国立天文台(NAOJ)は4月18日、星が誕生しつつある領域に外部からガスが追加で流れ込む構造である「ストリーマー」を調査するため、野辺山45m望遠鏡を用いて、太陽と同程度の星が形成されている「ペルセウス領域」のクラス0原始星候補天体の1つである「Per-emb-2」のストリーマーに含まれる4種類の炭素鎖分子を観測した結果、その起源などを確認できたことを表した。

同成果は、NAOJ 科学研究部の谷口琴美特任助教、大妻女子大 社会情報学部 環境情報学専攻の下井倉ともみ准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

近年の観測から、星が生まれつつある領域に外部から星の原料となるガスが追加で流れ込む構造である「ストリーマー」が確認されている。ストリーマーは最終的に誕生する星や惑星の化学組成に大きく影響することが推定されており、太陽系の形成段階においてもストリーマーが存在していた可能性があり、初期の地球環境にも大いに関わることから、重要視されるようになってきている。

  • 星形成ストリーマーへ、周囲のリザーバーからガスが流れ込む様子のイメージン

    星形成ストリーマーへ、周囲のリザーバーからガスが流れ込む様子のイメージ。(c)国立天文台(出所:NAOJ 野辺山Webサイト)

仏・NOEMA干渉計により、Per-emb-2にはストリーマーが確認されていたが、そのもととなるガスがどこから流れてきているのか、起源が不明だったという。そこで研究チームは今回、広範囲の分子ガスの分布を調べることを特異とする野辺山45m望遠鏡に搭載された「FOREST」と「Z45」という2つの受信機を用いて、ストリーマーの起源(=リザーバー)を見つけ、ストリーマー自身とその起源の正確な質量を調べ、どれくらいの歳月に渡ってガスが流入し続けるのかを解明すべく、HC3N、HC5N、CCS、CCHという4種類の炭素鎖分子の観測を行うことにしたという。

今回の観測では、ストリーマーが見られるPer-emb-2の北側を広くカバーするマップが取得された。その結果、ストリーマーの周囲に、2つのガスの塊(コア)があることが判明。さらに、電波観測で得られたスペクトルの速度解析により、3番コアが、ストリーマー(1番コア)に向かって流れてきていることが確認され、それがリザーバーであると同定された。2番コアも今回新たに発見されたが、Per-emb-2との関係は現段階では不明で、さらに研究を進める必要があることが確認された。

さらに今回の研究では、米・GreenBank100m望遠鏡や、スペインのIRAM30m望遠鏡などの電波望遠鏡のデータを組み合わせ、Per-emb-2のストリーマーとリザーバーで検出されたHC3N、CCS、HC5Nの詳細な状態解析も実施された。その結果、ストリーマーとリザーバーの物理環境(温度・密度)と化学環境(分子の存在量)の導出に成功。リザーバーの物理環境は、星が生まれる前の星なし分子雲コアに類似していることが明らかにされた。

次に、観測で得られた分子種のうち、CCSとHC3Nの存在量比と、化学反応ネットワークシミュレーションの結果が比較された。すると、リザーバーとストリーマーが化学的に非常に若い組成を持ち、どちらも同程度の化学的年齢であることがわかったという。このことは、今回同定されたコアがストリーマーの材料となっていることの証拠とした。

続いて、観測とシミュレーションの結果を用いることで、リザーバーとストリーマーの正確な質量が計算された。すると、それぞれ太陽質量(約1.989×1030kg)の約16倍と約13倍と計算された。つまり、ストリーマーとして流れ込むことができるガスの質量は最大で太陽質量の約29倍となる。さらに、ストリーマーによる質量降着率は、1年あたり太陽質量の約9×10-5倍と導出された。

  • さまざまな炭素鎖分子の空間分布

    さまざまな炭素鎖分子の空間分布。マゼンダのクロスはPer-emb-2の位置、各パネルの左上にある白丸は野辺山45m望遠鏡のビームサイズが示されている。(上)FORESTで得られたHC3N(a)、CCS(b)、CCH(c)の結果。ピーク(1)および(3)はストリーマーおよびリザーバーに対応。(下)Z45受信器で得られたHC3N(d)、CCS(e)、HC5N(f)の結果。FORESTの観測周波数帯(90GHz)よりZ45の観測波数帯(45GHz)の方が低いため、空間分解能が異なるが、HC3NとHC5Nのマップではストリーマーとリザーバーが十分に空間分解されて検出されている (c)国立天文台 (出所:NAOJ 野辺山Webサイト)

流れ込むガスの速度と全体のガスの量がわかると、ストリーマーの寿命が計算可能となる。仮に、リザーバーにあるガスがすべてPer-emb-2に流れ込むと仮定すると、20万年はストリーマーによるガスの流入が続くと見積もられ、これはクラスI原始星段階が終わるころに対応する。この結果は、濃いガスの中で星が成長する長い時間も、"化学的にフレッシュなガス"が外部から流れ込み続け、絶えず化学的特徴を変え続けることができることを意味しているという。つまり、どの星もストリーマーが存在するのであれば、惑星系の化学的環境は、星の誕生が始まる最初の段階で決まっているのではなく、星の成長が止まるギリギリまで変わり続けることを意味するとした。太陽系にもストリーマーがあったのだとしたら、地球に生命が誕生したのは初期段階から決まっていたのでは無く、最終的にたまたま運よく環境が整っただけの可能性もあるとしている。

研究チームは今後、アルマ望遠鏡を用いて、ガスが流れ込んでいる場所で化学組成が変えられている現場を捉えたいと考えているとした。