日立ビルシステムは5月20日、エスカレーターを歩行することの危険性についてメーカー・メンテナンス会社の視点で紹介するWebサイトを開設した。同サイトでは、エスカレーターを歩くとなぜ危険なのかといった内容や、エスカレーターの事故事例や豆知識といったコンテンツを発信している。

また「エスカレーターで片側空けをすると輸送効率が下がる場合がある」との検証結果も紹介。これは、立ち止まって利用する人の割合が多い場合、片側が空いていてもそちらを選ばず、立ち止まる列に並んでしまうためだという。詳細を解説しよう。

「片側空け」をすると輸送効率が下がる?

日立ビルシステムが首都圏某駅で2人乗りエスカレーターの利用状況を調査した結果、一定時間の総利用者のうち、65%の人が左側で立ち止まり、35%の人が右側を歩行して利用した。これは、100人が利用する場合、65人が立ち止まり、35人が歩行するということ。また、静止側の密度は約50%(前の人から1枚空けて乗る)で、歩行側の乗車率は約27%だった。

以下、この条件で計算してみよう。エスカレーターの標準的な上昇方向(高さ方向)の速度は分速15mなので、仮にエスカレーターの高さを5mとすると、利用者が乗ってから降りるまでの所要時間は20秒となる。

ステップ1段の蹴上げ(高さ)は約0.2mなので、20秒の間に25ステップ(=5m)、1分間では75ステップ移動することになる。静止側の乗車率は50%なので、エスカレーターは片側1分あたり(75x0.5=)37.5人連ぶことが可能だ。…(1)

つまり静止側の65人を運ぶ場合、(65/37.5×60=)104秒かかる。

  • 片側を空けた場合のエスカレーターのステップ数と利用者数(静止者・歩行者)のイメージ

    片側を空けた場合のエスカレーターのステップ数と利用者数(静止者・歩行者)のイメージ

一方で、健常者が階段を上る速さは概ね分速30mと言われており、エスカレーターを歩行した場合の移動速度は、ステップ分速15m+歩行分速30m=分速45mと換算できる。これは静止利用時の3倍の速度なので、ステップ枚数に換算すると、1分間で225ステップ移動できるということになる。

歩行側の乗車率は27%なので、エスカレーター歩行時は1分あたり(225✕0.27=)60.75人運ぶことができる。つまり静止側と同じ65人を運ぶのに、歩行側は(65/60.75✕60=)64秒かることになる。

したがって、歩行した場合の方が輸送効率が高い(60.75人/分>37.5人/分)ことになるが、重要なポイントは100人中65人が静止側で立ち止まることを選択すること。これにより、片側空けで100人を運びきるためには結局1分44秒かかってしまう計算になる。

一方、両側立ち止まって利用した場合は、(1)より、1分あたり37.5人✕2列=75人運ぶことができるため、100人運ぶのにかかる時間は80秒となります。

したがって、この条件による計算では、「歩行する人」がいることを前提とした片側空けは、両側静止した場合の1.3倍(104秒/80秒)時間がかかる、あるいは23%(1-80秒/104秒)輸送効率が落ちるといえる。ただしラッシュ時など、より多くの利用者が歩行側を選択した場合、輸送効率が高まる場合もあるとしている。

エスカレーターを歩くとなぜ危険?

なぜエスカレーターを歩くと危険なのか。日立ビルシステムはメーカー側の意見として、4つの理由を挙げている。

1つ目は、エスカレーターの踏段の高さが階段の基準を超えており、つまずく危険があるから。そもそもエスカレーターは歩行しての利用を想定して設計されていないという。建築基準法が定める通常の階段よりも蹴上げが大きく、つまずいたり踏み外したりする危険性がある。また、万が一つまずいた場合、本人ばかりか周囲の利用者が巻き込まれ、大きなけがにつながる恐れがある。

  • 踏段の高さが階段の基準を超えており、つまずく危険がある

    踏段の高さが階段の基準を超えており、つまずく危険がある

2つ目の理由は、ほかの利用者や荷物に接触する可能性があるから。エスカレーターのステップの横幅はメーカーによって異なるが、大半は2人乗り用がステップ幅100cm程度だという。一方、日本人男性の平均的な背肩幅は44cmとされており、衣服の着膨れなどもあるためこれ以上の数値となる。

また、安全に歩行するために必要とされる通路の幅は、1人あたり最小60cmとされているため、エスカレーターの場合は十分とは言えないとのこと。後ろから歩いてきた人がほかの利用者や荷物にぶつかった場合、バランスを崩したり荷物が落下してしまうなどの恐れがあるという。

  • ほかの利用者や荷物に接触する可能性がある

    ほかの利用者や荷物に接触する可能性がある

3つ目の理由は、可動部に巻き込まれる危険があるから。歩行してバランスを崩し転倒・転落することなどにより、ステップ周りの隙間や降り口部分にほどけた靴ひもやゴム製の靴、衣服などが挟まったりすると、大きな事故につながる恐れがある。

  • 可動部に巻き込まれる危険がある

    可動部に巻き込まれる危険がある

そして最後4つ目の理由は、安全装置が作動して急停止する場合があるから。エスカレーターには危険防止のため、異常を検知した際に自動的にエスカレーターを緊急停止させる安全装置がついている。安全装置の作動や停電などでエスカレーターが急停止した場合、バランスを崩し、転倒・転落する恐れがあるとのことだ。

  • 安全装置が作動して急停止する場合がある

    安全装置が作動して急停止する場合がある

日本エレベーター協会が5年ごとに実施している「エスカレーターにおける利用者災害の調査報告」によると、エスカレーターでの災害は2年間で1550件発生しており、その主な原因としては、歩行による転倒や、手すりにつかまらなかったことによる転倒といった、「乗り方不良」が全体の5割超を占めている。

  • 日本エレベーター協会「エスカレーターにおける利用者災害の調査報告(第9回)」

    日本エレベーター協会「エスカレーターにおける利用者災害の調査報告(第9回)」