東京大学(東大)と新潟大学(新大)の両者は3月13日、ポリジェニック効果を定量化する数理モデルを日本人アルツハイマー病に対して開発し、同数理モデルを用いて計算した「ポリジェニックリスクスコア」がアルツハイマー病の発症リスクや認知機能、バイオマーカーなどと関連することを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、東大大学院新領域創成科学研究科の菊地正隆特任准教授、新大脳研究所の池内健教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、アルツハイマー病に関する全般を扱う学術誌「Alzheimer'sResearch&Therapy」に掲載された。
認知症にはさまざまな種類があり、その中でおよそ6割を占める最も多いのがアルツハイマー病だ。同疾患の最大の危険因子は老化だが、それに加えて特定の遺伝的バリアントを生まれつき多く持っている人は発症リスクが高いことが知られている。この遺伝的リスクの強さを個人ごとに算出する方法として、近年ポリジェニックリスクスコアが注目されている。
同スコアは、個人が持つ複数の遺伝的リスクを足し合わせて1つの値に集約したスコアで、主に欧米人を対象に研究が行われてきた。しかしゲノム情報は国や地域によって多様性があるため、アルツハイマー病のポリジェニックリスクスコアを評価するためには、異なるコホートのゲノムデータを用いた検証が必要だという。そこで研究チームは今回、日本人のアルツハイマー病のポリジェニックリスクスコアモデルを構築することにしたという。
今回の研究では、健常高齢者、軽度認知障害(MCI)、軽度アルツハイマー病患者の精密評価を目的として、日本全国38の医療機関が参加して2008年より開始したコホート研究の「J-ADNI研究」のデータが活用された。そして、同コホート研究により集積された、日本人アルツハイマー病患者139人と健常高齢者145人(計284人)のゲノムデータを用いて、アルツハイマー病のポリジェニックリスクスコアモデルを構築。同モデルにより算出されたポリジェニックリスクスコアは、健常者と比べてアルツハイマー病患者で有意に高いことが示されたとした。
さらに、神経病理学コホート由来のアルツハイマー病患者212人と対照群365人(計565人)で構成される独立した日本人コホートに適用した場合でも、同様の結果が再現された。さらにポリジェニックリスクスコアは、「アミロイドβ」と共にアルツハイマー病の原因タンパク質として知られる「タウ」の髄液中濃度とも関連することが判明したという。
また、アルツハイマー病の前駆段階であるMCI患者220人についてのポリジェニックリスクスコアが計算され、そのうち単一の対立遺伝子であり、アルツハイマー病最大の遺伝的リスク因子の「APOEε4」を持たない患者群を高ポリジェニックリスクスコア群と低ポリジェニックリスクスコア群に分け、アルツハイマー病発症についての縦断的な比較が行われた。その結果、高ポリジェニックリスクスコア群は低ポリジェニックリスクスコア群と比べてアルツハイマー秒を発症するリスクが高いことが明らかにされた。
今回開発された日本人のアルツハイマー病ポリジェニックリスクスコアモデルは、アルツハイマー病の発症リスクの推定や、アルツハイマー病治療薬が奏功するグループを見極める層別化に向けた応用が期待されるという。今後は、脳画像や血液バイオマーカーなどの情報をポリジェニックリスクスコアに統合するといった工夫をすることで、精度の高い個別化医療が提供できるようになることが期待されるとしている。