米ボーイング社の宇宙船「スターライナー」が6月、初の有人試験飛行で2人の飛行士を乗せて国際宇宙ステーション(ISS)に到着したものの、安全性への懸念が拭えず、地上への帰還方法を再検討する事態となっている。2人のISS滞在は1週間の計画だったが、既に2カ月が経過。米航空宇宙局(NASA)は、来年2月以降に別の民間船で帰還させる検討を本格化した。

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    ISSに係留中のスターライナー(NASA提供)

スターライナーは日本時間6月5日に打ち上げられ、7日にISSにドッキングした。ただ飛行中に、エンジン機構のヘリウム漏れやエンジン5基の故障が判明。このうち4基を復旧させ、予定を1時間以上遅れて到着した。その後、機体の実物に加え、地上施設でもエンジンの燃焼試験を行うなどして検証を進めたものの、NASAによると、未だに不具合の根本原因を解明できていない。

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    ISSに接近するクルードラゴン5号機=2022年10月(NASAテレビから)

このため同機による2人の帰還を断念し、長期滞在を経て来年2月、既に本格運用中の米スペースX社「クルードラゴン」9号機で帰還する案が浮上した。この場合、スターライナーは無人で帰還させる。クルードラゴン9号機は米露の飛行士4人を乗せ今月18日に打ち上げる計画だったが、この問題を受け、来月24日以降へと延期された。同機がスターライナーで帰還予定だった2人を乗せる場合は、ISSに向かう際の飛行士を2人に削減し席を確保する。

2人がスターライナーで帰還する可能性も依然、あるという。ボーイング社はエンジン28基のうち27基が健全であることを試験で確認済みで、ヘリウムのレベルも安定しているなどとし「飛行士を乗せ安全に帰還する能力に引き続き自信を持っている」とのコメントを発表。これに対し、NASAの担当者は7日の電話会見で「NASAのコミュニティーとしては根本原因や物理をもう少し理解し、関連してどんな不確実性があるのか理解したいと考えている」と慎重姿勢をみせた。

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    スターライナーで到着し、ISS滞在が長引いているウィルモアさん(上)とウィリアムズさん(NASA提供)

スターライナーに搭乗したのは米国のバリー・ウィルモアさん(61)とサニータ・ウィリアムズさん(58)。ウィリアムズさんは2012年、ISSで星出彰彦さん(55)とペアを組み、3度にわたり船外活動をこなした人物だ。

スターライナーはアポロ宇宙船のように円錐(えんすい)状の司令船と、円筒形の機械船がつながった構造。定員は7人だが、ISS本格運用では4~5人で飛行する。司令船は再使用型で、10回の飛行に耐える。クルードラゴンがアポロ司令船と同様に海上に帰還するのと違い、パラシュートとエアバッグを開いて陸上に帰還する。

米国は2011年にスペースシャトルを廃止し、独自の有人船をいったん喪失。その後は運賃を支払ってロシアの「ソユーズ」を利用した。NASAは14年、有人船の開発や運用を委ねる契約を、スペースX社、ボーイング社と締結。クルードラゴンは20年5月、有人試験飛行でISSに到達し、同年11月から本格運用が続いている。

一方、スターライナーは困難を重ねている。2019年12月に無人試験飛行に挑んだが、エンジン噴射のタイミングがずれてISSに到達できなかった。その後、バルブの固着などで再試験の延期が繰り返され、22年5月にISSに到達している。その後は有人試験飛行の準備を進めたが、パラシュート機構の強度不足、船内の配線保護テープの可燃性の問題などが判明し、開発に時間がかかってきた。

今回の有人試験飛行を経て、来年にも本格運用に移行する計画だが、トラブルを受け、さらに検証が求められそうだ。本格運用の初号機には未公表ながら、日本の油井亀美也(ゆい・きみや)さん(54)が搭乗するとみられている。

一方、NASAは今月1日、既にISS長期滞在が決まっていた大西卓哉さん(48)について、クルードラゴン10号機で来年2月にも出発すると発表した。

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    有人と無人合わせ5機種、計6機もの宇宙船が係留中のISSの外観(想像図)。本稿1枚目の写真に写るスターライナー(本図では左端)は、隣接するクルードラゴンの窓から撮影されている(NASA提供)

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