クアルトリクスは8月2日、眼鏡専門店チェーンのパリミキがクアルトリクスの提供するカスタマーエクスペリエンス(CX)管理ソリューション「Qualtrics CustomerXM」を全店舗で採用したと発表した。
パリミキでは、多様化する顧客ニーズに寄り添ったサービスを展開するために、顧客の声をリアルタイムで把握するべくソリューションの導入を検討。さまざまなサーベイが可能な拡張性や、データの集計が容易であること、権限管理機能を備え、調査結果の迅速な店舗展開が可能なことなどから、Qualtrics CustomerXMの導入に至ったとしている。
同日開催されたクアルトリクスのCX/EXイベント「X4 on Tour Tokyo」の基調講演では、ユーザー企業の1社として、今年4月にパリミキ 代表取締役社長に就任した恒吉裕司氏も登壇。今回、講演内容を掘り下げるかたちで、同氏にCX向上に向けた取り組みや今後の展望について伺う機会を得た。
「お客さまのため」と「売り上げ」のどちらを優先するのか
――今年4月に就任されて、売り上げや集客ではなく顧客体験にベクトルを向ける決断を下されたということですが、顧客体験に対する課題感と、売り上げとの兼ね合いでジレンマを感じていたのはいつ頃からだったのでしょうか。
恒吉氏:当社の経営理念として「お客さまとその未来のために」というのを第一に掲げていて、目の前のお客さまを大切にして接客しましょうというのを哲学としています。私が入社して6~7年目で会社が上場したのですが、上場後、株価や中期経営計画に縛られるようになってしまっていたところは感じていました。売り上げや利益の指標がどんどん現場に降りてきて、プレッシャーを感じながら販売することになります。
しかし、そんな指標はお客さまには関係ありません。収益は伸びて業界で圧倒的1位にはなったのですが、それが続くわけではないんですよね。そのうち眼鏡自体がコモディティ化して格安眼鏡店がたくさん出てきたこともあり、徐々にお客さまがパリミキから離れていったという経緯があります。
自分を含め、社員は皆「お客さまを第一に」という理念と、現実とのギャップを感じていました。反面、売り上げや利益がなければ自分たちの生活もままならないのはわかっています。
――どこの事業会社でもあるジレンマですよね。とは言え、そこで「顧客体験のほうを重視する」と明言するのは大きな決断だったと思うのですが、周囲の反応はいかがでしたか。
恒吉氏:こういうことは極端にやらないと浸透しないだろうと考えて、大々的に打ち出したのですが、まだ「そうは言っても売り上げでしょう」と思っている人もいるかもしれません。もともと私も営業をやっていたので、そう思われるのも分かります。
ただ、社員にはもともと、お客さまのためにという純粋な気持ちがあると私は信じています。顧客体験を重視するということに関してはすごく納得できるものの、疑問もあるというのが実情でしょう。
――店舗の目標には、CXに関する数値も指標として入っているのですか。
恒吉氏:毎日リアルタイムで全店舗の売り上げや来店者数などを全部見ることができるのですが、4月からはそこにNPS(ネットプロモータースコア:企業やブランドに対する愛着や信頼度の指標。アンケートを基に数値化する)の評価を入れています。
店舗ごとに売上目標も設けてはいますが、4月からは営業の担当執行役員を置かず、私の直下は各ブロックのゼネラルマネジャーにしています。数字を見てはいますが、せっつくようなことは全然していません。それをやってしまうと、言行一致になりませんから。
もちろん、(代表取締役社長である)私には数字的な責任がありますが、実は売り上げについて何も言わなくなってからのほうが数字は良くなっています。
――それは嬉しい誤算ですね。
恒吉氏:はい。本当は、数字は下がると思っていました。役員の間でも話して、そこはいったん目をつぶって、ほかの経費で人件費などとは関係ないところを効率化することで、利益に対してもコミットしよう、と。例えば、家賃を抑えるためにちょうど来週、本社を移転することになっています。
――なるほど。そうした効率化でトータルでバランスを取ろうと考えていたら、むしろ売り上げが上がっていると。
恒吉氏:インバウンド需要が増えてきていたり、いろいろな要素の兼ね合いがあるので、全てが体験重視の方針を打ち出した効果とは限らないと思いますが、想定よりもかなり良い結果が出ていることは確かです。
デジタル化で分かったこと、取り組み始めたこと
――御社ならではのサービスの提供について、収集したアンケートデータを基に取り組み始められていることはありますか。
恒吉氏:今はまず、データの量を増やすことに注力しているところです。現時点でも見えているのは、全体の平均値よりも低い部分なので、そこを上げていくような取り組みをやろうとしています。
これは、データに加えて、CXを高めるためにどうしたらよいか、というのを社内で議論した内容がベースになっているのですが、実はこの93年間、パリミキには営業マニュアルのようなものがなかったんです。なぜかと言うと、お客さまのために、という哲学では、一人一人に合わせた接客をするので、マニュアル化してしまったらいけないのではないかと。それが功を奏していた時代もありました。
しかし今、同業他社ではきっちりマニュアルがありますから、マニュアルがないことによるマイナス面が見えてきてしまったんです。例えば、お客さまの対応中に別のお客さまが来店された場合にどうするか、といった判断が属人的になっていました。すると、時にはいらっしゃいませすら言わないケースがあり得るわけです。
今回、顧客体験を重視すると発信したことで、「実はこう思っていたのですが」といった声が上がって来たんですね。そうしたマイナス面をゼロにする基準をつくって、各店舗で実行し始めています。
――データを見て初めて分かった、といったことはありますか?
恒吉氏:もともと当社は年配の方に人気があって、60代~80代のお客さまはずっと減っていないのですが、20代~40代がずっと減っていたんです。しかしNPSを見てみると、顧客数が減っていない60~80代のお客さまの評価よりも、減っている20~40代の評価のほうがすごく高い、というギャップが出てきました。
その理由は店舗ごとに違うかもしれないので、今データを蓄積しながら分析しているところです。眼鏡店の場合、接客時間が長くなるので、対応する社員の接客態度や言葉遣い、服装に左右されやすいところはあります。そういうことが改めて見えてきた感じですね。
――今後の展望について教えてください。
恒吉氏:私の考え方なのですが、経営者としてコミットしている業績は達成するとして、社長は必ず交代していくものなので、次の世代の人に受け継げる会社の基盤をつくる必要があると考えています。
自分は新卒で入社したこともあってパリミキに愛着がありますし、この会社を将来より良くするために自分ができる最大限のことをしていきたいですね。
今一番力を入れているのはDXですが、小売の場合、人間がやることとITを使うところをいかに切り分けていくかが大切です。ITで効率化を図りながら店舗数を増やし、さらに当社のサービスを喜んで使っていただける方を増やしてていきたいと思っています。
――今日、Qualtrics CustomerXMを全店舗で採用されたことが発表されました。ほかにも動き始めていることはありますか。
恒吉氏:紙モノをやめると宣言しました。従来は、紙に記録したデータを基にDMを出したり、電話したりしていたのですが、全部デジタルで繋げて、デジタルの会員制へとシフトしようとしています。これは、次の世代のためにもう急ピッチやっておかないといけないことだろうと思っています。
また、EXについても、委員会のようなものを設けていて、社員のリアルな声を聞いて改善していく活動をしています。今日、(X4 on Tour Tokyoで)いろいろな方のお話を聞いて、EXもCXと合わせて考えることの重要性を改めて感じました。その辺りをどう進めていくかは、今後、協議していく必要があると考えています。