みなさん、お茶は好きですか? お茶をしたくなるのはどんなときですか?

未来館では2024年3月20日(水)から4月15日(月)までの期間、「お茶」と「お茶すること」にフォーカスをした企画、Mirai can NOW(ミライキャンナウ)第6弾 春の茶話会「ねぇ、未来館でお茶しない?」を開催中です。

初日の3月20日(水)にはトークイベント「飲んで探る! おいしくて濃いお茶の世界」を開催しました。ゲストとしてお越しいただいたのは、静岡県島田市にあるふじのくに茶の都ミュージアム客員研究員の白井満(しらいみつる)さん、静岡大学で最先端の科学技術を用いてお茶の研究をされている一家崇志(いっかたかし)さんのお二人。お茶の専門家とともに、ふだんなにげなく飲んでいるお茶のヒミツや未来のお茶について探った1時間半でした。

このイベントの特色はなんといっても、トークに登場する8種類のお茶を参加者全員で飲み比べながら行われたこと。お茶をいれてくれたのは日本茶インストラクターのみなさん。手際よく、一番おいしい状態にいれられたお茶が参加者のみなさんのもとに次々に運ばれていきます。このブログではイベント中に飲まれたお茶とお二人のお話をピックアップしてご紹介します。

会場の一角に現れた日本茶カフェのようなスペース

同じ“お茶”でも全然違う! 奥深いお茶の世界

初めに白井さんからは「そもそもお茶ってなんなのか」という、身近すぎてあまり考えたことがない問いにはじまり、お茶がどのようにつくられているのか、お茶の歴史、さらにはこれからのお茶の楽しみ方まで、まさにお茶のいろいろについてお話がありました。

お茶には緑茶、烏龍茶、紅茶など様々な種類がありますが、これらはすべて同じ植物「茶の木」を原料に作られており、生葉をどのくらい酸化させてから加工するかによって違いが生まれます。また、緑茶の中でも製造過程の違いによっていくつかの種類に分けることができます。今回は緑茶の「深蒸し煎茶」と「釜炒り茶」の飲み比べをしました。

深蒸し煎茶「揉一ひとえ 里」と釜炒り茶「一翠」を飲み比べている様子

重層的な味わいで、渋み・苦味がありつつもそれに負けないくらいのうま味を感じた深蒸し煎茶。一方で釜炒り茶は比較的さっぱりとした味わいでちょうどいい甘みと渋みを感じます。「どちらが好きですか?」の問いかけに会場はちょうど半分に分かれるほど、味わい深い二種でした。

ほかにも白井さんからは今注目のお茶の一つとして日本国産の紅茶(和紅茶)の紹介がありました。日本国産の紅茶は苦味がなく、砂糖を入れなくてもほのかな甘みがするのだとか。紅茶に加工するのに適したお茶の品種の生産も増加しているそうで、今回は「べにふうき」という品種で作られた紅茶をみんなで飲みました。またトークの最後では飲むだけではない、多様化したお茶の楽しみ方の紹介も。今まであまり意識していなかったお茶が自分の中で「なんだか気になる」存在に変わることを感じた時間でした。

思わず写真を撮りたくなるような綺麗な水色のお茶。水色(すいしょく)とは注がれたお茶の色のこと。

お茶の個性はゲノムからもわかる⁉ ゲノムから探るお茶のルーツ

続いて一家さんからは、お茶のゲノム情報を用いて探る日本茶のルーツの解説と、新しい茶品種育種についてお話がありました。ゲノムとは生き物を形づくるための“情報”です。わたしたち人間と同じく、植物であるチャ(お茶)もゲノムによって親から子にその特徴が引き継がれます。一家さんの研究室では日本全国からお茶を採取し、それぞれのゲノムを比べることでお茶がどのように日本に伝わり、広がっていったかを調べています。

 お話の中で登場したお茶の一つが高知県の山茶(やまちゃ)。日本のお茶はそのほとんどが中国から持ち込まれて広まったとされていますが、高知県の山中に生えているお茶はもとからそこにあった(自生していた)可能性が指摘されていました。ゲノムを調べてみると確かにほかの日本のお茶とは違う特徴があるようです。そんな山茶、飲んでみると味も少し特徴的。いい意味で洗練されていない、野性味あふれる味わいです。参加者からは「おにぎりみたいな味」なんて声も。お茶の遺伝的な特徴のお話を聞きながらの飲み比べ体験によって、みなさん次々に感想を口にされていました。

日本のお茶のゲノムを解析し、比較をした図を説明する一家さん(左)。色が同じところは遺伝的に近いことを示しており、高知県の一部のお茶(赤色の部分)はほかの地域のお茶とは違う色を示している。

また、一家さんたちの研究室ではゲノム情報を利用し、新しいお茶の品種をつくるための手法の開発にも取り組まれています。新しい品種をつくるためにゲノム情報を利用するとどんないいことがあるのでしょうか。後日公開予定のアーカイブ動画をぜひご覧ください!

イベントの様子はグラフィックレコーダーの山内あかりさんによってリアルタイムでまとめられました。こちらは4月15日(月)まで未来館5階ロビーにて展示されています。

“ちょっと気になる”から広がる世界

イベント後も会場の盛り上がりは続き、参加者のみなさんは登壇者のお二人に質問をしたり、会場に用意された実物の茶の木や茶葉を触りながら談笑するなど、あちこちで“茶飲み話”に花が咲いていました。

ふだん私たちがなにげなく口にしているお茶。改めてその中をのぞいてみると、そこには今までは知らなかったまさに“おいしくて濃い世界”が広がっていました。お茶の色や香り、味わいを感じながらお茶についての話を聞くというのは、まさにお茶を五感で味わうような体験で、今まであまり意識していなかったお茶が急に自分の日常をちょっと豊かにする存在に変わるような感覚でした。イベント後の週末にはさっそく、日本茶カフェに行き、お茶の時間を楽しみました!

お茶だけでなく、日常の中で当たり前にそこにある何かに目を向けて、考えたりしてみるとそこには思いもよらない出会いや楽しさが潜んでいるかもしれません。



Author
執筆: 青木 皓子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、情報発信や対話活動を行う。これまで、実験教室の開発と運用、研究者とのトークイベントや研究エリア入居プロジェクトのイベントを担当。

【プロフィル】
幼少期は立ち止まっては石を拾ったり、花を摘んだり、空を眺めたりと家に帰るのに時間がかかる子どもでした。学生時代の旅の経験から、いろいろな国の方とお話することが好きです。昨日よりも今日、ちょっとだけいい日だったなと思える日々をつくりたい、そこに科学がどう関わるのかを考えたいと思っています。

【分野・キーワード】
生命科学、植物