東京工業大学(東工大)は4月19日、従来の材料を超える非常に高い酸化物イオン(O2-)伝導度と高い安定性を示す「Bi1.9Te0.1LuO4.05Cl」(以下、「オキシハライド1」)などの「オキシハライド」の新物質群を発見したと発表した。
同成果は、東工大 理学院 化学系の八島正知教授、同・上野那智大学院生(研究当時)、同・矢口寛大学院生(現・理化学研究所所属)、同・藤井孝太郎助教らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
現在、固体酸化物形燃料電池(SOFCs)の電解質「イットリア安定化ジルコニア(YSZ)」は動作温度の高さ(700~1000℃)や製作コストの高さ、耐久性が低いといった課題を抱えている。そのため、中温(400~500℃)で高い伝導度を示すO2-伝導体が求められていた。
近年、格子間席に存在するイオンが隣接する格子席にあるイオンを押し出しながら協調的に拡散する「準格子間機構」が注目されている。また、ビスマス(Bi)を含む材料は高いO2-伝導度を示すことから、研究チームは今回、同元素を含み、かつ準格子間機構の材料を求め、新たなオキシクロライド「Bi2-xTexLuO4+x/2Cl(x=0,0.1,0.2)」のO2-伝導度と結晶構造を調べることにしたという。
分析の結果、x=0.1の組成であるオキシハライド1のO2-伝導度が最も高いことが判明。その輸送特性が検討されたところ、次の3点の結果が得られたとした。
- オキシハライド1の電気伝導度は、広い酸素分圧の領域で一定であり、高い化学的・電気的安定性が示された。有意な電子伝導と電子のホール伝導は観察されず、イオン伝導が示唆されたという。多くのBiを含む化合物に比べ、オキシハライド1は安定だったとした。
- 直流分極測定において、抵抗値が時間に依存しなかった。
- プロトン(陽子=水素イオン)伝導が湿潤雰囲気でも無視できた。
以上の結果から、オキシハライド1では、O2-が支配的なキャリア(電荷担体)であることが示唆されたとした。
次に、ほかの物質とO2-伝導度に関しての比較が行われると、オキシハライド1は非常に高いことが確認された。SOFCsの固体電解質で実用化の目安となるイオン伝導度は10mS/cm以上。YSZがその値以上となるのが644℃からだったのに対し、オキシハライド1は431℃からであり、200℃以上もの低温化が示された。
そのオキシハライド1のO2-伝導度の高い理由が調べられると、三重蛍石類似層とCl層が交互に積層した結晶構造を有しており、25~700℃でオキシハライド1は正方のSillén相であることがわかったとのこと。格子間O2席を持つ三重蛍石類似層は、準格子間機構によるイオンの拡散が可能であり、オキシハライド1の高いO2-伝導度にとって重要とした。
オキシハライド1のO2-拡散経路の可視化が行われたところ、O2-は400℃で三重蛍石類似層中を二次元的に拡散することが示された。この解析により可視化された-O1-O2-の拡散経路は、オキシハライド1のO2-が準格子間機構により拡散する直接的な実験的証拠だといえるとする。
また、オキシハライド1は高い化学的安定性も示した。たとえば二酸化炭素の中で400℃、あるいは大気中で600℃、400℃で100時間のアニールを実施しても、分解や劣化はまったく起こらなかったとした。この高い化学的安定性は、高い化学的・電気的安定性と高いO2-伝導度と共に、オキシハライド1が優れたO2-伝導体であることも示されているとする。
続いて、第一原理分子動力学シミュレーションによりO2-の拡散と局所的なダイナミクスが調べられた。その結果、O2席の格子間O2-OBは最近接の格子O1席に存在する別のO2-OAを、隣接する空の格子間O2席に向かって押し出すことが判明。これは、OAとOBの2個のO2-が協調的に移動する、準格子間機構による拡散を明確に示しているとした。
最後に、三重蛍石類似層を持つさまざまな新規オキシハライドが合成され、乾燥窒素中で電気伝導度が測定された。すると、いずれも高い電気伝導度が示されたという。このことは、一連の三重蛍石類似層を持つさまざまなオキシハライドが高O2-伝導体であることを示唆しているとした。
研究チームでは今後、創製・発見した新しいオキシハライドについて元素置換を行い、O2-伝導度と安定性をさらに向上させることを検討中だという。また、オキシハライドを利用したSOFCsを実用化するためには、燃料電池の作製と評価を行う必要がある。そのためには、オキシハライドに適した電極材料の開発を行うことが重要とした。