日本マイクロソフトは5月30日、政府や自治体分野における取り組みに関する記者説明会を開いた。マイクロソフトの生成AI(人工知能)サービス「Copilot(コパイロット) for Microsoft 365」を実際に導入している中野区などの事例が紹介された。
米マイクロソフトは4月、今後2年間で29億ドル(約4400億円)を投じ、日本でデータセンターを拡充すると発表した。また、今後3年間で非正規雇用を含む300万人を対象にAI関連のリスキリングの機会を提供し、日本初となる研究拠点も新設する。さらに、サイバーセキュリティ分野において日本政府との連携を強化することも発表した。
30日の説明会に登壇した日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤亮太氏は「行政機関に対してもAI活用の支援を加速させている。人口減少の中、公共サービスを維持するためにも最先端のデジタル政府の実現することが不可欠だ」と述べた。
政府・自治体で進むAI活用
マイクロソフトによると、同社の生成AIサービスの活用事例は大きく2つに分かれる。1つは生成AIをサービスとして利用する事例。もう1つは企業が独自の生成AIを構築する事例だ。
AIをサービスとして「使う」場合は「Copilot for Microsoft 365」を利用する。AIを「創る」場合は、企業のデータソースを使って独自のCopilotを作成できる「Copilot Studio」や、米OpenAIのあらゆる生成AIモデルをクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」上で使える「Azure OpenAI Service」などを利用する。
マイクロソフトは、政府情報システムにサービスを提供していくために、政府のクラウドサービスのセキュリティ基準であるISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)の取得を順次申請している。Azure OpenAI Serviceは24年2月に生成AIとしてISMAPを初めて取得した。Copilot for Microsoft 365についても、6月中の申請に向けて監査を進めているという。
佐藤氏は「民間企業における生成AIの事例も参考にしながら、政府や自治体のA活用を支援している」と説明。同社によると、Copilotを活用することで週平均で1.2時間の作業時間が削減できるという。KDDIやNEC、日立といった150社以上のパートナー企業と連携し、行政機関のAI活用の支援を加速している。
生成AIの活用方法の理解促進に向けた取り組みにも力を入れている。5月20日には、官公庁・独立行政法人向けの生成AIのイベントを開催。省庁職員135人が参加し、生成AIの具体的な活用方法を学んだ。また、AIに先進的な自治体向けにハッカソンやアイディアソンなども実施し、自治体におけるセキュリティや倫理に配慮した利活用を模索しているという。
こうした取り組みが功を奏し、東京都や総務省、経済産業省、中野区など20以上の官公庁や自治体が同社のサービスを利用して、生成AIを使ったり創ったりしている。また、マイクロソフトはCopilot for Microsoft 365の検証環境を6月より提供を開始する。まずは希望する省庁へ提供を開始し、順次対象の拡大を予定している。機密性の低い文書だけで試行することが可能だ。
「業務シナリオを想定してデモデータをあらかじめ入れた環境で、Copilot for Microsoft 365の機能が業務においてどのように活用できるかを検証できるようになる。投げ込み資料や、政策資料、答弁案などの作成がAIで効率化できる」(佐藤氏)
中野区長「使いこなすためには一定のリテラシーが必要」
中野区もCopilot for Microsoft 365を活用している自治体の1つだ。生成AIのガイドラインを策定し、全職員がすでにブラウザベースのCopilotを利用できる環境を構築している。そして、TeamsやOutlookに生成AI機能が盛り込まれたCopilot for Microsoft 365をDX推進室内で試行的に利用しているという。
今後、DX推進室の職員が講師となって、職員向けにCopilot for Microsoft 365の活用研修を庁内で実施していく。DX推進に意欲的な職員約100人まで生成AIの利用を拡大し、効果測定などを行っていくとのこと。
30日の説明会に登壇した中野区長の酒井直人氏は、「生成AIは非常に優れた技術だが、プロンプト(生成AIへの指示)のスキル、使いこなすためには一定のリテラシーが必要だ。将来的には、議会答弁のドラフトをAIで作成したり、窓口サービスにAIを組み込んだりしていきたい」と、現状の課題と今後の展望を語った。