国と企業の新しい関係構築が求められる中で【私の雑記帳】

日本の立ち位置は?

 日本の立ち位置をどう取るか─。米国大統領選をはじめ、世界の主要国で政権選択の選挙が行われ、リーダーが目まぐるしく入れ替わるなど、国際政治が激変する今、日本の針路をどう取るかが問われている。

 今年(2024年)、すでに英国で14年ぶりに労働党が保守党から政権を奪取。キア・スターマー新首相は、英国経済を立て直し、「人々への奉仕」に政治を回帰させることを明言した。

 フランスでは『共和国前進!』を率いるマクロン大統領は政治的窮地に立たされていたが、右派政党『国民連合』の躍進を抑えるために左派と手を組み、何とか政権を維持している状況。2017年に39歳の若さで大統領に就任して7年、経済低迷で国民の不満が高まる中で、難しいカジ取りを迫られている。

 南米アルゼンチンは、年率200%以上の〝超インフレ〟で経済が大混乱。ハイパーインフレの根本的な原因は巨額の財政赤字だとされるが、ペロン党が率いた前政権下での企業国有化や大衆迎合政治による財政出動のシッペ返しと指摘する声が多い。

 米中対立、ロシアによるウクライナ侵略、イスラエルとイスラム軍事組織ハマスとの戦争が続き、各地で紛争が頻発。

 とりわけ、米国の次期大統領が誰になるかで、国際秩序も大きく影響を受けるため、トランプ(共和党)VSハリス(民主党)の争いに世界中が注目する。そうした中での〝日本の選択〟である。

ハリス人気は急上昇

 今のところ、トランプ氏が優勢という見方が強いようだが、ハリス氏の人気も若い世代を中心にウナギ昇りで、「接戦になるのでは?」という見方もある。

 7月下旬、現職のバイデン大統領が急遽、11月の大統領選からの撤退を発表。副大統領のハリス氏が民主党の大統領候補として指名を受けた。

 保守派の白人層を中心に、ラストベルト(rust belt、さび付いた工業地帯)と呼ばれる経済不振の中西部の労働者から支持を受けているとされるトランプ氏。

 これに対して、ジャマイカ出身の父、インド出身の母を持つハリス氏は、当選すれば初の女性大統領となるということでも注目を浴びる。アジア系などの移民系や黒人層からの支持が強いが、ハリス氏自身は中間層や無党派層の取り込みに注力する戦略。また、労働界もハリス支持に向かっており、トランプ陣営でも緊張感が高まっているようだ。何しろ59歳と若く、バイデン氏を「老害」と批判してきたトランプ氏の78歳よりはるかに若いのもハリス氏の強みだ。

 ハリス氏の訴える政策の中身次第では、閉塞状況を打破するリーダーとして、人気が急伸する可能性がある。

内向き志向の米国に…

 気になるのは、米国が内向き志向を強めていることだ。トランプ氏は『米国ファースト(第一主義)』を唱え続け、ウクライナ支援にも否定的な姿勢。

 トランプ氏が大統領になれば、ロシアと対峙するNATO(北大西洋条約機構)との関係、EU(欧州連合)との関係も微妙なものになる可能性がある。

 もっとも、対NATOにおいては、「自分たちの安全保障を米国に依存し過ぎている」というのがトランプ氏の主張であり、これには米国民ならず、欧州の関係者も納得せざるを得ないだろう。

 自らの国は自らの手で守る─。この当たり前の論理をトランプ氏は言っているに過ぎないというわけだ。

 ただ、ウクライナ問題では、トランプ氏の発言は、侵略者・プーチン氏(ロシア大統領)を元気づけることにもなりかねない。

「何を言い出すか分からない」ということで各国も身構えるのだが、トランプ発言には、『なるほど』だとか、『もっともな話』と受けられる要素もあり、これからの討論などで、その真髄を見極めたいところだ。

『国と企業の関係』の今後

 いずれにせよ、日本製鉄が米国の名門製鉄メーカー、USスチール買収に名乗りを上げていることもあり、日本企業は『米国ファースト』への根強い信仰にも似た保守派の心情にどう対応していくかを考えねばならないだろう。

 日米貿易摩擦は1970年代初頭の繊維摩擦に始まり、1970年代末から80年代にかけては、日本からの鋼材の対米輸出をめぐる軋轢、さらには80年代の自動車、半導体摩擦へと続いてきた。

 こうした流れの中で、トヨタ自動車は米GMと合弁会社を設立し、1988年にケンタッキー州に工場をつくるなど、米国内での生産に力を入れてきた。

 米国社会に溶け込む努力を日本企業は重ねてきたわけだが、今回の日本製鉄のUSスチール買収に、今の米国は強い〝待った〟をかけ続けている。

 海外市場での事業強化で内需低迷をカバーして成長を図ってきた日本企業にとって、ここはまさに正念場である。

 国と国をつなぎ、人と人をつなぐ役割と使命を持つ経済人は、知恵を出し合い、力を出し合って、ぜひともこの試練を乗り切っていかねばならない。国と企業の新しい関係構築が求められている。

小坂家と信州・伊那市の関係

 東京・銀座に本拠を構える小松ストアー会長の小坂敬さんと日比谷公園内にある日比谷松本楼社長・小坂文乃さんのお二人がこの度、長野県伊那市の〝ふるさと大使〟に選ばれた。

 小坂敬さん(1937年生まれ)の玄祖父に当たる小坂駒吉は信州・伊那の出身。江戸末期、江戸に出て上野・輪王寺の御用商人となり、銀座で松本楼を開業し財を成した。駒吉の次男・梅吉は実業家、政治家(貴族院議員、衆議院議員)として活躍し、日比谷公園内の整備に伴い、日比谷松本楼を開業。

 梅吉の長男・武雄は小松ストアー(ギンザコマツ)の創業者で、小坂敬さんが受け継いだ。今、その地はファストファッションの『ユニクロ銀座店』や『コムデギャルソン』が入店し、世界中の人々が訪れる。

 日比谷松本楼は、小坂敬さんのイトコに当たる小坂文乃さんが現在社長として経営。小坂文乃さんは、中国革命を指導した孫文の支援者として知られる梅屋庄吉の曽孫でもある。

 小坂敬さんは米国の大学、大学院で学び、米石油企業のフィリップス社で働いた国際派。母親は英国出身で、グローバルな視野の持ち主であると同時に、小唄、舞いやお茶など、日本の伝統文化に親しむ粋人でもある。

 小坂さんは、「伊那は父祖の地。人情も深い所だし、人と人のつながりを大事にする風土。これからもつながりを深めていきたい」と語る。

 グローバルな視野で生きながら、「自らのアイデンティティを大事にしたい」という敬氏と文乃さんの生き方。人と人のつながりが大事だと改めて考えさせられる。