近畿大学(近大)と大阪公立大学(大阪公大)は6月19日、「ペロブスカイト量子ドット」(PQD)を発光層に用いた、「ペロブスカイト発光ダイオード」に外部から磁力を加えることで、近赤外領域でらせん状に回転しながら振動する光である「近赤外円偏光」を発生させることに成功したと共同で発表した。
同成果は、近大 理工学部 応用化学科の今井喜胤教授、大阪公大大学院 工学研究科の八木繁幸教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、磁気に関する全般を扱う学術誌「Magnetochemistry」に掲載された。
可視光線や紫外線などの光は、電場と磁場の波が伝わっていく電磁波。そのうち、700nmから1mmまでの幅広い波長域を扱うのが赤外線で、一般的には可視光に近い方から近赤外線、中間赤外線、遠赤外線の3種類に分けられている。その中で、センサや光通信などに用いられているのが、700~1400nmの波長域の近赤外線だ。
また光には、波としての振動が特定の方向に偏っている偏光と呼ばれるものがあり、その中で、振動が回転しているためらせん状に進んでいくのが円偏光だ。
近赤外線の肉眼では捉えられないという特性と、円偏光の特性を組み合わせた近赤外円偏光は、より高精度かつ高感度なセキュリティデバイスやセンサへの応用が期待されている。しかし、現状開発されている近赤外円偏光を発生させるための手法は輝度が弱く、実用化には至っていないという。
そうした中、近年になって発光デバイス用の次世代材料として注目されているのが、結晶構造の一種であるペロブスカイト構造を持つ、10nmほどのナノ結晶半導体材料であるPQDだ。PQDは、元素の組み合わせやサイズを変えることで発光色(発光波長)を変化させる(制御する)ことが可能で、すでにディスプレイやセンサ、医療分野など、さまざまな場面で活用されている。
またPQDは室温で高い発光効率を示すことから、発光ダイオード用発光材料や太陽電池の材料としても近年盛んに研究されている。そうした中で、継続して円偏光を発生させる手法の開発に取り組んできたのが研究チームだ。これまでの研究において、光学不活性(物質が直線偏光の偏光面を回転させる性質がないこと)な分子を用いた場合でも、円偏光を発生させられる手法を開発済みだった。また、同様の手法を適応することで、光学不活性なPQDを用いた円偏光の発生も実現していたとする。そこで今回の研究では、PQDを用いた発光デバイスから、高輝度で発光する近赤外円偏光を発生させることを目指して、研究に取り組むことにしたという。
今回の研究では、近赤外領域に発光を示すPQDを発光層に用いた発光ダイオードに対し、外部から磁力を加えることによって、近赤外円偏光を発生させるという手法が検討された。またPQDは、「ハロゲン化セシウム鉛(CsPbX3)」(Xには、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のいずれかが入る)が用いられた。
そして、外部から磁力を加えながら電圧が印加されたところ、構成している材料がすべて光学不活性であるにも関わらず、近赤外円偏光の発生に成功したという。また、磁力の方向を変えることで円偏光の回転方向を制御し、単一の発光体から左右両回転の近赤外円偏光を選択的に取り出すことにも成功したとした。
今回の研究成果は、室温かつ永久磁石による磁場下に、光学不活性なPQD型近赤外発光ダイオードを設置して電圧印加するだけで、容易に近赤外円偏光を発生させることができたところが優れた点とする。また今回の成果は、将来的に高度な次世代セキュリティ認証技術や、医療分野、光通信、センサなどの高機能光学デバイス開発などにつながることが期待されるとしている。