キヤノンは、リサイクル現場においてプラスチックの種類を判別する際に判別が難しい黒色のプラスチック片と、その他の色のプラスチック片を高精度に同時選別することができる「トラッキング型ラマン分光技術」を用いたプラスチック選別装置を開発し、第1弾製品となる「TR-S1510」を含む「TRシリーズ」として受注を開始したことを発表した。
プラスチックのリサイクルと選別方式の課題
我々の生活の中で廃棄されるプラスチックのうち、新たな製品の材料として再生利用できているのは約2割と言われており、その他は燃料や未活用のまま焼却されている現状がある。
2022年4月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法)」が施行され、今まで容器包装のプラスチックが主なリサイクル対象だったものが、小型家電製品のプラスチックも対象となるなど、今後さらに多くの製品のプラスチックを高精度かつ生産性高くリサイクルできる技術が必要になることが予想される。
しかし、従来の方式である「近赤外方式」では、家庭用電化製品や自動車の内装に使用される黒色のプラスチックの可視光を通さず反射もしないため、ABSやポリプロピレン(PP)といった種類の判別が難しかったという。また、「中赤外方式」では黒色樹脂の選別はできるものの、白色と黒色の同時選別が難しく、選別法として十分とは言えないものとなっており、今後のプラスチックの再生利用に向けて、黒色を含む高精度なプラスチックの種類選別と選別作業の生産性向上が求められていた。
キヤノンが開発したプラスチック選別装置の特徴
そこでキヤノンが開発したのが、独自のトラッキング型ラマン分光技術を用いた、黒色を含むプラスチック片の高精度かつ高速な同時選別を実現する選別装置TRシリーズだ。
一般的に、ラマン分光方式によるプラスチックの判別では、レーザー光を1つひとつのプラスチック片に照射し物質の分子情報を取得するため、黒色プラスチック片を測定することもできるものの、黒色は散乱する光が少ないため、計測に時間がかかり、高速かつ多量の処理を行う現場では不向きとされてきたという。
しかし、同社はラマン分光方式と独自の計測・制御機器を組み合わせ、レーザー照射を走査するトラッキング型のラマン分光技術を開発することで、黒色も他の色も混ざり合った状態であってもプラスチック片の色に合わせた計測時間を確保することに成功し、高速かつ高精度な判別を実現したとのことで、これによりリサイクル現場の生産性向上とマテリアルリサイクルの最大化に貢献できるようになったという
また、TR-S1510では1.5m/秒の搬送スピードを保ちながら、最大1t/時の選別が可能だとし、顧客の処理量や設置スペースに合わせてベルトの幅を大きくして生産性を向上させるなど、プラスチック片のトラッキングや計測を行うモジュール、ベルトコンベヤーの組み合わせを変更することもできるとしている。
高精度選別装置の仕組みと今後の展望
選別装置の仕組みとしては、プラスチック片を投入した後、非接触測長計「PD シリーズ」でベルトコンベヤーの速さを計測。画像認識システムで計測前にあらかじめプラスチック片の位置だけでなく、色や大きさなどの特徴を認識。先端に取り付けたミラーでレーザー光の進む方向をコントロールし、レーザー光を狙った位置に照射するための装置であるガルバノスキャナーモーター「GMシリーズ」に付けた専用ミラーでレーザー光をプラスチック片1つひとつに追従して照射。ラマン散乱光を受光し、同社が独自開発した分光ユニットで計測、同じく独自開発した識別ソフトで解析していくというものとなる。なお、設定を変更することでさまざまなプラスチックの選別が可能となる。
キヤノンでは今後、素材・部品・製品メーカーや、リサイクラー、リサイクル装置メーカー、光学選別機メーカーなどをターゲットに、必要処理量に応じた仕様変更や計測モジュールを販売していき、まずは年間50台の出荷を目指していきたいとしている。