創業93年の眼鏡専門店チェーン、パリミキ。かつては全国で1200店舗が運営されていたが、業績の不振から不採算店の閉鎖を進め、現在では620店舗を展開する。
こうした現状を打開すべく立ち上がったのが、今年4月にパリミキ 代表取締役社長に就任した恒吉裕司氏だ。同氏は就任後、売り上げよりも顧客満足度の向上を重視する方針を打ち出し、組織体制も変更。現在は、全国各地にある620店舗を自ら回り、従業員一人一人の声に耳を傾けているという。
8月2日に開催されたクアルトリクスのCX/EXイベント「X4 on Tour Tokyo」の基調講演では、ユーザー企業の1社として、この恒吉裕司氏が登壇。同社のCXの取り組みについての説明と、Q&Aセッションが行われた。
本当に“顧客の声”に向き合うために
パリミキでは、経営理念として「お客さまとその未来のために」を第一に掲げ、約30年前からハガキによる顧客アンケートを実施するなど、顧客の声に耳を傾けてきた。しかし、ハガキにあるコメントの多くは社員を称賛するものであるにもかかわらず、売り上げが徐々に低下し、店舗数も減少していたというのが実情だ。
アンケート結果をもっと分析して活かしていきたいと考えたが、紙ベースのアンケートの集計は手間がかかり、詳細なデータをとることも難しい。コメントされた顧客の不満に対して、各店舗が個別に対応することはできても、根本的な解決に至らないという問題もあった。また、ハガキを出すことにあまりなじみのない若い世代の声が収集できない点も、悩みの種だったという。
こうした状況の中、恒吉氏はマーケティング担当の取締役と話し合い、改めてNPS(ネットプロモータースコア)に着目することで意見が一致。CX管理ソリューション「Qualtrics CustomerXM」の導入を決定した。だが、導入にあたっては課題もあったと恒吉氏は振り返る。
「社員は当然、接客に自信を持っています。そこにさらに時間をかけるのは人手も足りないので難しいとか、デジタルでは自分のお得意さまに案内できなくなるといったネガティブな意見がたくさん出てきました」(恒吉氏)
そこで4月に社長に就任した恒吉氏がまず決断したのが、全ての会社のベクトルを顧客体験に向けることだった。
「社員に、『うちの会社が重視するのは売り上げか、利益か、お客さま体験か』と聞かれたら、はっきりとお客さま体験だと伝えています」(恒吉氏)
さらに日本を6つのブロックに分け、主要店舗の店長やリーダーに自身の方針や会社の方向性を伝えた。5月からは恒吉氏自ら、620店舗を順次訪問し、社員一人一人と対話しているところだ。
どこの企業にも、経営陣と現場の溝は少なからずあるだろう。現に、パリミキでも「朝令暮改になるのではないか」といった声もあったそうだ。そうした懸念を払拭する策として、恒吉氏は自らが直接、伝えることを選んだのである。
CustomerXMの導入によって、リアルタイムで顧客の声を吸い上げることができるようになり、店舗ごとの問題解決だったものを全社最適化につなげることがやりやすくなったという。
とは言え、いろいろなデータを集めるだけでは何も改善されない。恒吉氏は「今はデータを蓄積してPDCAを回し、経営に活かす取り組みを進めている最中」だと語り、前半を締めくくった。
自ら店舗を訪れることで得られる“気づき”
後半、クアルトリクス カントリーマネージャー 熊代悟氏が聞き手を務め、Q&Aセッションが繰り広げられた。
――なぜ、我々の製品を選んでいただけたのか改めてお聞かせください。
恒吉氏:改めて「熱狂的なファンづくりをしたい」と考え、ハガキで行っていた顧客の声の収集をデジタル化したいと思ったときに、何社かお話を聞く機会がありました。
その際当社が抱えてた問題に対して、一番考えてくれたのが御社だったことと、担当者の方の熱意が強かったことです。当社の社員とも息が合って、うまくやれるのではないかと感じました。
――そういったところでも選んでいただけたのはありがたいです。導入後、社長自ら全店舗を回っていらっしゃるそうですが、そこにはどのような想いがあるのでしょうか。
恒吉氏:まず、30年間ハガキでアンケートはとっていましたが、本当にお客さまに向き合っていただろうか、というところはあります。目の前の売上の最大化に気をとられて、結果的にお客さまが減ってしまっているというのを裏で感じていました。
社長に就任して、今変えなければ会社がなくなってしまうのではないかと思ったんです。ここは自分が決断しなければいけないという非常に強い使命感がありました。
とは言え、トップが言っただけで会社が変わるかというとやはり全く変わらないので、組織変更も行いました。私の直下に顧客満足度推進部を設置し、CXの向上を図れるようにしています。
その上で、各店舗を回っていますが、反応はすごいです。これまでコロナ禍だったこともあって、動画でメッセージを発信したりはしていたのですが、実際に店舗にいくと「動画で見た人が来た」みたいな(笑)。社長が来るのは20年ぶりですとか、入社して初めて社長に会いました、などと言われます。
年内で全店舗に行くことにしているのですが、そうすると社員の方も「これは経営陣、本気なのではないか」と思ってくれるようです。
――自ら店舗を回られて、気づいたことはありますか。
恒吉氏:訪問するときは、取締役に1人、一緒に来てもらっています。事前にエリアマネジャーに話を聞いて、その店舗で働く人の情報をインプットしますが、行ったら私はもう社員と話すだけです。社長が来ると皆最初は少し緊張するので、まずは店長と話しているとだんだん打ち解けてきて、最後にはいろいろ話してくれるようになります。
その傍らでは、取締役とエリアマネジャーが店舗内の動線など、行き届いていないところがないかをお客さま目線で確認しています。ただ行って社員と話すだけではなく、お客さまの体験に関する課題を見つける作業を並行して展開しているところです。
――今後に関して、展望などお聞かせください。
恒吉氏:今、CX中心で進めていて、CXを向上させる上でもまずはデータがないと、ということで、データを増やす取り組みを推進しています。今日はCXのお話をしましたが、今後はEXに関しても、データを取ったりしていかなければいけないのではないかと認識しています。