東京大学(東大)と東北大学は7月5日、日本の古い歴史書にしばしば記されている彗星や超新星爆発を示す「客星」のうち、長年未同定だった1181年に出現した「SN 1181」の有力候補として、2019年にカシオペヤ座付近の方角に赤外線やX線で明るく輝く星雲とその中心にある白色矮星「WD J005311」が発見されたことから、その最新のX線観測データを解析し、その特異的な性質を説明する理論モデルを構築した結果、同候補天体はおよそ1000年前に2つの白色矮星が合体して生じた比較的暗い超新星爆発の残骸であり、歴史書に記されているSN 1181の性質と一致することを確かめたと発表した。

また、WD J005311は爆発からおよそ1000年の時を経て、ここ数十年の間に再び活性化して高速の星風を吹かせ始めたという、超新星残骸として他に類を見ない性質を持つことも併せて発表された。

同成果は、東大大学院 理学系研究科の黄天鋭 大学院生、同・馬場彩 准教授、同・大学院 理学系研究科・理学部 付属ビッグバン宇宙国際研究センターの茂山俊和 教授、同・津名大地 客員共同研究員、同・藤澤幸太郎 客員共同研究、甲南大学の鈴木寛大 特別研究員(当時、現JAXA特任助教)、同・田中孝明 准教授、京都大学 理学研究科の内田裕之 助教、東北大大学院 理学研究科の樫山和己准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

  • 1181年に生じた超新星爆発残骸の多波長観測結果

    1181年に生じた超新星爆発残骸の多波長観測結果。(c) G. Ferrand and J.English, NASA/Chandra/WISE, ESA/XMM ,MDM/R.Fessen, Pan-STARRS(出所:東大Webサイト)

太陽の8倍ぐらいまでの星は、死を迎えると白色矮星になる。ただし、白色矮星に連星の伴星からのガスが降り積もったり、白色矮星同士が合体してチャンドラセカール限界質量を超えると、暴走的な核融合反応が起きて「Ia型超新星爆発」が生じる。天の川銀河は少なくとも1000万、多ければ4000万と見積もられる星が存在する大型銀河のため、超新星爆発は頻繁に起きていそうな気がするが、同銀河の星の97%以上は白色矮星となる小型の星のため、太陽の8倍以上の質量の大型星が一生の最期に起こす重力崩壊型超新星爆発(II型超新星爆発など)などを含めても、超新星爆発は数百年に一度の頻度でしか発生しない。

超新星爆発は突然出現し、中には満月と同程度の明るさで光り続けるなど、肉眼でもとてもよく観測されることが多い。そのため、超新星爆発は「客星」として多くの歴史書や日記に記されてきた。それらに記されている超新星爆発の残骸の多くはすでに同定済みだが、中には未同定のものもあり、その1つが1181年のSN 1181だ。「吾妻鏡」などの歴史書などにはその客星のおよその位置が記されており、長らく残骸が確認されていなかったが、2019年になって候補天体である超新星残骸が初めて発見された。

Ia型超新星爆発は自身や伴星を吹き飛ばすため、残骸中に天体が残されることはない。しかし、SN 1181の残骸に対する可視光の観測から、1181年の超新星残骸の中心には白色矮星の存在が示唆されており、そこから光速の5%ほどの速さで星風が吹いていることが解明された。そのため、1181年の超新星は他のIa型超新星とは異なる性質を持ち、同天体を研究することは、未知のIa型超新星爆発の爆発メカニズムの解明に大きく貢献する可能性がわかったのである。しかし、同残骸は他の超新星残骸では見られない性質を他にも多く持つため、それを説明する理論モデルは存在していなかったという。そこで研究チームは今回、1181年の超新星残骸に対し、X線観測衛星を用いた解析を行うことにしたとする。

  • 1181年の超新星爆発残骸の多波長観測画像と今回の研究の模式図の比較

    1181年の超新星爆発残骸の多波長観測画像(左)と今回の研究の模式図(右)の比較。(右)の多波長観測から推定された超新星爆発残骸の状態(左の半円)と、今回の理論モデル(右の半円)が含まれている。内側と外側のX線領域に、ダストの多い赤外線リングが挟まれている。内側のX線領域は風の終端衝撃波に対応し、外側のX線星雲は超新星の放出物と星間物質の衝撃波に対応している。論文(Ko et. al. 2024)より改変された図(出所:東大Webサイト)

今回の解析では、欧州宇宙機関の「XMM-ニュートン」と、NASAの「チャンドラ」の2機のX線観測衛星による観測データが用いられた。その結果、特異的な性質を持つ1181年の超新星残骸は、X線で光る多層構造を持つことが解明された。

中心の強いX線領域は他の超新星残骸で見られない性質であるが、これは中心天体から吹いている高速な星風によって形成されたと仮定し、同天体のモデル化が試みられた。その結果、X線解析結果だけでなく、他の多波長観測の結果とも整合性の取れた唯一の理論モデルの構築に成功したという。同モデルからはSN 1181の性質を引き出すことができ、それは通常のIa型超新星爆発の明るさと比べて暗い超新星であったことが判明。歴史書では、1181年の客星は土星のような明るさだったと記録されているが、今回の結果はこれとも矛盾しないことも確認された。

  • 1181年に生じた超新星爆発とその後の残骸の時間進化

    1181年に生じた超新星爆発とその後の残骸の時間進化。1181年に出現した超新星爆発は2つの白色矮星の合体で生じたと考えられる。この際、通常の白色矮星合体による超新星爆発は残骸に星を残さないが、今回の天体では爆発しているにも関わらず白色矮星が中心に残されている。その後、800年程度経った1900年代に白色矮星が再び活発化し星風が吹き始め、周囲の物質に衝突することで、超新星残骸の中にさらに強いX線領域が形成された。(c) 黄天鋭 (出所:東大Webサイト)

加えて、白色矮星から吹いている高速な星風は、ここ数十年以内に吹き始めたことも突き止められた。これは、この天体がおよそ1000年前に爆発し、中心に残された白色矮星がここ数十年になって再び活発化したことが表されており、この点でもこの天体は唯一無二の性質を持っているとする。

普遍的な天体であるIa型超新星爆発の中で、SN 1181の超新星残骸が例外的な性質を持つ理由を将来的に解決していくことで、未解明である白色矮星同士の合体による爆発メカニズムについての理解が深まることが期待されるとしている。