SlackがSalesforceに買収されてから2年半が経過した。CEO(最高経営責任者)が相次いで交代し、かつての勢いを失ったように見えるSlackだが、現実はどうなのか--。Salesforce(セールスフォース)で2022年末に幹部流出が相次いだ際、同社が2021年に買収したSlack TechnologiesのCEOを務めていたStewart Butterfield(スチュワート・バターフィールド)氏もSalesforceを去った。

現時点でSlackにおけるCEOの入れ替わりは懸念点ではない

Butterfield氏は2009年にSlackを共同創業し、長くCEOを率いていた、いわばSlackの顔。その後は、Lidiane Jones(リディアニ・ジョーンズ)氏がCEOを務めたが10カ月で退任、現在CEOとしてSlackを率いるのがDenise Dresser(デニス・ドレッサー)氏だ。

Salesforceで幹部職を歴任したDresser氏は、2023年11月にSlack CEOに就任した。実に1年で3人目のCEOだ。

  • 昨年11月に新たにSlack CEOに就任したDenise Dresser氏

    昨年11月に新たにSlack CEOに就任したDenise Dresser氏

経営基盤の安定性が求められるが、これについてSalesforceを担当するWilliam Blair アナリストのArjun Bhatia氏は「安定したリーダーシップが必要だが、CEOの入れ替わりは現時点では懸念点ではない。Slackほどの規模の企業がSalesforceのエコシステム内で居場所を見出すためには、(幹部の交代は)自然な流れ」としている。

買収時に発表された戦略では、SlackはSalesforceの全ソフトウェアのコミュニケーションレイヤとして位置付けられてきた。一方で、収益を見ると、その成長は鈍化しているという。

成長は鈍化しているが、Slackには優位性がある

Salesforceは2023年春以降、Slackの収益報告を行なっていないが、対前年同期比の成長率は報告している。それによると、会計年2023年第3四半期は前年同期比46%だった成長率は、その後33%、20%、16%、18%と減少を続け、直近の2024年第4四半期は16%だ。

CRM Essentials アナリストのBrent Leary氏は「Slackを独立したブランドとしてSalesforce以外の顧客を引き付け続けると同時に、Salesforceの顧客がプラットフォーム内のあらゆる場所でSlackを使えるようにする、そのバランスを見極めなければならない」と述べている。

Dresser氏は「SlackとSalesforceが一緒になった時のビジョンだった。それほど難しいことではない。Slackにはとてもスペシャルなものがあり、それを育て、継続させたいという認識がある」と話している。

Slackと競合するコミュニケーションツールは数あれど、最大のライバルはMicrosoftの「Teams」だ。「Office 365」「Dynamics 365」と統合し、生成AIでは「Copilot」を持つTeamsとどのように対抗するのか。

Microsoft Teamsへの対抗策

Forrester ResearchのJ. P. Gownder氏は「Microsoft TeamsはCopilotによってさらに多くの(ユーザーの滞在)時間をつかむチャンスがある巨大企業だ」とコメント。

一方、先述のBhatia氏は、Slackが劣勢とは考えていないようだ。「Microsoftの優位性は圧倒的にディストリビューションにあり、相互運用性という点ではそれほど優位ではない。Slackが持つ2つの大きな利点は、相互運用性と使いやすさだ」と分析している。

生成AIへの取り組みなど技術的な課題もある。これについてDresser氏は、生成AIをSlackに統合することは自然なことだとの見解を示す。Slackには多数の知識があり、これらを活用できるからだ。

Dresser氏は「Slackには構造化されていないデータである世界中の会話があり、Salesforceは世界で最も価値のある顧客データを保有している。構造化データと非構造化データをSlackに取り込み、統合することで強力なプラットフォームが誕生する」と述べている。

それでも課題は残る。Butterfield氏らとともにSlackを共同創業し、CTO(最高技術責任者)としてSlackの技術基盤を構築してきたCal Henderson(カル・ヘンダーソン)氏が3月に退社したばかりだ。代わりにCTOに就任したのは、Salesforce 共同創業者兼CTOのParker Harris氏だ。

Dresser氏は「Slack、そしてSalesforce全体の中で、世界、ユーザー、従業員のために何ができるのかということに深い情熱を抱いている。それが私がSlackのCEOとしてここにいる理由だ」と。3月10日付のTechCrunchが新しいCEOとアナリストの声として、レポートしている。