楽天グループは8月1~4日の4日間、東京ビックサイトにてグループ最大級の体験イベント「Rakuten Optimism 2024」を開催している。昨年と同様リアルでの開催だ。

1日の基調講演には代表取締役会長 兼 社長の三木谷浩史氏が登壇。「AIの民主化を実現していく」と切り出した三木谷氏は、楽天グループが掲げるAI戦略を説明するとともに、電波がつながりやすい「プラチナバンド」を獲得したモバイル事業の今後の展望を語った。

  • 「Rakuten Optimism 2024」の基調講演に登壇した楽天グループ 代表取締役会長 兼 社長 三木谷浩史氏(8月1日)

    「Rakuten Optimism 2024」の基調講演に登壇した楽天グループ 代表取締役会長 兼 社長 三木谷浩史氏(8月1日)

楽天市場にAI機能「コンシェルジュ」搭載へ

「今日の講演の内容はAIとの壁打ちで考えてきた」という三木谷氏は、AIの民主化について「AIは特定の誰かによって使われるべきではない。世界中のあらゆる人々が自由にAIを活用できる世界を目指す」と語った。

三木谷氏は前回の「Rakuten Optimism 2023」で、米OpenAIと最新AIによるサービス開発に向けて協業すると発表。そして2023年11月には、新たなAIプラットフォーム「Rakuten AI for Business」を2024年以降、本格的に提供開始すると発表した。

楽天グループが持つ国内最大級のビックデータとOpenAIの最新技術を組み合わせ、営業やマーケティング、カスタマーサポート、システム開発など、さまざまな企業活動を支援するサービスを提供することを目指している。

  • 「AIの民主化」を掲げる三木谷氏

    「AIの民主化」を掲げる三木谷氏

2023年12月末時点の楽天経済圏の会員数は1億を超えており、2023年のポイント発行数は6500億超だ。ECや金融、旅行事業など展開するサービスは70以上で、「GoogleやMeta、Amazonといったビックテックでも、これほど幅が広くて深いデータは持っていないだろう。OpneAIは楽天グループのデータの豊富さとビジネスモデルに目を付けた」と三木谷氏は自身を見せた。

同社は日本語に最適化した独自の大規模言語モデル(LLM)を2024年3月に公開している。仏のAIスタートアップMistral AIのオープンモデルを基に開発された70億パラメータのLLMで、「オープンな日本語LLMにおいてトップの評価を獲得している」(三木谷氏)という。

実際に、楽天グループ社内で生成AIの活用が進んでいる。楽天証券では、顧客の投資基礎知識やレベルにあった投資方法やおすすめ記事をAIが提案し、楽天生命では、代理店向けのサービスに生成AIの機能を連携させている。物流領域でのAI活用も進んでおり、出荷数を予測したり作業スタッフを最適化したりする独自AIシステムを開発しているという。

「マーケティング効率、オペレーション効率、クライアント効率すべてを、AIの活用で20%増にする目標『トリプル20』を掲げている」(三木谷氏)

  • AI活用を社内外に広げていく

    AI活用を社内外に広げていく

同社は社内の生産性だけでなく、顧客体験の質もAI活用で向上させる方針だ。その一例として「もうまもなく提供を開始する」(三木谷氏)という楽天市場で使える「コンシェルジュ機能」が紹介された。

例えば、ユーザーが音声やテキストで「タルトに合う小麦粉を教えて」と聞くと、AIが該当する商品の一覧を表示する。「500円以下がいい」といった追加の質問にも対応するコンシェルジュのようなAI機能を実装する予定だ。

  • 今後展開予定の「コンシェルジュ機能」

    今後展開予定の「コンシェルジュ機能」

「楽天グループのAIは世界の中でもトップクラスだと自負している。AIによって世界は根本的に変わると、ひとりのユーザーとして強く思う」(三木谷氏)

契約回線数「750万件弱に」

三木谷氏はAIの民主化と同様、「携帯市場の民主化」も同時に実現させたいと考えている。モバイル事業の赤字は続いているが、反転攻勢の兆しも見えてきた。

特に楽天モバイルの契約回線数(MNO回線数)が堅調に推移している。2020年4月に携帯キャリアサービスを本格展開して以降、「月額料金0円プラン」を武器に契約回線数を伸ばしてきた。サービス提供4周年を迎えた2024年4月には650万回線に達し、その後2カ月あまりで50万回線増え、6月16日に契約数が700万回線を突破した。

そして三木谷氏は講演で「現在750万件弱のユーザーがいる」ことを明らかにした。

  • 楽天モバイルは6月末に「プラチナバンド」の商用サービスを開始した

    楽天モバイルは6月末に「プラチナバンド」の商用サービスを開始した

2022年5月に同プランの廃止を発表してからは契約数は落ち込んだが、KDDIから回線を借りる「ローミング(相互乗り入れ)接続」でデータ利用量の上限をなくした「Rakuten 最強プラン」の提供や、インターネット事業の既存顧客などへの営業攻勢による法人契約数の急増などさまざまな施策により、契約回線数を伸ばしてきた。

また6月27日には、電波がつながりやすい周波数帯「プラチナバンド」の商用サービスをついに開始した(東京都内の一部エリア)。課題だった通信品質を改善し、キャリア大手3社との差を埋めようとしている。「プラチナバンドの獲得は画期的なこと。楽天モバイルはつながりやすさも最強になる」(三木谷氏)

個人だけでなく法人契約数も好調に推移している。講演では建設業や介護施設を展開する木下グループに8000台のスマートフォンを導入したことも明らかにした。端末だけでなく、ネットワーク高速化サービスやセキュリティサービスなども提供し、グループ全体のDXを支援している。

  • 木下グループに8000台のスマートフォンを提供

    木下グループに8000台のスマートフォンを提供

三木谷氏は「新しい事業を始めたとき、世間から『なんでやるの』と言われ続けてきた。楽天グループの役割は、少しだけ先の未来を見て果敢な挑戦をし続けることだ」と講演を締めくくった。