テクノロジーの進歩により、「電話」の役割が変わろうとしている。
従来の電話はアナログPBX(Private Branch eXchange:構内電話交換機)と呼ばれる仕組みを導入していたが、今、急速に拡大しているのがクラウドPBXと呼ばれる新たな電話システムだ。同システムには通信量の削減や通話内容の分析などさまざまな機能が備わっているが、一方で「アナログPBXと同じ通話品質を保てるのか」といった懸念を示す企業も多い。
では、実際にクラウドPBXを導入した企業はどう感じているのか。
7月18日に開催された「Zoom Experience Day Summer」では、クラウド型電話サービス「Zoom Phone」を導入した2社が、導入に至った背景や導入効果について語るパネルディスカッションが実施された。登壇したのは、テテマーチ マーケティング部 ゼネラルマネージャー マーケティング・ディレクター 出口潤氏と、司法書士法人みつ葉グループ 業務推進室 室長 保坂勇太氏。モデレーターは、ZVC Japan ゼネラルビジネス営業本部ゼネラルビジネス第二営業部 部長 澁谷洋猛氏が務めた。
通話の目的に応じて異なるニーズ
パネルディスカッションの最初のテーマは「Zoom Phoneの導入背景」だ。登壇した2社はなぜクラウドPBX、中でもZoom Phoneの導入を決めたのか。
まず回答したのはテテマーチの出口氏だ。
出口氏によると、実は同社はZoom Phone導入以前から別のクラウドPBXのサービスを導入していた。しかし、あるときメンバーから「通話が不安定」という指摘が入ったのだという。
「それまで通話の接続については意識していませんでした。どちらかというと、トークスクリプトなどの方にだけ関心を持っていたんです。それでメンバーから接続に関する声をもらったときに少し考えたのですが、電話って聴覚だけしか使わないですよね。(オンライン)ミーティングなら視覚も使えるので、仮に音声に問題があっても画面共有などを使って何とかなるかもしれません。しかし、電話はそうではないんです」(出口氏)
電話においては聴覚だけが頼りであり、音声通話に課題があると営業以前にそもそもコミュニケーションが成立しない。そうなればセールスのメンバーも安心して話すことができず、顧客のCXも向上しない。つまり、電話において接続の安定は何よりも重要な要素なのだ。
そこで出口氏は「接続品質」に着目し、クラウドPBXの刷新を検討した。そこでトライアルを行ったZoom Phoneの安定感に惚れ込み、採用に至ったのだという。
「Zoom Phoneに変えてからは、メンバーからも『安定している』という声が挙がっています。我々インサイドセールスにとって重要なのは、5分や10分という短時間でどれだけお客さまとお話できるか、現状の課題をヒアリングできるかです。短時間で安定した通話ができる点が、Zoom Phoneを選んだ決め手です」(出口氏)
一方で、「長い時間通話する必要があった」と話すのはみつ葉グループの保坂氏だ。
「私たちの場合は、逆に長い時間ご相談者さまのお話を伺うことが多くなります。そうなると、課題になるのが通信費のコストです。いくら仕事の生産性を上げようとしても、ベースになる通話のランニングコストが高い状態では困ります。そこをクリアするためにZoom Phoneに切り替えました」(保坂氏)
みつ葉グループでは、Zoom Phoneに用意されたかけ放題のパッケージを使用したことに加え、それまで採用していたフリーコール(着信側が通話料を負担する電話サービス)をやめたことにより、通話コストを8割以上カットできたという。
切り替えがもたらした新たな可能性
Zoom Phoneの導入によって既存の課題を解決できた両社だが、それに留まらず、さらに今後のビジネスへの活用可能性を見いだしているという。Zoom Phoneで、何を実現できると考えているのか。
この問いに出口氏は、「インサイドセールスのレベルをもっと上げたい」と回答した。というのも、Zoom Phoneには「Zoom Revenue Accelerator」という付属サービスがあり、これを使うことで通話録音と書き起こし、録音へのコメント、話者の比率や話す速度の分析などが可能になるからだ。
「Zoom Phoneを採用したことで、メンバーの通話時間が長くなり、エンゲージメントスコアも高くなっています。仮説ですが、お客さまとのコミュニケーションが円滑になったことが理由だと思います。インサイドセールスにとって重要なのは、明確にお客さまの課題をヒアリングし、質の高い商談を設定すること。数だけとるのではなく、いかに受注に至る商談をとるかが大切です。Zoom Phoneを使うことで、そうした“良い商談”を多く実現できるように、僕ら自身もレベルアップしていかないといけないと感じています」(出口氏)
続いて保坂氏は「全社的にZoom Phoneを展開したい」と展望を語った。複数拠点を展開するみつ葉グループは、拠点や部署によってはまだアナログPBXを使用している。そのため、場合によってはアナログ回線で電話をかけた後、Zoom Phoneで通話するという二度手間が発生するケースもあるという。
「全てZoom Phoneで統一すれば、例えば東京の案件を福岡のオフィスで受けた場合、簡単に東京オフィスにつなぐことができます。ツールをまとめることで、部署間の連携も非常にとりやすくなると思います」(保坂氏)
この「ツールの統一」については、出口氏もかねてから恩恵を実感しているという。
「特に部門を管理する立場からすると、いろいろなツールがあることはストレスでしかありません。現在はZoomアプリでいろいろなことができるようになったので、管理コストがかなり削減されたと実感しています」(出口氏)
導入企業の目から見た、改善点
最後に「これからZoomに期待すること」として、両社からの要望が寄せられた。出口氏は、「現実的にはまだ難しいこともあるが、テクノロジーやプラットフォームで解決できることはたくさんあると思う」とした上で、次のように語った。
「(Zoomは)プロダクト的にはかなり網羅されているので、さらにうまく使っていくためにも、提案やレコメンデーションがいただけると非常に嬉しいです」(出口氏)
加えて、「Zoomのユーザーコミュニティのような場を盛り上げていただけたら、ユーザー同士でノウハウを提供し合ったりできるのでは」と言及。これに澁谷氏は「実はユーザーコミュニティはあるにはあるけれど、あまり稼働できていない」と明かした上で、今後の活動に意欲を示した。
一方、保坂氏は機能面について「より詳細なレポートのカスタマイズ」を要望した。
「Zoom Phoneでは200ライセンス以上作らせていただき、1日に500本、600本の通話を行っています。どれだけの時間通話しているかなどのレポートをグラフで出していただいていますが、それをより細かくカスタマイズできれば、会社の目標達成などにもつながっていくのではと思っています」(保坂氏)
この要望を受けて澁谷氏は、「そこは伸ばしていきたい部分」と同意した上で、「他のプロダクトも含めて、Zoomとして今後どんどんチャレンジしていきたい」と語った。
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企業にとって欠かせないインフラである「電話」の仕組みを根本的に切り替えるのは、そう簡単な決断ではないだろう。一方で、本セッションで語られたように、クラウドPBXの導入には多くのメリットがあるのも事実である。特に通話の内容を記録したり分析したりできるのは、アナログPBXにはない、クラウドPBXならではの機能だ。
クラウドPBXの台頭で、いよいよ電話の役割が変わるときが来たのかもしれない。