米大統領選で有利になったトランプ氏 世界分断の時代に問われる日本の進路

全ての輸入品に一律10%課税

 米大統領選の共和党候補として正式に指名されたトランプ前大統領がその直前、銃で襲撃された。ライバルの民主党・バイデン大統領が「結束」を呼び掛けたことも含め、分断が定着する米国中で「危機に際し党派を超えて団結する米国」をアピールする形になった。

 いずれにせよ、様々な訴追を受けるトランプ氏の窮状は一変した。不幸な事件とはいえ、結果的に11月の大統領選はトランプ氏有利になったと見る向きは多い。「もしトラ」(もしトランプ氏が大統領に返り咲いたら)から「確トラ」(確実にトランプ氏勝利)になり、日本への影響も現実味を持って考えなければならなくなった。

 共和党は襲撃事件の2日後の大会で綱領を採択。トランプ氏の事実上の選挙公約で、大型減税の恒久化や規制緩和による経済成長を打ち出した。富裕層や大企業への増税を掲げるバイデン氏とは正反対だ。綱領では、エネルギー生産に関する規制の撤廃も掲げ、石油・天然ガスの増産でエネルギー価格を引き下げる方針を盛り込んだ。増産が実現すれば、円安で苦しむ日本に恩恵をもたらす可能性がある。

 一方、前回の任期時よりも国内産業や労働者を保護する政策を強める可能性が指摘されている。トランプ氏は全ての輸入品に一律10%課税する方針だ。米国は日本の最大の輸出相手国で約20%を占めるだけに、影響が直撃しかねない。「強いドル」を求めるトランプ氏によってインフレやドル高・円安が加速するとの見方も出ている。

 大統領選前の9月には、次期首相を決める自民党総裁選が行われる。

 4月、岸田文雄首相の後見人である麻生太郎副総裁はトランプ氏と米ニューヨークで面会。防衛費増額などを実現した岸田首相の成果をアピールしたが、内閣支持率が低迷する岸田首相の再選は予断を許さない。

 トランプ氏と面会したことがある総裁候補は、外相経験者の岸田首相と、茂木敏充、河野太郎両氏ぐらい。しかし、いずれもパイプがあるわけではない。そんな中でも、トランプ氏と対等に渡り合える外交能力があるか否かが、総裁選の焦点の一つに急浮上することになるだろう。