順天堂大学は8月16日、国内26施設と心房性機能性僧帽弁逆流症の実態に関する共同研究を実施した結果、心房性機能性僧帽弁逆流症は想定されていたよりも頻度が多く、僧帽弁逆流症の11.4%(9人に1人)に及ぶこと、また外科手術を受けた患者の死亡や心不全による入院率が少ないことを明らかにしたと発表した。

同成果は、順天堂大 医学部内科学教室・循環器内科学講座の鍵山暢之特任准教授、同・金子智洋助教、同・南野徹教授、同・大学大学院 医学研究科 心臓血管外科の田端実教授らを中心に、2019年に実施された全国26施設からなる後ろ向き多施設共同研究「REVEAL-AFMR研究」によるもの。詳細は、臨床ケアやヘルスケアなどを含む医療に関する全般を扱う学術誌「JAMA Network Open」に掲載された。

  • 心房性機能性僧帽弁逆流症の特徴と転帰

    心房性機能性僧帽弁逆流症の特徴と転帰(出所:順天堂大Webサイト)

「僧帽弁(そうぼうべん)」は心臓の左心房(肺から戻ってきた酸素を含んだ動脈血をすぐ下に位置する左心室へと送る部屋)と左心室(左心房から受け取った動脈血を全身へと送り出す部屋)の間にあり、心臓の動きに合わせて開いたり閉じたりすることで、心臓の中で血液が逆流しないようにする役割を担う。

僧帽弁逆流症は僧帽弁が閉じ切らず、血液が逆流することで心不全を引き起こす疾患で、機能性僧帽弁逆流症は僧帽弁自体に問題はないものの、弁を支えている心室や心房に問題が生じることで僧帽弁が閉じられなくなり逆流が起きる疾患である。

近年、不整脈などが長く続くことにより、心房が極端に大きくなることで僧帽弁の合わさりが悪くなり、逆流を生じる心房性機能性僧帽弁逆流症という疾患が知られるようになった。近年増加している心房細動という不整脈に合併するため(心房細動は心房から発生する不整脈であり、心房性機能性僧帽弁逆流症の主な原因で、心不全の引き金にもなる)注目を集めているが、同疾患は比較的新しい概念であり、まだ大きな疫学調査がなされておらず、同疾患の特徴や治療方法についてはあまり把握できていないとする。そこで研究チームは今回、心房性機能性僧帽弁逆流症の特徴や治療成績を解明することを目的とし、国内の26施設共同のREVEAL-AFMR研究を実施することにしたという。

今回の研究では、REVEAL-AFMR研究に参加した全施設において、2019年に実施されたすべての心臓超音波検査のうち、中等症以上の心房性機能性僧帽弁逆流症の患者が登録された。心臓超音波検査を受けた17万7235人のうち、およそ5%にあたる8867人が中等症以上の僧帽弁逆流症であり、中等度以上の僧帽弁逆流症のうちおよそ11.4%にあたる1007人が心房性機能性僧帽弁逆流症と診断された。その中で113人が僧帽弁の手術を受け(手術群)、手術群(平均年齢74歳)は、薬物治療(平均年齢78歳)を継続した患者よりも若く、逆流の程度(58.0%対9.4%)や心不全症状が強い(26.5%対9.3%)患者が多いという結果だったという。手術群はより重篤な病気の程度だったにも関わらず、3年間の追跡期間中に死亡や心不全入院率が良好だったとした(18.3%対33.3%)。

今回の研究では、心房性機能性僧帽弁逆流症の実際の有病率と特徴が、外科手術の結果と共に明らかにされた。ただし、今回の結果は観察研究なので、手術を受ける患者が元々状態が良かったという可能性も否定はできないという。因果関係として、手術が患者の転機を改善するのかということを解明するため、今後の介入試験を検討中だとしている。