直径1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルに満たない微細な泡(ナノバブル)が気泡ではないことを、九州工業大学などのグループが発見した。重力により水中で沈む様子を顕微鏡で観察し、ナノバブルの正体が非ガス粒子であることを突き止めたという。非ガス粒子は水中の不純物に由来すると推測しており、高いとされるナノバブルの洗浄機能などとの関連を探る。

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    暗視野顕微鏡で観察したナノバブル(九州工業大学の植松祐輝准教授提供)

理論的にはナノバブルは表面張力により内部のガス圧が高まることで収縮して消滅してしまう。しかし、九州工業大学大学院情報工学研究院の植松祐輝准教授(物理学)によると、2000年代に長時間安定するナノバブルが実験で観測されたとする発表が相次いだ。ただ、2018年と2019年には海外の研究グループがナノバブルの質量を計測し、気泡ではなく、固体か液体の微粒子である可能性があると指摘している。

植松准教授は3年ほど前からナノバブルの研究を始めている。100年以上前に開発されて普及しており、光の散乱を使って試料を見る「暗視野顕微鏡」を用いれば、光の波長より短い直径のナノバブルを観察できるのではないかと思いついた。顕微鏡でナノバブルを直接見れば、時間経過にともない水中で気泡として浮くのか、浮力の少ない粒子として沈むのかを観察できる。

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    ナノバブルが重力により沈む様子をリアルタイムで観測できる暗視野顕微鏡(九州工業大学の植松祐輝准教授提供)

研究では、空気を3気圧で水に溶かした後に常圧に戻す加圧溶解法でナノバブルを発生させた。そのナノバブルが入った水を容器に入れ、底(0マイクロメートル)から上部(500マイクロメートル)まで一定の高さごとに暗視野顕微鏡で観察した。

計測したナノバブルは直径450ナノメートル程度で、発生直後は容器にまんべんなく広がっていたが、時間がたつにつれて沈んでいき、8時間後には多くが底に沈んだ。植松准教授は「大まかにいえば空気は水の1000分の1から100分の1程度の密度で軽い。水より重い気体は存在しないので、観測結果からナノバブルは非ガス粒子であると分かる」という。

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    高さごとのナノバブルの粒子密度。高さ0マイクロメートルが底で一番上が500マイクロメートル。0分ではどの高さにもナノバブルがある。120分、480分と時間がたつと下の粒子密度が上がり、沈んだことが分かる(九州工業大学の植松祐輝准教授提供)

ナノバブルが沈む様子のリアルタイム観測から、時間がたつと水中の微粒子が気泡ではなくなり、固体か液体で構成される別の非ガス粒子に変化することを解明した。ただし、より小さい直径100ナノメートル以下のナノバブルについては、バブルなのか固体や液体の非ガス粒子なのか解明には至らなかった。

ナノバブルなど微小な気泡を含んだ水は洗浄効果や生理活性効果が高いとされ、産業での実用化が進む。今後、ナノバブルがどれくらいの時間でどのように非ガス粒子へと変化するかなどの解明が進むことで、「ナノバブル水の洗浄機能などさらなる技術革新に寄与すると期待している」と植松准教授は話している。

研究は、九州大学と共同で行い、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業の助成を受けて行い、7月6日に国際誌「フィジカA」に掲載された。

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