名古屋大学(名大)は4月10日、日米共同太陽フレア観測ロケット実験「Focusing Optics X-ray Solar Imager 4号機」(FOXSI-4)に搭載の高解像度宇宙X線望遠鏡の製作を完了したことを発表した。
すでに打ち上げ用観測ロケットに搭載されており、4月5日から2週間の間、毎朝5時間かけて太陽表面に観測に適したフレアが発生していないかを観測した後に、フレアを発見できた場合は米アラスカ州ポーカーフラットリサーチレンジからロケットを打ち上げる態勢にあるという。
同成果は、名大大学院 理学研究科の三石郁之講師、同・作田皓基大学院生、同・安福千貴大学院生、同・藤井隆登大学院生、同・吉田有佑大学院生、東京大学(東大) 先端科学技術研究センターの三村秀和教授、名大 全学技術センターの叶哲生技師、同・石田直樹技師、同・加藤渉技師、同・大西崇文技師らを中心に、夏目光学、ブルーリッジ、大堀研磨工業所、国立天文台、東レ、蒲郡製作所、IMV、JASRI(SPring-8)も参加・協力した産学共同研究チームによるもの。
太陽系最大の爆発現象であるフレアは、太陽表面の活発な黒点群周辺領域で突発的に発生し、強いX線などの電磁波、非常に高いエネルギーの陽子の粒子などに加え、超高温ガスが周囲の惑星間空間に放出される場合もある。それらが地球圏を直撃すれば、大規模な停電や人工衛星の故障などが発生する危険性があるため、フレアの発生メカニズムの解明が強く望まれている。
また近年は、系外惑星における地球外生命探索などの観点からもフレアが注目されており、中でも赤色矮星はフレアの発生頻度も多く、その周辺に存在する惑星環境への影響に注目が集まっている。
FOXSI-4は、フレアの詳細を調べるため、「X線集光撮像分光観測」という新手法で挑む。同観測手法は、望遠鏡と検出器を組み合わせて集光画像を撮像し、光をエネルギーごとに分光する作業を同時に行うもので、太陽は非常に明るいために観測装置への要求が厳しく、これまでは実現が困難とされてきた手法である。
そして今回の実験では、観測に適しているフレアが発生したと判断された後にロケットを打ち上げるという、シリーズ初となる、リアルタイムでフレアの観測が目指されている。これにより、これまでは難しかった大規模なフレアも観測できる可能性があり、かつてない精度での時間・空間・エネルギーなどの情報の同時取得が期待されている。
また、フレア発生時には加熱や加速といった複雑な物理現象が同時に発生するため、いつ・どこで・何が起こっているのかを精確に把握する必要がある。搭載観測機器の高感度化が重要であり、これまでのシリーズのX線望遠鏡はすべてNASAが開発していたが、今回は、名大を中心とする日本国内の産学官連携による分野横断型プロジェクトが立ち上げられ、国産の高解像度宇宙X線望遠鏡の開発が行われた。その高解像度反射鏡は、精密なガラス研磨や電鋳法により開発され、実現が難しいとされる二次曲面形状が、約300nmの精度で達成、実際にX線を用いての解像度の高さも確認済みだという。
そして、打ち上げ時の振動や過酷な宇宙環境下への耐性を確保し、反射鏡の性能劣化を防ぐことを目的としたのが高精度反射鏡支持機構。その開発については、アルミ・ステンレス構造体のμmレベルの精密加工技術、チタン構造体の高アスペクト比精密金属3Dプリント技術、μm厚の薄膜を貼り付け組み立てるという繊細なハンドリング技術などが駆使された。
名大で最終組立てが行われた後に、打ち上げを模擬した振動試験が実施された。高い周波数を含めての試験の実施は容易ではないが、要求振動レベルに対する健全性を確認できたという。その後、X線性能評価試験が行われ、15秒角(約0.004度)~20秒角(約0.005度)の解像度が得られ、過去のFOXSIシリーズの実績値が達成されたとした。なお、名大を中心とする国内の研究チームの手で、最終的には科学目的に応じて軟X線と硬X線の2種類の望遠鏡が1台ずつ開発された。
FOXSI-4の観測機器(望遠鏡と検出器)は7セットあり、それらは日本を含む各地から2023年夏に米・カリフォルニア大学バークレー校に集められ最終組立作業が行われた。そして同年冬には、米ホワイトサンズ射場にて試験を実施。通信・姿勢制御系の装置などが組み込まれたロケットと観測装置が組み合わされ、総合試験は無事完了したという。現在は、実際の射場である米アラスカ州ポーカーフラットリサーチレンジに輸送済みで、打ち上げに適したフレアの発生をまっている状態だという。過去のシリーズは、太陽が比較的大人しい時期に打ち上げられたが、現在は活動極大期を迎えており、フレアが発生する可能性が高まっているとした。