食品のサブスクリプションサービスなどを提供するオイシックス・ラ・大地が、2023年11月にAIを活用した「需要予測システム」の利用をスタートした。同社は2022年より成長戦略として、「ビジネスモデルとテクノロジーの力で地球にも人にもよい食を提供する」を掲げ、テクノロジーとデータを活用したサステナブルリテール(持続可能な小売り業)の実現を推進している。
今回、Data Management Office 室長 中野高文氏に、同社におけるAI導入やデータ活用の取り組みについて聞いた。
データ活用の専門組織「Data Management Office」を立ち上げ
同社は成長戦略の実現に向けて、データ活用を専門とする組織「Data management office(以下:DMO)」を発足した。その室長を務めるのが中野氏だ。
DMOは、“データを用いて食に関する負を解消し、全ての関係者により良い食の体験を提供する”ことをミッションに掲げている。
DMOは「データマネジメントチーム」と「データサイエンスチーム」の2チームで構成されている。前者は分析基盤構築などの誰もがデータを活用できる環境整備を、後者は機械学習などを活用したビジネス課題の解決を担当する。
ECサイトを運営する同社はこれまでも顧客のデータを活用したサービス改善を行ってきたが、「よりパフォーマンスが高く、使いやすいデータ分析基盤を構築すれば、社員の誰もがデータを活用してより良いサービスを作り上げることができると考えています」と中野氏は説明する。
事業部門が自在にデータを分析できる環境を
これまでデータ分析を行う際、事業部門がチケットを発行して、IT部門にデータを出してもらうというプロセスで進められていた。この状況では、データが手に入るまでに時間がかかり、さらに自分が欲しかったデータが出てくるとは限らなかったという。
そこで、「事業部門担当者がセルフサービスで必要なデータを出せ、そのデータが違うと思ったら別なデータを試せる環境の構築が、データ分析を自在に行うためのステップと思っています」と中野氏はいう。
また、事業部門は抽出したデータをExcelなどで分析しており、誰もがデータを分析しやすい状況ではないそうだ。
データ組織を立ち上げて間もなく、リソースも限られる同社のITインフラは、基本的にクラウドのフルマネージドサービスで構築されている。インフラ基盤はAmazon Web Services(AWS)で主に構成されており、DWHはSnowflake、BIはLooker、機械学習はAmazon SageMakerを利用している。
AIを用いた「需要予測システム」を内製開発
そして2023年11月、同社としては初となるAIを用いた「需要予測システム」をローンチした。同システムは主力商品「Kit Oisix」の予測を行っている。
従前は、担当者が一定のデータと経験値をもとに予測を立てていたため、限界があったという。また、予測を立てるために時間がかかり、「売るための価値づくりの時間」が削られていた。
今回、需要予測システムにAIを導入した理由について、中野氏は次のように語る。
「当社は小売り企業なので、重要なことは『どれくらいモノが売れるか』『お客様にどんなものを提案したら買ってくれるか』ということです。AIを活用した需要予測システムによって、食品ロスの削減と流通・小売業の人手不足・労働環境が改善されると考えています」
需要予測システムは内製で開発した。中野氏は、「AIを初めて使うにあたり、現場担当者にヒアリングしてもうまく要件定義できない可能性が高い状況でした。また、私自身が需要予測モデルに関連したビジネスプロセスもわからない状況でした。そのため、アジャイルに作り、事業部に使ってもらってフィードバックを基に改善するというサイクルを回すことが必要だと考えました」と話す。
あわせて、同社の販売方法が多様であるため、既存のソリューションを導入してもうまくいかない可能性もあった。
プロジェクト成功のカギは事業部門との信頼関係
開発プロジェクトは昨年8月から本格稼働し、9月にはプロトタイプが出来上がった。その後、事業部門に使ってもらって毎週フィードバックをもらい、その対応を繰り返すことで、システムのブラッシュアップを図ってきた。
「とにかく速く使ってもらって、フィードバックをできる限り取り込みました。そうすることで、ユーザーもモチベーションが上がります。ユーザーからすると小さな改善でもうれしいものです。例えば、分析結果をスプレッドシートで管理していたのですが、商品の並びを見やすい順番に変えるといった需要予測とはまったく関係ないことが非常に喜ばれました。些細なフィードバックでもクイックに対応する。これが、信頼関係を構築する上で重要です」(中野氏)
今回の開発において苦労した点を聞いたところ、最初、事業部門は「機械学習とは何」という状態であり、また、中野氏自身は事業部門のオペレーションの細かな部分まで理解していなかったため、信頼関係ができるまで手間取ったそうだ。
信頼関係を構築する中で、「技術がわかっている人と現場がわかっている人がお互いを理解しあって動くことが重要であることを改めて実感しました」と中野氏は語っていた。