クアルトリクスは7月24日、カスタマーエクスペリエンス(CX)/従業員エクスペリエンス(EX)に焦点を当てたイベント「クアルトリクスカンファレンス~AIの力で、人間らしいつながりを~」を東京国際フォーラムにて開催した。

基調講演の前半は米クアルトリクス CEO ジグ・セラフィン氏、クアルトリクス カントリーマネージャー 熊代悟氏らが登壇。クアルトリクスのビジョンについて語り、後半はユーザー企業2社がそれぞれの顧客体験・従業員体験の向上に向けた取り組みを紹介した。

本稿では、前半で言及されたクアルトリクスの取り組みについてダイジェストでお届けする。

着目すべき“体験”の価値

講演冒頭、熊代氏は来場者ならびにパートナー協賛各社への謝辞を述べ、「日本でエクスペリエンス管理(XM:Experience Management)を活性化していきたい」と改めて強調。イベントに合わせて来日したセラフィン氏を紹介した。

  • 熊代悟氏、ジグ・セラフィン氏

    (写真左から)クアルトリクス カントリーマネージャー 熊代悟氏、米クアルトリクス CEO ジグ・セラフィン氏

登壇したセラフィン氏によれば、フォーチュン50社のうち、43社がクアルトリクスの製品によってエクスペリエンス管理を行っており、「日本でも500社以上に採用されている」という。

「例えば、LIXILはクアルトリクスの製品を使って従業員エクスペリエンスプログラムを実施し、エンゲージメントを5カ月で10%向上させました。また、BMWグループでは、大規模に顧客の声を収集し、3日以内に90%の顧客のフォローアップをしています。その結果、顧客ロイヤルティと購買行動の改善に成功しました」(セラフィン氏)

同氏は、「Qualtricsを使用して全てのチャネルから得たデータによって、私たちはAI革命の準備を整えることができた」と続ける。同社は、AI関連の機能を「Qualtrics AI」と総称し、製品全ての土台となる「XM/os」に組み込んでいるほか、2023年7月には、2027年までにグローバルで生成AIに5億ドルを投じることを発表した。加えてカンファレンス当日、今後5年間にわたり、日本に1億米ドル以上の投資を行うことを発表している

AIの活用により、人間は煩雑な作業から解放され、ミッションクリティカルな業務に注力できるようになる。セラフィン氏は、「クアルトリクスの目標は、ビジネスをより人間的なものにすること」と説く。これは、人々の興味関心や好き嫌いを理解することにより、組織と顧客や従業員との“つながり”をつくることであり、人口減少やリーダー育成が課題になっている日本において特に重要なのだという。

「私たちの調査で、日本の従業員には危険な兆候があることが明らかになっています。従業員のウェルビーイング(幸福感)が、過去3年間で14ポイント低下しているのです。より待遇の良い環境が見つかれば、彼らは転職してしまうでしょう」(セラフィン氏)

同氏は、「従業員が前向きに仕事に取り組み、素晴らしい経験をできている企業は長期的に価値が高まる。顧客体験においても同様だ」と語り、満足度の高い顧客の価値について調査したハーバード・ビジネス・レビューの研究結果を紹介した。

調査からは、目標とすべきは顧客満足度の向上ではなく、顧客と感情的につながることだと分かったのだという。

「感情的につながっている顧客の価値は、52%高くなるという結果が出ています。顧客は、つながりを生み出したブランドに応えるのです」(セラフィン氏)

だが、そうしたつながりを築いていく上で課題もある。顧客や従業員が不満を抱いたとき、それを企業に伝えようとするとは限らないことだ。さらに、昔に比べて顧客が新しいブランドに乗り換えたり、従業員が転職したりすることはたやすくなっている。

「唯一の解決策は、一人一人の顧客や従業員を深く理解し、彼らが期待するものをあらゆるタッチポイント、あらゆるやり取りで提供することです。これはとても難しい課題ですが、私たちは長い間、その解決に意識的に取り組んできました」(セラフィン氏)

エクスペリエンス管理におけるAI活用

さまざまなやり取りの中から、どのように顧客や従業員の声に耳を傾け、記録し、解析するか。どのような方法で、より深く一人一人を理解していくか。その結果をいかに迅速かつ効果的に行動に反映していくか。――こうしたことを踏まえ、クアルトリクスが設計したXM/osの核には、「エクスペリエンスiD(XiD)」「iQ」「xFlow」の3つのコンポーネントが用意されている。

セラフィン氏は「このXM/osをさらにパワーアップさせ、価値のあるものにしていく構想があります」とした上で、「だが、エクスペリエンス管理の拡張には課題がある」と続ける。1つ目は扱うデータの量が膨大であること、2つ目はそのデータの中から何が本当に重要なのか読み解くのが困難であること、そして3つ目は、実際に大規模な変化を起こし、優れたエクスペリエンスを提供する方法が見えないことだ。

「そこでQualtrics AIの出番です。Qualtrics AIによるエクスペリエンス管理では、組織は全ての顧客と従業員に対する理解を深め、人間的なつながりを大規模に生み出すことを可能にします」

同氏曰く、Qualtrics AIは100以上のAIモデルを有し、感情分析や意図の検知、予測、離脱・解約の防止、セグメンテーション、タスク生成まで可能となっている。加えて、「XiDとの連携により、顧客や従業員一人一人にとって何が重要なのかを学習・記録し、理解を深められる」のだという。

セラフィン氏は、Qualtrics AIではOpen AIのようなパブリックなモデル、プライベートな独自モデルなどを問わず、最適なLLM(大規模言語モデル)を使用でき、エンタープライズグレードのセキュリティとコンプライアンスを担保する」と説明。「さらに、今皆さんが利用しているSoR(System of Record)やビジネスツールと連携することも可能」だとQualtrics AIの利点を説いた。

日本市場に寄せる期待

クアルトリクスが毎年CEOを対象に実施している調査によれば、「AIを導入している」と回答した割合は日本が50%、米国が38%、欧州が28%だったそうだ。セラフィン氏はこの数字を引き合いに出し、「日本ではAIによって非常に重要なことが起きつつあると感じている」と話す。

「本日、クアルトリクスが今後5年間で日本に1億ドル(約150億円)以上投資することを発表できることを嬉しく思います。日本企業がより良い顧客体験や従業員体験を提供することで、収益性を高め、成長を促進するお手伝いができればと考えています」(セラフィン氏)