あらゆる製造業の生産工程の中には何らかの研磨工程が組み込まれているとされるが、今、そんな研磨工程は危機的状況に直面しているという。今回は3Mの相模原事業所内にある「3M ロボット研磨ラボ」にて、同社が持つ研磨材の技術や自動化についてお話を聞くとともに、実際に研磨作業を体験することで感じた研磨工程の奥深さについてお伝えしたい。

  • 3Mのキュービトロン3製品群

    3Mの工業用研磨材「キュービトロン3」の各種製品群

危機的状況の研磨工程と3M キュービトロンの歴史

研磨工程は製造業において必要不可欠な工程であるものの、きつい・汚い・危険である3Kの要素がある、機械からくる振動、飛び散る粉塵、響き渡る騒音など、1日作業をしていると身体に何らかの支障をきたしてもおかしくない環境要因であることから、慢性的な労働者不足が続いており、60代の熟練工でも若いと言われるといわれるほどの高齢化、それに伴う継承者不足などが現状の課題として顕在化しているという。

そうした中で3Mは、身体への影響をなくした安全性の高い研磨工程向け製品を提供するとともに、研磨しやすい高性能な製品を追求し、生産性向上を目標に開発を進めてきた。1981年には、一般的アルミナ系砥粒と比べ微破砕で堅牢性を持つセラミック砥粒を採用した「3M Cubitron(キュービトロン)」を立ち上げ、2012年には精密成型三角形形状の「キュービトロン2」を、そして2023年には分子結合技術を改良し、精密成型砥粒を再設計した「キュービトロン3」を開発してきた。

  • 市場従来品のオフセット砥石とキュービトロン3を比べると火花の出具合が異なる

    市場従来品のオフセット砥石とキュービトロン3を比べると火花の出具合が異なる

3Mの最新世代品となるキュービトロン3は、高い研磨力と持続性、生産性の最大化、研磨時の熱を抑制するといった特長を有し、前世代品のキュービトロン2と比較した際にも、60%ほどの長寿命化、60%の速度向上、88%の振動低減を実現しているとする。

  • 研磨作業後の市場従来品であるオフセット砥石の長さ

    同一条件による研磨作業後の市場従来品であるオフセット砥石の長さ

  • キュービトロン3の作業後の長さ

    同一条件による研磨作業後のキュービトロン3の長さ。同じ条件で作業を行った場合、キュービトロン3の方が寿命が長いことがわかる

実際に研磨工程を体験してみた

今回、実際に市場従来品とキュービトロン3のファイバーディスク/切断砥石を使って、研削作業と切断作業を体験させてもらった。体験の中で、最初に感じたのは作業に使うグラインダー自体が重いということ。1日中作業をすると肩や腕に疲労が蓄積すると担当者は述べていたが、体験してみて、見た目よりも重労働であることが分かった。

  • 研削作業の様子

    研削作業の様子。手にしているグラインダーは見た目はそこまで大型のものではないが、実際に使ってみるとその重さが身体への負担となってくることが良く分かった

また、従来品、キュービトロン3のどちらの作業においても、ディスクの高速回転によって発生する遠心力が生じるため自分が思った方向にグラインダーを動かすことが出来ず、熟練の技が必要であると感じたとともに、対象物を削りやすいか削りにくいか、ほんの少しの差が作業者にとっての負荷を考えれば、実は大きな差になることも強く感じた。

さらに、想像以上に火花が飛ぶため、専用の衣服やマスクを身につけて安全性を確保しなければならないことも身体の自由が制限されるという負担となる。特にマスクは顔を確実に守るために締め付けが強く、呼吸を含め、身体への負担は大きい。そうした作業者の負担を軽減するためには、拘束時間を減らすために作業をいかに効率化し、生産性を向上させるかが重要であることも実体験を通じて感じた。

  • 切断作業の様子

    切断作業の様子

実際に作業を体験させてもらったが、素人の身からしてもキュービトロン3で研磨するか、市場従来品で研磨するかでは、作業の難易度が違った。特に振動を感じづらい点と、研磨のしやすさは一目瞭然で、実際にタイムを計っても作業速度が向上したことが見て取れた。

  • 市場従来品とキュービトロン3で切断作業を行った結果

    市場従来品(左)とキュービトロン3(右)で切断作業を行った結果。どちらも一定の決まった時間だけ作業をしたが、キュービトロン3の方が効率的に作業が行えたことが分かる

研磨工程はロボットで自動化できないのか?

人手不足かつ手作業が重労働であるならば、現代、製造業全体としてトレンドになっている自動化、ロボット化を研磨工程にも導入すれば良いのではないかという意見が出てきそうではあるが、これが一筋縄ではいかないのだという。

研磨といっても1種類しかないわけではなく、求められる研削・研磨能力が大きい順にざっくりと「切断」「研削」「バリ取り」「クリーニング」「化粧仕上げ」、フローリングの表面を紙やすりで滑らかにする処理である「サンディング」、自動車の車体などで行われる「ポリッシング」の7分類あるとのこと。研磨用途、被研磨物の材質・形状によって研磨条件は異なるため、用途に応じた自動化システムが必要になり、自動化するのが難しいという。

また研磨剤は劣化してくると取り替える必要があり、交換作業には人手がいることから、ロボットを導入する価値が薄くなり、その点をどう対応していくかが今後ポイントとなってくるとのこと。

  • ロボットが作業を行う様子

    ロボットが研磨作業を行う様子

しかし作業の質の点でいえば、通常、手作業で行う場合は角度をつけて削り、目視で確認しながら何度か削る作業を繰り返し行って調整していく必要があるが、ロボットであれば大きな研磨砥石で、一括して作業を行えるなど、工程によっては効率が上がるとする。

  • 手作業による作業の様子

    手作業による作業の様子

  • 手作業で行う研磨よりもロボットで行う研磨の方が早く作業を終えられる

    手作業で行う研磨とロボットで行う研磨を比べるとロボット研磨が一番早い。ちなみに、一番左がキュービトロン3でのロボットによる研磨、順に2本目がキュービトロン3での人による手作業、3本目が従来品での人の手作業。ロボット、人の手作業ともにキュービトロン3による研磨作業がの方が焼けが少ないことも分かる。焼けが少ないと焼けを除去する作業が不要になるため生産性の向上につながる

そうした中で、3Mではロボット用途に活きる研磨材を模索し、高研磨力、長寿命、均一な仕上げの3軸を可能にすることで、少しでも自動化の障壁となっている部分を超えられる研磨材の開発に取り組んでいる。

加えて手作業で行っても、ロボットで行っても作業スピードをより速くできる研磨材の実現も目指していると担当者は話してくれた。現代は自動化、ロボット化に注目が集まりやすいが、3Mでは「3M ロボット研磨ラボ」にて、手作業で行うところも、ロボットで行うところも、実際に体験しながら両軸で困りごとを見つけていき、顧客に合った提案をしていると話す。簡単に自動化を導入できない工程だからこそ、「ロボットでも、手作業でもスピードを速くできる、研磨材の性能を追いつかせたい」と話しており、今後の開発に意欲をみせていた。