の低下は認められないが、物忘れの自覚がある自分だけが気づいているMCIの前段階)と診断された99名が対象とされ、抹茶の長期摂取による認知機能などへの影響が、二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験により検証された。試験食品は、抹茶群では抹茶2gを充填したカプセルを、プラセボ群では着色コーンスターチを充填したカプセルがそれぞれ用いられた。抹茶の1日あたりの摂取量は、薄茶お点前一杯相当量にあたる。試験開始時から12か月間の各評価項目の変化が、「混合効果モデル」により統計的に検証が行われた。

  • 表情認知テストのイメージ

    表情認知テストのイメージ。画像の顔の表情と、感情表現の言葉が一致しているか否かを、3秒以内に判断するという内容で、全48問からなる(出所:伊藤園Webサイト)

認知機能に関しては、認知症やMCIのスクリーニングなどに用いられる神経心理学的検査での得点で、抹茶群とプラセボ群の間に差は見られなかったという。しかし、「コグニトラックス検査」による認知機能の領域別の評価では、抹茶群はプラセボ群に比較して、表情認知テストで表される社会的認知、具体的には顔表情からの感情知覚の精度が有意に改善することが確認されたとする。また、睡眠の質について「ピッツバーグ睡眠質問票」を用いて評価が行われた結果、抹茶群でスコアが低下し、睡眠の質が向上する傾向が示されたとした。

  • 社会的認知の結果

    (左)社会的認知の結果。(右)ピッツバーグ睡眠質問票のスコア(出所:伊藤園Webサイト)

今回の研究では、抹茶が新たに社会的認知機能(顔表情からの感情知覚)を改善する効果を有することが示された。この社会的認知は、「DSM-5」(米国精神医学会が発行する精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)にある認知症診断基準にある項目であり、高齢者の認知機能としてだけでなく、コミュニケーション能力や日常生活、さらには社会参加においても重要と考えられるとする。また、カフェインを含有する抹茶の摂取にもかかわらず、「睡眠の質」に悪影響がなく、むしろ改善傾向が見られた点も注目に値するという。睡眠の質の維持が認知機能の維持にもつながることが期待されるため、これらの知見は非常に重要であると考えるとした。

研究チームは今後、社会的認知機能の改善効果やそのメカニズムの解明、睡眠の質との関連性、その他の検査結果の解析を進め、高齢者にとって有益な活用方法の提案を目指すと同時に、高齢者のウェルビーイングな生活の実現に向けて研究を続けていくとする。抹茶をはじめとする緑茶は、日常的に摂取でき、多くの高齢者にとって身近な存在であることから、さらに研究を重ねることで、自治体やさまざまなコミュニティで行われている認知症予防プログラムなどに活用されることが期待されるとしている。