MODEは2014年に米国のシリコンバレーで設立され、顧客のビジネスのIoT化を実現するためのパッケージソリューションを提供している。国内にも拠点を持ち、主要製品であるIoTプラットフォーム「BizStack」はパナソニック、西松建設、リコー、あいおい同和損保など、さまざまな大手企業に採用されている。今年4月に約12.8億円の資金を調達し、続く5月には、チャット型インタフェースのBizStack Assistantを提供開始した。そこで、来日したCEOの上田学氏に、ビジネスの現状と今後の展開について聞いた。

  • 米MODE CEO/Co-Founder 上田学氏

上田 学(うえだ がく)
米MODE CEO/Co-Founder
早稲田大学 大学院卒。日本で就職した後に渡米し、2人目の日本人エンジニアとしてGoogle入社、主にGoogleマップの開発に携わる。その後Twitter(現、X)に移り、エンジニアディクターとして公式アカウント認証機能や非常時の支援機能などのチーム立ち上げ、開発チームのマネジメントを経験。2014年、Yahoo!出身の共同創業者のイーサン・カン氏とシリコンバレーを拠点にMODEを設立。

なぜMODEを設立したのか? なぜ、IoTなのか?

--GoogleやTwitter(現 X)でのエンジニアの経験で、現在のビジネスに役立っていることはありますか--

上田氏: :GoogleやTwitterで働いてきた経験をもとに、チームやプロダクトの作り方、カルチャー、社員のやる気を出す盛り上げ方は取り入れています。米国企業の人は楽天的なので、基本的には性善説で、良い環境を作れば、頑張ってポジティブにやってくれるところがあります。自由で力が出せる環境を作っていくところやアイデアを拾い上げて育てていくところも取り入れています。

--MODEを2014年に設立されましたが、エンジニアを続けていくのではなく、起業した理由は何でしょうか--

上田氏: :Twitterではエンジニアリングディレクターをやっていました。私と同じレベルのディレクターは6人いましたが、TwitterがIPOをすると、一仕事終えた雰囲気になり、半分のディレクターは退職して起業しました。そういう話を聞いて、自分でもできるのではないかと思い起業しました。

--起業する際、IoTに着目した理由は何だったのでしょうか--

上田氏: :もともと旅行が好きだったので、最初は旅行のスタートアップを起業しましたが、なかなかユーザーがつかなくて、3カ月程度で、息抜きにRaspberry Pi という小さなコンピュータを買って触り始めました。当時、カリフォルニアは水不足が深刻だったので、庭に水をまくスプリンクラーの制御をRaspberry Piで作り始めたのがIoTに取り組んだきっかけです。

アプリを作って、Raspberry Pi でスプリンクラーのコントローラ作っていくのは大変でしたが、ボタンを押して水が出てきた時は感動しました。

--日本と米国の両方でビジネスをやっていくことは、最初から構想としてあったのですか--

上田氏: :もともと米国でビジネスをやっていましたが、米国の展示会に出展した時に、シリコンバレーにある日本の会社の駐在員の方に「使ってみよう」といっていただき、そこから日本のお客様が増えました。

--IoTは、PoCまでいっても導入まで進まないという課題があります。これについて、どう感じていますか--

上田氏: :テック企業と呼ばれている会社は、データを見ながらビジネスを作っています。私もTwitterにいた時、ユーザーのデータを見ながら、「こういう機能を出せば使ってもらえるのではないか」ということにチャレンジしていました。

現実のビジネスにデータを使ったら、絶対に効率が良くなると確信してIoTを始めましたが、データの見える化を行っても、「見える化の価値は何か」「ROIは何か」という話になり、なかなかうまくいかず苦労していました。そんな時に生成AIが登場し、もしかしたら見える化の先にいけるのではないかと思いました。生成AIによって、企業の社員が行っていた仕事がAIとセンサーでできるようになってきた気がします。

BizStackをどう発展させていくか

--5月にチャット型インタフェースのBizStack Assistantをリリースしましたが、このシステムを使うメリットは何でしょうか--

上田氏: :BizStackは、データを溜めて、モニタリングしてくれるシステムです。そこに対して操作をするオペレーターであるBizStack Assistantをセットで使うと、「データを見ておいて」といったら、24時間365日監視して、何かあったらTeams、Slack、建設であればDirectというチャットシステムに「ちゃんと動いていませんが、大丈夫ですか」と言ってきます。

そこで、今、どうなっているのかを聞くと、「今、こういう風になって止まっています」と答え、カメラで確認したいといえば、カメラにつないで現場を見せてくれます。さらに、トラブルシューティングのための手順を見せてほしいといえば、説明書を持ってきてくれる。

ここまでそろうと、今まで人間がやっていた仕事を代わりにやってくれる、有能なアシスタントがチームに参加する形になります。これによって、今まで見える化だけだったところから、業務の一部をアシストするところに進めることができます。

--4月に12.8億円の資金を調達されましたが、この資金はどのように使っていくのでしょうか--

上田氏: :やりたいことは2つあります。1つは生成AIのアプリケーションであるBizStack Assistantの開発を加速させることです。現在、米国では生成AIのプロダクトが毎週出てきます。生成AIによって、クラウドコンピューティングが広がった時の3倍くらいのスピードで世の中が変わっていて、われわれもそのスピードについていきたいと思っています。現場に生成AIを持ち込むという部分は、グローバルで見ても、やっている人はほとんどいない状況なので、このまま先頭を走っていきたいと考えています。

もう1つは、米国でBizStack Assistantを提供することです。われわれは、生成AIをトンネルの中やダムの工事現場、発電所などの現場で利用しています。事務仕事やクリエイティブな仕事をAIで置き換えていこうとする会社は多いですが、われわれは、トンネルの中にAIを持ち込むことをやっています。これをやっている米国の会社はほとんどないので、われわれが一番乗りすべきということで、米国で勝負していきたいと思っています。

--日本と米国で市場の違いを感じますか--

上田氏: :売り方は違いますが、ニーズは同じだと思います。困っている現場の課題は一緒です。生成AIが出てくる前は、人間がやるしかなかった、人が歩き回ってチェックしていく見回りの作業は、どこにでもあります。これは日本でも米国でも変わらないと思います。

--現在は土木工事という分野でBizStackが利用されていますが、他の市場に広げていきたいという思いはありますか--

上田氏: :土木工事現場についてはすでに何年か取り組んでいますが、現場で使い物になるところまで突き詰めないといけないので、そこを一生懸命やっています。ただ、AIをアシスタントとして参加させて、一部の業務を肩代わりしてもらう部分は、どこでも使えると感じています。もう少し絞っていくと、見回りの業務や物理的に遠くに行ってチェックしてくるという業務は、いろいろなところにあります。例えば、建物のメンテナンスや工場、鉄道の保線です。こういった点検、見回り業務でフィットするところに市場があると見ています。

--今後、BizStack Assistantをどのように進化させていきますか--

上田氏: :今はワークフローに特化していて、何かの機能を作るのではなく、一連の仕事をカバーして人間の代わりにできますというところを目指してやっています。具体的には、チェックにおいて、上司に報告するレポートや日報を書いて出してくれるところまでカバーすることに取り組んでいます。