アストロスケールは7月9日、2024年2月より進めている商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(Active Debris Removal by Astroscale-Japan)」のミッションにおいて、観測対象のデブリの周回観測の実施中に行われた自律的なアボートにより、安全運用のための衝突回避機能の有効性が実証されたと発表した。
運用を終了した衛星やロケットなどのデブリは、地上との通信もできず、現在の状況を把握することが難しい。そのため、そうしたデブリへの安全な接近および捕獲を実現するためにも、対象物であるデブリの劣化状況や回転の速さなど、軌道上での状態を把握する必要があり、今回のミッションでは、そうした実際のデブリの除去に向け、安全な接近手法を実証し、手を伸ばせば届く距離までデブリに接近し、その状態を調査することを目的としている。
デブリまで50mの距離で周回しながらの観察を実施
今回のミッションで対象としているデブリはGOSATを打ち上げた「H-IIAロケット15号機」の上段。全長約11m、直径約4m、重量約3トンの大型デブリで、接近・近傍運用を実証し、長期間軌道上に存在するデブリの運動や損傷・劣化状況の撮像を行うという内容となっており、今回はデブリの状態や動きについてより詳細に把握するために、デブリと一定の距離を保ちながら物体の周りを飛行する周回観測を実施。具体的には、位置や姿勢の制御にADRAS-J搭載のLiDARとアルゴリズムを活用し、観測対象のデブリの周囲を約50mの距離を維持して飛行しながらその画像を連続して撮影しているという。
今回のアボートは、ADRAS-Jがデブリの周囲を安定して飛行しながら撮影していく途中、デブリの周囲を1/3程度(約120度)周回したところでデブリとの相対姿勢制御の異常を検知、ADRAS-Jが自律的に判断を行い、アボートを実施したという。この結果、ADRAS-Jはデブリから距離をとり、安全に待避したとしている。
同社では、機体に採用した自身の内部の異常や対象物体との相対距離や姿勢の異常を検知し、対策を施すシステムFDIRにより異常が正常に検知され、特定の距離よりも近いと判断し、対象物体との衝突を回避するために状況に応じたアボートマヌーバが実施されたことから、観測実施中、非協力物体の周囲を飛行しながらでも、安全を確保できることが実証されたと説明している。
なお、今回のアボートによる機体への影響はなく、健全性が保たれていると同社では説明しているほか、相対姿勢制御異常の原因も判明済みで、すでに対策を実施、現在は再接近の準備を進めているとしている。
2024年7月10日訂正:記事初出時、ADRAS-Jと対象物であるデブリの距離をタイトルならびに本文の一部にて50cmと表記しておりましたが、正しくは50mとなりますので、当該部分を訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。