徳島大学と同大学発ベンチャーのセツロテックの両者は7月1日、採卵鶏の卵を割ったりせずに外から光学的な観察で雌雄の判別を付けられる技術として、非遺伝子組換え型のゲノム編集技術を活用して、孵卵7日目の時点でオスの目が黒く、メスの目は透明という鳥類独自の卵の雌雄判別方法を開発したことを共同で発表した。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要(出所:セツロテックWebサイト)

同成果は、徳島大 先端酵素学研究所の竹本龍也教授、同・下北英輔助教(研究当時)、セツロテックのチェン・イーチェン研究員らの共同研究チームによるもの。また、日本国内における特許が取得済みであることも発表された。

採卵鶏(レイヤー)の生産においては、卵を産むメスニワトリのみを大量に生産することが求められるため、不要となるオスのひよこは生後間もなく殺処分されている。その数は、世界中で毎年60億羽以上、日本国内だけでも年間に1.3億羽以上になると推定されている。この大量の殺処分は、近年アニマルウェルウェア(動物福祉)の観点から世界中で問題視されており、すでにドイツやフランスなどの欧州の一部の国では、ニワトリ胚が機械的刺激に反応する(つまり痛みを感じると考えられている)孵卵13日目以降のひよこの殺処分禁止の法整備が進められている。この課題を解決するため、すでに多くの企業や研究機関が、ふ化前の段階で卵の中のひなの性別を判別できる技術(in-ovo sexing)の開発に取り組んでいる。しかし、遺伝子組換え技術を使わない手法で、かつ法律で規制されている時期までに、簡便に雌雄判別ができる手法は開発されていなかったという。

セツロテックは、徳島大発のゲノム編集スタートアップで、ニワトリのゲノム編集の研究も取り組んでいる分野とのこと。これまで、同社独自のゲノム編集技術を活用して、ゲノム編集ニワトリ個体の作出にも成功している。また、徳島大と九州大学との共同研究で、「効率的なニワトリ新品種作出」と「始原生殖細胞の可視化」を可能にするゲノム編集ニワトリの作出などにも成功した実績を持つ。そこで研究チームは今回、ゲノム編集技術を活用した鳥類の卵の雌雄判別方法を開発したという。

今回の手法は、鳥類の性染色体(鳥類は、ZZでオス、ZWでメスのZW型の性染色体を持つ)であるZ染色体上の網膜色素関連遺伝子に、非遺伝子組換え型のゲノム編集を施すことで、発生中の鳥類胚の色素網膜、つまり“目の色”の違いでオスとメスが判別できる手法だ。なお、非遺伝子組換え型のゲノム編集とは、鳥類自身がもともと持っている遺伝子を改変することのみで目の色が変えられており、他の生物の遺伝子(外来遺伝子)は導入されていないことを表す。

ニワトリの場合、最短で孵卵7日目の段階で、オス胚が黒色の目であるのに対し、メス胚は無色透明な目となるため、その差を容易に見分けることが可能だという。この目の色の違いは、暗所において卵の殻の外からLEDライトなどを照射すると、殻を透過した光によって光学的に検出できるため、卵の殻を割ることなく雌雄を判別することが可能だ。そのため、この手法を採卵鶏の生産に活用すれば、ふ化する前の段階で「将来オスのひよこが生まれる卵」を選別できるため、オスひよこを殺処分することなく、卵を産むメスニワトリのみを生産することができる。

  • (左列)7日目の胚。(中央列)孵卵7日目の卵を殻の外から撮影したもの。(右)LEDライトなどにより光学的に判別した後、ジェノタイピングで合致を確認する流れ

    (左列)7日目の胚。目が黒いオス(上)。目が透明のメス(下)。(中央列)孵卵7日目の卵を殻の外から撮影したもの。オス(上)。メス(下)。(右)LEDライトなどにより光学的に判別した後、ジェノタイピングで合致を確認する流れ(出所:セツロテックWebサイト)

なお、メス胚の段階では目の色は透明だが、成長したニワトリにおいては赤色の目となり、野生型のニワトリと同じように健康に成長し、産卵が可能であることが確認されているとした。

研究チームは今回の手法の特徴として、以下の5点が挙げられるとする。

  1. ニワトリでは孵卵7日目という胚発生の極めて早い段階で雌雄判別が可能であること
  2. 非遺伝子組換えの手法であること
  3. 卵の殻に穴を開けたりすることなく非侵襲的に判別できること
  4. 組織などのサンプリングや酵素反応などの作業を必要とせず簡便であること
  5. 羽毛の色など、特定の系統しか持たない特徴を利用しておらず、さまざまなニワトリ系統に適用できること

これらの特徴は、アニマルウェルフェアという社会課題に配慮しつつ、同時に産業レベルでの大量生産体制に応える形で社会実装を図る際に、極めて重要なものになるという。また、ふ化する前にオスと判別された卵は、鶏卵でのワクチン生産に利用するなど、これまでの高タンパク飼料としての利用以外にも有効活用が可能になるとした。

なお研究チームでは、ニワトリのゲノム編集技術によって誕生したこの新しい手法を活用し、社会課題となっているオスひよこの殺処分問題を解決し、アニマルウェルウェアの推進に貢献することを目指すとしている。