1月からスタートした新NISAにより、国内の投資熱が高まっている。そのため、投資セミナーも増えており、人気を博している。JAバンクを介して投資信託を提供する農林中金全共連アセットマネジメント(NZAM<エヌザム>:Norinchukin Zenkyoren Asset Management)も、JA職員や顧客向けに数多くのセミナーを開催している。そこで、同社の担当に、JAバンクの強みを生かした形でセミナーや研修を行う上でのポイントを聞いた。
農林中金全共連アセットマネジメントの立ち位置
農林中金全共連アセットマネジメントは、JAグループの信用事業の領域を担う農林中央金庫と、JAグループの共済事業の領域を担う全国共済農業協同組合連合会を株主とする、JAグループの資産運用会社だ。
同社は元々、機関投資家向けのビジネスが中心だったが、最近は、個人向けにも積極的に投資信託を販売している。個人向けの販売としては、ネット証券を介してNZAM(エヌザム)シリーズを販売するが、中心は、JAバンクの窓口を通じた「農林中金<パートナーズ>」という商品の販売だ。
全国のJAの投資信託販売をサポート
JAは全国に530以上あり、このうち約230JAで同社の投資信託を販売している。そのサポートを行うのが、農林中金全共連アセットマネジメントの営業部 系統窓販サポートグループだ。
農林中金全共連アセットマネジメント 営業部 系統窓販サポートグループ シニア投信アドバイザー 吉澤清志氏は、投資信託販売について、次のように語る。
「JAさんは、地域、農業、暮らしという3つの観点で地域に根付いています。組合員の皆さんに豊かな生活をしていただくために、農業や食の関係でサポートしますが、それ以外にも金融やローン、投資信託といった資産形成の部分もしっかりサポートしていくというのがJAさんの中期的戦略になっています。さらに、この戦略は個々のJAさんが立てた戦略に基づいて実践されていますが、私どもが、ライフプランの中の投資信託の部分でサポートしています」。
具体的に、同社は研修やセミナーという形で、JAをサポートしている。
「全国のJAさんに伺うこともありますが、Web形式で行うこともあります。研修としてJAさんの職員様向けにやらせていただくものと、JAさんが集められた組合員・利用者向けに行う顧客セミナーという2つのパターンがあります」と説明するのは、同じく系統窓販サポートグループ シニア投信アドバイザーの深澤由里子氏だ。
同社が年間に実施する研修やセミナーは300回を超えるという。
新NISAの登場により、新たに投資信託の販売を始めるJAも増えている。そのため、研修やセミナーの依頼は多い。ただ、研修やセミナーに求められるレベルは個々のJAによって異なるという。
「従来のNISA制度の開始以来、投資信託を販売しているJAさんは、ある程度、知識があります。一方、新NISAの開始により、『さらにステップアップするために、研修をお願いします』と言われるケースもあれば、『今後、投資信託を販売したいので初歩的なことから教えてほしい』というケースもあります。研修・セミナーともに来る人のレベルは千差万別です」(深澤氏)
そのため、系統窓販サポートグループは、JAのレベルや知りたい内容によって、個別にセミナーのテーマを決めていくという。
「JAさんの事務局の方との事前打ち合わせには相当時間を割いており、ニーズに合ったものを提供することにしています。統一フォーマットに基づき北から南まで一律でやりますというよりは、オーダーメイド型が多いというイメージです」(吉澤氏)
セミナーに参加する人数もまちまちで、少ない場合は10人弱、JA全体で実施する場合は100名程度集まることもある。
JAの職員だけでなく、商品を購入する顧客のレベルもまちまちだ。
「新NISAはテレビなどでも頻繁に取り挙げられ話題になっているので、関心も高まっています。未経験の方もいれば、他の金融機関ですでに購入されている方も多いです。そこで、経験者に対してJAさんで投資信託を購入するメリットを知ってもらう点も研修の目的の一つになっています。投資を迷われていたり、あまりリスクを取りたくなかったりする方には、コアサテライトといって、資産の土台作りの考え方から案内をするケースが多いです」(深澤氏)
コアサテライトとは、「ベースとなる部分(コア)」と「相場の変動やニーズなどに合わせて付け加える部分(サテライト)」の2つに分けて考える運用手法のこと。コア部分は、長期的な視点で安定収益を期待し、サテライト部分は、比較的高いリターンや分配金の受け取りを期待する部分となる。
ライフサイクル全般の資産運用をカバーできるのが強み
では、JAの強みは何か。それを吉澤氏に聞いたところ、次のような答えが返ってきた。
「JAさんは店頭での信用事業という形で預貯金を、また、共済事業という形で保険を販売しています。加えて、農器具や農薬を販売するなど、多面的に事業を行っています。これは普通の銀行さんにはない窓口の広さだと思っています。生活に必要なお金は信用事業という形での決済になりますし、教育や住宅という目的を持って貯める場合はある程度運用性のある商品となります。資産運用とは、資産の色分けからスタートし、それぞれの資産をどう運用するか、使うのかを決めることになります。JAさんの窓口に行くと、それが完結できます。そこが強みだと思っています」
そうした意味では、JAの場合、日頃から多面的に組合員・利用者と付き合うので、接している時間帯が長くなるため、組合員・利用者はJAに親近感を持っているという。吉澤氏は、「親しみやすいということは、イコール相談しやすいということだと思うので、NISAを活用するにはどうしたらいいのかといった、日頃、家族と会話する延長線上にあるのがJAさんだと思っています」と述べた。
販売する側にも腹落ちしてもらうことが重要
普段、研修やセミナーにおいて工夫している点を聞くと、深澤氏は、実態に沿った内容にすることだと語る。
「研修の根底にあるのは、お客様の資産形成をサポートすることだと思っています。そのため、リスク許容度など、商品を購入する手前の部分も丁寧に紹介することを意識しています。また、JAさんで販売される職員の皆様が同じような課題で壁に直面することもあると思うので、他のJAさんの取り組みの部分を含めて横軸を意識し、かつ、実態に即した内容を伝えられるよう工夫しています」(深澤氏)
さらに吉澤氏は、利用者にNISAを活用してもらうには、まず、販売されるJAの職員に腹落ちしてもらうことが重要だと話す。
「われわれは、販売する側にも投資商品そのものを好きになってもらわないと、思いが伝わらないと考えています。NISAという制度が便利だと思わないと、お客様にも伝わらないでしょう。投資信託にはリスクも当然ありますが、資産を守るために必要な商品であり、そのためにはNISAという制度を活用していくべきだということに腹落ちをしてもらうことが一番だと思います」(吉澤氏)
今後は持続性のある体制・仕組みづくりの支援に注力
同社は今後、JAの持続性のある体制・仕組みづくりのサポートに注力するという。その意気込みを、吉澤氏は次のように語った。
「われわれは、きっかけ作りから具体的な商品説明というサイクルが、JAさんの中にできればいいと思っています。次の世代の方々に引き継げるような体制作り、仕組み作りをJAさんと一緒に目指して、研修やセミナーを通じたお手伝いをこれからも繰り返していきたいと思います」(吉澤氏)