熊本大学は2月3日、マウスによる動物実験において、抹茶にうつ症状を軽減させる効果があることを明らかにしたと発表した。

同成果は、熊本大大学院 生命科学研究部の倉内祐樹准教授らの研究チームによるもの。詳細は、栄養学に関する全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Nutrients」に掲載された。

うつ病は世界で最も患者数の多い精神疾患であり、近年のコロナ禍によってさらに患者数が増加しているとされる。コロナ禍におけるホームステイなど、ライフスタイルの変化がうつ症状を誘発することも指摘されており、日常生活のストレスに適切に対処することが、うつ病の発症予防に重要だと考えられている。

抹茶を日常的に飲むことは、以前から健康への好影響があることが知られていた。かつて抹茶は医薬品のように扱われてきた時代もあり、日常生活で生じるストレスへの対処に不可欠なリラックス効果も期待されているが、これについて科学的な根拠は十分ではなかったという。

そこで研究チームは今回、抹茶を飲んだ時のストレス状態やストレス感受性の個人差が抹茶の効果に影響するという仮説を立て、ストレス状態の異なるマウスを用いた検討を行うことにしたとする。

まず、マウスにストレスを与える目的で社会集団から隔離して1匹のみで飼育し、その後、抹茶を飲ませた時のうつ様行動を尾懸垂試験によって評価した。さらに、それぞれのマウスのうつ様症状と脳内ドーパミン神経回路の活性化状態の関係性を明らかにする目的で、行動薬理学的解析ならびに神経活動の指標である「c-Fosタンパク質」を発現する神経細胞の検出が行われた。

同実験では、ストレスに対する感受性が異なる2種類の実験用マウス(C57BL/6J系統マウス、BALB/c系統マウス)が、それぞれ社会集団から隔離されて1匹のみで飼育された。すると、C57BL/6J系統マウスはうつ様症状が強く現れたのに対し、BALB/c系統マウスのうつ様症状は非常に弱いことが確認された。

そして抹茶を飲ませた場合の抗うつ効果は、C57BL/6J系統マウスに対してのみ発揮され、その作用にはドーパミンD1受容体の活性化を介した機序が関与することが明らかになったという。その一方で、BALB/c系統マウスに抹茶を飲ませても、その行動は変化しないことが観察された。

さらに、脳内神経回路の活性化状態を解析したところ、C57BL/6J系統マウスは前頭前野-側坐核-腹側被蓋野を中心とした脳内ドーパミン神経回路の活性化状態が非常に低くなっていたものの、抹茶を飲ませるとその活性化状態が高くなることがわかった。一方、BALB/c系統マウスは、もともと脳内ドーパミン神経回路の活性化状態が非常に高く、抹茶を飲ませてもその活性化状態は変化しなかったとする。

  • 抹茶がうつ様行動を軽減するメカニズム。社会集団から隔離された際にうつ様症状が現れるC57BL/6系統マウスでは、脳内ドーパミン神経回路の活性化状態が低い。抹茶は、脳内ドーパミン神経回路の活性化状態を高める働きにより抗うつ効果を発揮することが示唆された。DA:ドーパミン、GABA:γ-アミノ酪酸、Glu:グルタミン酸

    抹茶がうつ様行動を軽減するメカニズム。社会集団から隔離された際にうつ様症状が現れるC57BL/6系統マウスでは、脳内ドーパミン神経回路の活性化状態が低い。抹茶は、脳内ドーパミン神経回路の活性化状態を高める働きにより抗うつ効果を発揮することが示唆された。DA:ドーパミン、GABA:γ-アミノ酪酸、Glu:グルタミン酸(出所:熊本大プレスリリースPDF)

研究チームはこれらの結果について、脳内ドーパミン神経回路の活性化状態がうつ様症状と関係し、ストレス状態やストレス感受性の個人差が抹茶の効果に影響することが示唆されるとした。

うつ病の発症を予防するためには、日常のさまざまなストレスに適切に対処するセルフケアを実践し、心や身体の健康を維持することが大切だとされる。今回の研究成果は、食品である抹茶がストレス対処に有益な作用をもたらす可能性が示されているという。また今後、日常生活における精神状態の違いやストレスに対する感受性の個人差を考慮し、抹茶を活用した健康増進プログラムが開発・実践されることが期待できるとした。