AI(人工知能)はもはやSFの世界の話ではなく、ビジネスに革命をもたらすゲームチェンジャーとなっています。経済産業省によれば、AIは2025年までに最大34兆円の経済効果と300万人分の労働人口に匹敵する効果をもたらすと推計されています。

この他にも、さまざまな調査で明らかにされているAI活用と経済成長の相関関係は、日本経済の未来に対して、決して見過ごすことはできないものとなっています。

データサイエンティスト協会が2023年に行った調査によると、日本におけるAIの導入率は13%で、アメリカの30.2%と比較して大きな開きがあることが分かっています。しかし、AIに対して不安を感じている割合は、日本が16.5%であるのに対し、アメリカは41.4%とポジティブなイメージを持つ人が多く、今後の導入・活用が進むことが期待できます。

AIの長所と短所、好ましくない側面

しかし、AIは両刃の剣であり、大きな潜在的メリットをもたらすと同時に、大きな課題ももたらします。プラスの面としては、AIにより、セキュリティ担当者は脅威の検出やセキュリティイベント処理などのタスクを効率化できます。この効率化により、エキスパートはより複雑なタスクに集中できるようになります。

負の側面としては、サイバー犯罪者がAIを悪用した高度な攻撃を仕掛け、組織のインフラストラクチャ内の脆弱性を突いています。なかでも生成AIを悪用したフィッシング詐欺が増えており、機密データと業務が危険にさらされるなど、企業にとって重大な脅威となっています。

加えて、サイバーセキュリティ分野におけるAIスキルの需要の高まりは、職務に必要なスキルセットの水準を高め、組織と個人の両方にプレッシャーを与えています。

ここ最近、グローバル企業の採用担当者は、標準的なサイバーセキュリティツールを理解しているだけでなく、常に進化する脅威の状況にも精通している候補者を求める傾向にあります。高度なAI ツールは比較的最近導入されたにもかかわらず、何年もの経験を要求する組織すらあるのです。以前から、企業が求めるセキュリティ人材のスキルは高い傾向にありましたが、このスキルギャップをさらに悪化させています。

AIによる脅威に対抗するには、同様に洗練されたAIによる防御が必要

AIは驚異的なペースで進化しており、FacebookやXなどの主要なテクノロジー・プラットフォームの成長率を上回っています。この急速に加速するテクノロジーに追いつく唯一の方法は、それを完全に受け入れることではないでしょうか。

AIの支援がなければ、企業はますます拡大する一連の脆弱性の影響を受けやすくなり、データ、業務、ブランドが危険にさらされます。

一例として、金融サイバーセキュリティの領域を考えてみましょう。AI駆動型アルゴリズムは、膨大なデータセットを迅速に分析し、異常なパターンを検出し、潜在的な不正行為を特定します。しかし、不正行為者はAIを利用して、正当な取引を模倣する高度な攻撃を仕掛けることが多くなっており、従来の方法では検出が非常に困難になっています。

このような脅威に効果的に対抗するために、金融機関はこれらの複雑なパターンを識別できるだけでなく、悪意のある行為者の一歩先を行くように適応できるAIを搭載したシステムを採用する必要があります。

AIは人間の能力を高める強力なツール

AIは成長の機会と潜在的なリスクという相反する側面をもたらします。AIが人間に取って代わるのではないかという懸念はもっともですが、その懸念には根拠がないことも少なくありません。AIは、特に生成タスクや予測タスクにおいて、依然としてかなりの部分で人間の入力を必要としています。

結局のところ、今日のAIは自律的とはほど遠く、効果的に機能するためには人間の専門知識と入力に大きく依存しているのです。

例えば、医療において、AIは膨大なデータセットを分析し、医師が病気を診断したり、患者の転帰を予測したりするのに役立ちます。しかし、最終的な意思決定の権限と責任は、臨床判断とAIの洞察を統合する医師本人にあります。AIは医師や医療従事者の能力を強化しますが、彼らに取って代わるものではありません。

同様に、金融分野では、AIを活用したアルゴリズムがリスク評価や不正検出などの日常的なタスクの自動化に役立ちます。ただし、特に複雑でリスクの高い状況では、これらのシステムは、必要な監視と重要な決定を行うエキスパートの監督下で運用されています。

また、小売業界では顧客へのレコメンド、在庫管理、サプライチェーンの最適化にAIを活用している企業が競争上の優位性を獲得しています。システムへのAI統合を怠ると、顧客満足度、運用効率、収益性の面で遅れをとるリスクがあるのです。

AIの急速な成長と進化は否定できないため、AIに精通していない企業が時代遅れになる可能性は深刻な懸念事項です。AIが人間を完全に置き換える能力は限られているため、AIについて、脅威ではなく、人間の能力を高めてさまざまな分野で成長を促進する強力なツールとして捉える必要があります。

AI時代の繁栄を手にするために

AIテクノロジーの急速な進歩は否定できないものであり、企業にとってチャンスと課題の両方をもたらします。

AIを活用した脅威の進化に立ち向かうには、むしろ組織は高度なAI防御を採用して積極的なアプローチを取る必要があると言えるでしょう。AI主導のセキュリティは、現代の脅威の複雑さをフィルタリングし、企業を脆弱性から保護し、企業を繁栄させるために不可欠といえます。

AIが人間の生活を豊かにし、さらなる発展を促す機会は計りしれません。この新たな時代の重要性を認識し、AI テクノロジーを取り入れる意思決定者は、組織の成功を実現するだけでなく、従業員や地域社会の人々が繁栄する機会も生み出すことができるでしょう。

著者プロフィール


三浦デニース(オープンテキスト株式会社代表取締役社長)

最先端のテクノロジー企業で33年以上勤務し、エンタープライズデータ管理、デジタルトランスフォーメーション、アナリティクス、カスタマーエクスペリエンスを中心に、日本およびアジアパシフィック全域における企業の成長と拡大を支援するためのGo-to-Market戦略の陣頭指揮において豊富な経験を持つ。 現在はオープンテキスト株式会社代表取締役社長として、日本におけるビジネスを牽引し、AI導入に不可欠なデータ管理やセキュリティの重要性などを訴求している