大日本印刷(DNP)は、独自の印刷(Printing)と情報(Information)の強みを掛け合わせた「P&Iイノベーション」による価値創造を目指すDX(デジタルトランスフォーメーション)」に取り組んでいる。その1つがデータドリブン経営だ。これに向けて、同社は社内外に散在するデータを収集、蓄積、加工、提供する「DNPデータ統合基盤」を3年前に整備した。

DNPのデータ活用における課題

データ統合基盤を整備する以前は、システムごとに分散した情報しかユーザーは取得できず、レポートを作成するために担当者はExcelシートに追記し、その報告を別の部署に回覧する「Excelバケツリレー」が日常化していたという。

  • DNPのデータ活用における課題(1)

    DNPのデータ活用における課題(1)

「各工場・支社が送られてくるコピーにコピーを重ねたExcelを利用しているためデータ統合に手間がかかり、作業も属人化していました。事業進捗がリアルタイムに反映できない点や、データを手動で集めてくる作業のやり方は課題になっていました」と、大日本印刷 情報イノベーション事業部 DXセンター DXデザイン本部 DX開発第2部 第2グループ 中西健太郎氏は、これまでのデータ活用における課題を説明した。

  • 大日本印刷 情報イノベーション事業部 DXセンター DXデザイン本部 DX開発第2部 第2グループの中西健太郎氏

    大日本印刷 情報イノベーション事業部 DXセンター DXデザイン本部 DX開発第2部 第2グループの中西健太郎氏

また、情シスを通してデータを持ってこなければならないなど、各種システムに保存されているデータを簡単に分析して業務に活かせない課題もあった。

  • DNPのデータ活用における課題(2)

    DNPのデータ活用における課題(2)

データ統合基盤では、さまざまなシステムからデータを収集し、一元的に管理。データ活用の利便性を高めることを考えて作成されたという。そして、集めたデータを実際のアクションに移すためのフロントエンドツールとして「Qlik Sense」を導入した。

  • DNPデータ統合基盤の全体

    DNPデータ統合基盤の全体像

1年半で利用ユーザーは60倍以上に拡大

同社では3つのステップでQlik Senseの利用を拡大していったという。最初のステップは、2020年10月から開始した100名規模のPoC(概念実証)だ。

このステップ1では、Qlik Senseを使って自分たちの課題を解決したいと希望する社員を中心に活用を始めた。情報システム部門と連携し、スモールスタートで始めたため、うまく活用を進めることができたという。

ステップ2は、2022年10月からスタートした社内展開だ。

「ステップ1でしっかり成功事例を作ってから、ステップ2に入っていきました。Excelのバケツリレーをやめていきましょう、Qlik Senseに置き換えていきましょうというメッセージを発信すると同時に、ステップ1で得た成功事例を紹介しながら、Qlik Senseを使うメリットをアピールしながら広めていきました。特に、1人に仕事が集中して残業が増えてしまっているといった課題がある方にツールを展開しました。また、どれだけ作業時間が減ったのか、もしくはデータ分析を始めて売り上げがどれだけ上がったのかを算出し、横展開していきました」(中西氏)

その結果、展開開始から1年足らずで利用ユーザーは1700人以上に拡大した。

そして、2023年1月からのステップ3では、ユーザー自身が学びながらアプリのダッシュボードを作っていく部分や汎用機能を整備して利用門拡大を図った。現在、ユーザー数は6500人を超えるところまで拡大している。

  •  DNPのデータ活用推進のステップ

    DNPのデータ活用推進のステップ

中西氏は社内への浸透について「DXソリューションは、全体に一気に広げると反発も大きく、自分たちの今までの業務を壊したくないという人もたくさんいる中では、利用を拡大するにはスモールスタートして、成功体験を積み重ねていくことが必要だったと思っています」と振り返った。

また、利用拡大においては、社員をサポート体制も整備した。利用の取っ掛かりとしては初級者向け講習を設けたが、さらに詳しく知りたい人には、サポートチームが個別対応することも行った。また、データを活用するための専用のTeamsを社内で立ち上げ、そこに質問を投げると、誰かしらの知見者が回答するという運用も行っている。

BPO部隊では作業時間は100分の1に

企業の業務プロセスを一括して外部に委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のためのITインフラの構築・運用を行っている、大日本印刷 情報コミュニケーション製造統括本部の大澤祐介氏が所属する部署は、早い段階からQlik Senseを活用した。

  • 大日本印刷 情報コミュニケーション製造統括本部 大澤祐介氏

    大日本印刷 情報コミュニケーション製造統括本部 大澤祐介氏

大澤氏は「運用や保守を実施していく上で、データの可視化や分析を頻繁に行っていました。私の部署では、月に70万件ぐらいのデータをやりとりしていますが、環境を種別ごとに調査したい、システムエラーの傾向が見たい、曜日別の利用状況を見たいといったニーズがあります。運用ログの調査では、これまでExcelを使って分析していましたが、膨大なログがありますので、すべてのログをExcelに取り込んで分析することはできません。そのため、必要なものをその都度採取して、加工して調査していました」と当時の課題を振り返る。

  • 情報コミュニケーション製造統括本部におけるデータ分析の課題

    情報コミュニケーション製造統括本部におけるデータ分析の課題

Qlik Senseの活用により、現在ではデータの利用状況や傾向が見られるダッシュボードを作って分析しているという。同氏は「作業時間は300分から3分になり、圧倒的に作業スピードが速くなっています」と効果を口にしている。

  • 情報コミュニケーション製造統括本部の「Qlik Sense」の活用

    情報コミュニケーション製造統括本部の「Qlik Sense」の活用

今後の展開

同社では、ある程度利用ユーザーも増えてきたことから、今後はQlik Sense利用の高度化に取り組んでいく。

「これまでは、現在行っている分析を『Qlik Sense』に置き換えて効率化しましょうという部分でしたが、これまでできていなかったデータのさらなる活用、Excelではできなかったデータを起点した新たな変革をやっていくのが次の展開だと思っています」(中西氏)

具体的な利用高度化施策としては、情報共有を考えているという。大日本印刷 情報イノベーション事業部 DXセンター DXデザイン本部 DX開発第2部 第2グループ リーダーの鶴田博則氏は「施策として、もっとQlik Senseを深く知るための講習会を社内で実施していくことが1つ。もう1つは、各利用部門の成功体験や困りごと、失敗も含めて情報共有する組織横断の会議を設け、そこでの交流を踏まえ、使えるところは取り込んでもらい、うまくいかなかったところはサポート部隊が支援に入るというような取り組みを行って活性化していこうと思っています」と力を込める。

  • 大日本印刷 情報イノベーション事業部 DXセンター DXデザイン本部 DX開発第2部 第2グループ リーダーの鶴田博則氏

    大日本印刷 情報イノベーション事業部 DXセンター DXデザイン本部 DX開発第2部 第2グループ リーダーの鶴田博則氏

また、昨年に同社は国内外のグループ社員約3万人が生成AIを業務で利用できる環境と体制を構築し、運用を開始している。そのため、この環境を活用してQlik Senseのスクリプト生成に取り組むことも検討している。

さらに、次年度は経営層への利用拡大も進めていく。鶴田氏は「経営層がQlik Senseを見て、どのような経営判断をしていくのかということをチャレンジしようとしているのがこの2024年度になると考えています」と展望を語っていた。