群馬大学(群大)、生理学研究所(生理研)、アラヤ、同志社大学の4者は7月30日、ヒトが「健康にいいけれどもおいしくない食べ物」を選ぶ時に前頭前野が活動し、その活動は長期的な利益を最大にする自制心の強いヒトほど大きくなることを発見したと共同で発表した。
同成果は、群大 情報学部の竹鼻愛研究員(研究当時)、同・地村弘二教授、生理研の定藤規弘教授(兼任)、アラヤの近添淳一チームリーダー、同志社大大学院 脳科学研究科の松井鉄平教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、大脳皮質に関する学際的な分野を扱う学術誌「Cerebral Cortex」に掲載された。
健康にいい食事を取ることは、自身の健康につながるのは誰もが分かっていることだが、おいしさを優先して健康に悪い食事を衝動的に選んでしまうことはよくある。たとえば、脂肪分や糖分、炭水化物を多く含む食べ物は健康にはあまりよくないことがわかっているが、つい手を伸ばしてしまう経験は誰にでもあることだろう。おいしさとは食べ物を口に入れた瞬間に得られる目の前の利益であり、一方の健康とはすぐにはわからない長期的な利益だ。しかも、健康はおいしさのように感覚としてわかりやすくはないため、頭で考える必要があり、健康を優先するには「自制」が必要となる。
そこで研究チームは今回、健康を重視する食品選択を行う際にヒトの脳はどのように機能しているのか、その時の脳活動は自制とどのように関わっているのかを明らかにするため、おいしさと健康を指標にした食べ物をヒト被験者が選択する状況で、脳活動を計測することにしたという。
まず被験者により、食べ物がおいしさと健康的かどうかで評価され、「おいしいけど健康によくない食品」と「健康にいいけどおいしくない食品」に分類された。そして脳活動の計測中に、画面に表示されたこれらの2種類の食品のうち、どちらか食べたい方が選択された。ここで、「おいしいけど健康によくない食品」ではなく、「健康にいいけどおいしくない食品」を選んだ場合、おいしさより健康を重視したことに相当する。
加えて、将来得られる金銭報酬を選択する課題により、自制の強さが測定された。この課題では、獲得までの時間と金額が異なる2つの報酬について、どちらか欲しい方を1つだけ選ぶというものだ。たとえば、「今すぐ5000円をもらう」、または「1年後に1万円をもらう」という選択肢だ。ここで、「今すぐ5000円をもらう」という選択は目前の利益を優先した結果であり、衝動的といえる。一方で、「1年後に1万円をもらう」という選択は目前の利益よりも長期的な利益を優先しており、自制心が強いことを意味するという。つまり、獲得するまでに待つ必要があるが、報酬の量が多いという選択をする人は、自制心が強いということになるのである。
食べ物の選択における脳活動が調べられた結果、「健康にいいけどおいしくない食品」を選んだ時、つまり、おいしさより健康を重視する選択を行った時、前頭前野の大きな活動が観察されたとした。さらに、金銭報酬における長期的な利益を優先する、要は自制心が強いヒトほど、これらの領域の脳活動が大きいということも明らかにされた。一方で、自制心の強さは認知の機能と関係があるとこれまで考えられてきたが、認知機能は食べ物の選択における健康の優先とは関係がないことが示唆されたとする。
食べ物の選択は他の動物種にとっても大切な行動だが、健康を優先するという長期的な利益に基づく選択をすることはヒトに特徴的であると考えられ、ヒトで最も発達している前頭前野が健康の優先に関与していることは興味深い結果とする。そして、健康的な食生活の継続には、この前頭前野における自制の機構が重要なのではないかと研究チームは考えているとした。