富士フイルムと順天堂大学は6月17日、院内のさまざまな医療データを一元的に管理できる富士フイルムの医療機関向け統合診療支援プラットフォーム「CITA Clinical Finder」(シータ クリニカル ファインダー)内の診療データを基に、AI技術を用いて、外来患者の転倒リスクを予測する技術を共同で開発したことを共同で発表した。

同成果は、富士フイルムと順天堂大 医学部附属順天堂医院の共同研究チームによるもの。

国内の医療現場において、患者の転倒事故は高い頻度で発生しているという。転倒は骨折や頭部外傷などの大けがにつながるため、患者の生命予後やQOLに対し、深刻な影響を及ぼす危険性がある。そうした事態を避けるため、多くの医療機関においては入院患者を対象とし、「転倒リスクアセスメントシート」を用いて患者の転倒リスクを判定・数値化し、リスクの程度に応じて付き添いや歩行介助などの転倒防止策が講じられている。

しかし、入院患者よりも外来患者の方が、アセスメント対象となる患者数が多いという問題があり、加えて医療機関での滞在時間は限られているため、外来患者の状態を正確に把握することは困難で、十分な対応ができにくいという。そのため、外来患者を対象として、効率的かつ高精度に転倒リスクを評価する方法を開発することが強く求められていたとする。そこで研究チームは今回、CITA Clinical Finderに蓄積された診療データと、AI技術を用いて、外来患者の転倒リスクを予測する技術の開発を試みることにしたという。

今回の技術は、電子カルテや放射線部門システム、内視鏡部門システムなど、院内のさまざまなシステムと連携するCITA Clinical Finderに集約されたデータから、年齢・特定の薬剤の処方歴などの500種類以上の転倒リスクと関連性が高いと考えられる特徴量を生成し、それをAIに学習させて開発が行われた。CITA Clinical Finderに登録されている診療データを基に各患者の転倒リスクが予測され、パーセンテージで表示される仕組みであり、予測に寄与した特徴量を、想定される転倒リスク要因として提示することも可能とする。

順天堂医院の外来患者約7万名のデータを用いて、今回の技術の精度評価が実施された。すると、予測精度を示すAUROCは、0.96であり、入院患者を対象にした先行研究(AUROC:0.90)と比べて優れた結果が示されたとした。今回の技術を活用することで、医療従事者は、外来患者の転倒リスクを高い精度で評価できるようになることが期待できるとしている。

今回の成果に対し、順天堂大 医学部 附属順天堂医院の桑鶴良平院長は、「順天堂医院では、長らく医療の質の指標(Quality Indicator)の1つとして、75歳以上の外来患者さんの転倒発生率の低下を挙げてきました。病気の診断、治療のために来院した患者さんが院内で転倒してしまい、さらなる疾患を患うことは避けたいという理由からです。今回は、これまで研究が進んでいなかった外来患者さんの転倒のリスク因子に着目し、統合診療データと機械学習を用いて富士フイルムと共同で転倒リスク予測モデルを構築しました。本研究結果が、外来患者さんの転倒リスクを精度高く予測し、医療機関が前もって対応することで、その発生率が低下することを期待しています」とコメントした。

また、富士フイルム執行役員メディカルシステム開発センターの鍋田敏之センター長は、「医療の質・安全性の向上のために多くの取り組みを推進されている順天堂医院の医学的知見と、CITA Clinical Finderにて管理している病院内の包括的かつ大規模な診療データならびに当社独自の医療特化型予測AI技術を融合させることで、外来患者を対象とした転倒リスクを高精度に予測する技術を開発することができ、大変嬉しく思います。今後、本技術の社会実装を実現し、外来患者の転倒リスクの早期把握に寄与していきます」と述べている。

富士フイルムと順天堂医院は、今後、今回の技術のさらなる有効性検証を進め、早期実用化を目指すとしている。