大型ロケット「H3」3号機が1日午後12時6分42秒、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。地球観測衛星「だいち4号」を所定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。H3は2001年から運用中の「H2A」の後継機だが、昨年3月に1号機が失敗したのを受けて対策を講じ、今年2月の2号機は主衛星の搭載を見送って成功しており、今回が主衛星を搭載しての“本格デビュー”となった。

  • alt

    だいち4号を搭載し打ち上げられるH3ロケット3号機=1日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(JAXA提供)

H3は打ち上げの約5分後に1段、2段機体を分離した。2段エンジンの燃焼を約11分にわたり正常に行った後、打ち上げの16分34秒後、だいち4号を所定の軌道に投入した。その後、2段機体に再着火し、オーストラリアの西方沖に計画通りに落下した。

会見した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は「だいち4号の運用に、気を引き締め取り組んでいく。H3ロケットは(日本の宇宙開発利用の)自律性の維持、国際競争力確保に向け、非常に大きなステップを踏んだ。連続成功で、国内外から信頼感を持って見られるのでは。将来につなげるよう堅実に開発を進める」と述べた。

JAXAのH3責任者を今年4月、岡田匡史現理事から引き継いだ有田誠プロジェクトマネージャは「(ロケットの信頼獲得には)連続成功あるのみだが、その一歩が踏み出せ安堵(あんど)している」とした。記者から打ち上げの自己採点を求められ「まさに100点の打ち上げ」と笑顔を見せた。

H3はH2Aと、2020年に運用を終了した強化型「H2B」の後継機。2段式の液体燃料ロケットで、1~3号機の全長は57メートル、衛星を除く重さ422トン。H3の最大能力はH2Bの6トンを上回る、6.5トン以上(静止遷移軌道、赤道での打ち上げに換算)だ。JAXAと三菱重工業が共同開発し、今年度までの開発費は2393億円。H2A、小型の固体燃料ロケット「イプシロン」とともに、政府の基幹ロケットに位置づけられる。

1段エンジンを新開発したほか、宇宙専用部品ではなく民生品を多用するなどして効率化を推進。H2Aの基本型で約100億円とされる、打ち上げ費用の半減を目指した。性能向上と低コストを両立し、政府の衛星のほか、大型化が進んだ商業衛星の搭載を可能とした。科学目的の探査機、国際宇宙ステーション(ISS)や建設予定の月周回基地へ向かう物資補給機にも対応する。将来的には打ち上げ業務を、H2Aと同様にJAXAから三菱重工業に移管し、市場に参入する。

  • alt

    打ち上げに成功し、沸く管制室=1日、種子島宇宙センター(JAXA提供)

1号機は昨年3月に打ち上げられたものの、2段エンジンに着火できず失敗し、搭載した地球観測衛星「だいち3号」を喪失した。原因は2段エンジンの電気系統の異常。JAXAや三菱重工業などが異常の発生シナリオを3通りに絞り込み、全てに再発防止を施して2号機を成功させた。

H3の機体構成には、1段エンジンや固体補助ロケットブースターの基数などによるバリエーションがある。1号機は1段エンジン2基、ブースター2基。2号機は、1号機失敗前の時点で1段エンジン3基、ブースターなしという最小構成とし、主衛星のだいち4号を搭載する計画だった。失敗を受けて構成を1号機と同じとし、主衛星の搭載はせず金属製のダミーの重りと小型衛星2基を載せた。今回の3号機も同じ機体構成とした。

搭載した衛星にかかる負荷を軽減するため、1段エンジンの推力を一時的に絞って加速度を抑える「スロットリング」を、H3では初めて実施した。

政府の宇宙基本計画工程表によると、H3は今年度、さらに防衛通信衛星と準天頂衛星の打ち上げを計画。H2Aは今年度に情報収集衛星、温室効果ガス・水循環観測技術衛星をそれぞれ打ち上げ、退役する。

日米欧の主要な新世代大型ロケットは、いずれも2020年(度)の初打ち上げを目指したものの、苦戦を強いられた。H3は1段エンジン開発に手間取り、2年延期した。「アトラス5」などを運用する米ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社の「バルカン」は、エンジンのロシア依存脱却を図ったものの時間がかかり、今年1月に初打ち上げを果たした。欧州では、商業打ち上げ市場を牽引(けんいん)してきたアリアンスペース社の「アリアン6」が、設計変更やエンジン試験の事情で延期を繰り返し、日本時間今月10日に初打ち上げを計画している。

打ち上げ後に会見する三菱重工業の志村康治H3プロジェクトマネージャー(左)と、JAXAの有田誠プロジェクトマネージャ=1日、種子島宇宙センター(オンライン取材画面から) 打ち上げ後に会見する三菱重工業の志村康治H3プロジェクトマネージャー(左)と、JAXAの有田誠プロジェクトマネージャ=1日、種子島宇宙センター(オンライン取材画面から)

  • alt

    打ち上げ後に会見する三菱重工業の志村康治H3プロジェクトマネージャー(左)と、JAXAの有田誠プロジェクトマネージャ=1日、種子島宇宙センター(オンライン取材画面から)

観測幅4倍、被災地の緊急観測に威力

だいち4号は観測に電波を使うレーダー衛星で、2014年から運用中の「だいち2号」の後継機。JAXAと三菱電機が共同開発した。上空を飛びながら地表に電波を照射し、はね返ってきた電波を連続処理して信号を合成していく。この手法により、実物より大きな仮想アンテナの高解像度を実現する「合成開口レーダー」の仕組みを、2号に続き採用した。

周波数帯は、植生を透過し地表を捉えやすいLバンド。2号の分解能3メートルを維持しつつ、観測の幅を50キロから200キロにまで拡大しており、関東平野や九州の東西を一度に捉える。被災地の緊急状況把握や地殻変動などの観測で、強みを発揮する。船舶識別信号の受信機も搭載し、海の安全にも役立つ。海外の衛星と連携し、世界各地の大規模災害時に貢献する。

  • alt

    だいち4号の想像図(JAXA提供)

太陽電池パネルを展開した幅は約20メートル、重さ約2.8トン(燃料込み)。上空628キロをほぼ南北に周回し、97分で地球を1周する。設計上の寿命は7年。開発費は約320億円(地上システムを含む)、打ち上げ費用は非公表。

JAXAの有川善久プロジェクトマネージャは「元日の能登半島地震を受けた緊急観測では、奥能登の先端の地域を観測できなかった。仮に既に4号があったなら、半島を(一度に)もれなく観測できた。分解能と観測幅の両立は大変難しい。複数の場所からはね返ってきた電波を同時にデジタル処理する『デジタル・ビーム・フォーミング』技術を搭載した合成開口レーダー衛星は、世界初。早く実用に供して2号と連携させ、大災害に備えたい」と話している。

なおH3の1号機の失敗により喪失しただいち3号は、光学衛星。政府は代替機を開発せず、民間主体の小型光学衛星の連携や、レーザー光で立体観測をするライダー衛星により、観測体制を整える方針をまとめている。

関連記事

イプシロンS燃焼試験爆発 原因は点火器部品の溶融、JAXAが報告

H3初号機失敗、背景に「実績重視、対策や確認の不足」文科省が報告書