琉球大学と沖縄県立芸術大学の両者は3月5日、沖縄県恩納村の海底洞窟から、ホンヤドカリ科のヤワクダヤドカリ属Trichopagurusに属する新種のヤドカリを発見し、和名「ドウクツヤワクダヤドカリ」(学名:Trichopagurus spinibrachium)と命名したことを共同で発表した。

同成果は、琉球大 理工学研究科の中島広喜大学院生(日本学術振興会特別研究員DC2)、沖縄県立芸術大学の藤田喜久教授、島根大学の大澤正幸客員研究員らの研究チームによるもの。詳細は、動物に関する全般を扱う学術誌「Zootaxa」に掲載された。

琉球列島の海底洞窟における生物相研究は沖縄県立芸術大の藤田教授を中心として精力的に進められており、複数の新種を含む多数の生物が生息していることが近年確認されている。沖縄の海底洞窟からは、これまでに30種のヤドカリ類が記録されており、藤田教授や島根大の大澤博士らの研究により、新種のヤドカリも発見されてきたという。

ヤドカリ類は世界中の沿岸から深海にかけて1400種ほど、日本からは200種ほどが知られているが、未記載種(学名が付けられていない種)も依然として多く存在しているという。ヤドカリ類は多くの種において、その腹部を隠すように腹足類(巻貝)の殻を背負っているのが特徴だ。

恩納村における今回のダイビングでの海底洞窟調査は、2023年7月に実施された。調査地は半水没した通路状の海底鍾乳洞が水平方向に広がり、水深はそれほど深くない場所。地中を通って染み出した淡水の影響を受けているアンキアライン環境(海水と淡水が混じった地下水域)となっており、小規模ながら独特の景観・環境が広がっていたとする。この恩納村の海底洞窟からはごく最近、洞窟という暗所へ適応したことで、眼が退化し体が白いという特徴的な形態をもつカニ「ヨミノショウジンガニ」が発見されており、そうしたことから珍しい生物の発見を期待した調査だったとのことだ。

  • 調査された洞窟内の様子

    調査された洞窟内の様子。ライトを消すと完全に暗黒になるという(撮影者:藤田喜久氏)(出所:琉球大プレスリリースPDF)

今回のヤドカリの新種は、洞窟の入り口から30mほど奥、水深1m程度の場所で発見され、このヤドカリは脚を広げても1cm未満と非常に小さいものであることが確認された。なお、現地での調査が数度行われたが、最初の調査時に中島大学院生が採集した1個体しか発見できなかったとする。

また採集されたヤドカリの外部形態に関する詳細な観察の結果、今回のヤドカリはホンヤドカリ科の1グループであるヤワクダヤドカリ属Trichopagurusに属することが判明。この属はこれまでに4種のみがインド-西太平洋域から知られていることから、続けて全種の文献情報と今回の標本の比較が行われた。その結果、今回の標本は鉗脚(かんきゃく、ハサミ脚のこと)の側縁に多数の棘を備えるなどの形態的特徴から、間違いなく未記載種であることが明らかになったとしている。

  • 今回発見されたドウクツヤワクダヤドカリを宿貝から抜き出した状態

    今回発見されたドウクツヤワクダヤドカリを宿貝から抜き出した状態。目盛りは1mm刻み(撮影者:中島広喜氏)(出所:琉球大プレスリリースPDF)

そこで今回の論文では、この種の学名をTrichopagurus spinibrachiumとして新種記載が行われた。その種小名のspinibrachiumは、棘(spina)、腕(brachium)という意味のラテン語を組み合わせたもので、腕のように見える鉗脚に多くの棘を有するという、このヤドカリの特徴的な形態に由来するとのことだ。

また洞窟がこのヤドカリの発見地であったことから、和名は“ドウクツヤワクダヤドカリ”と命名された。しかし、どの程度洞窟に依存する種で、どのくらいの数が生息しているのかなど、生態的な情報はまったくない状況であり、今回の新種ヤドカリのみならず、近年になって多数の生物が琉球列島の海底洞窟環境から見つかっていることからも、海底洞窟環境における生物の知見はまだ不足している状態であるといえるという。つまり、今後の継続的な調査は必要不可欠であり、それによってさらなる新種の発見にとどまらず、生態系や生物多様性を考える上で重要なことがわかってくる可能性があるとしている。

2024年3月11日訂正:記事初出時、タイトル内にて「改訂洞窟」との記載がございましたが、正しくは「海底洞窟」でございましたため、当該箇所を訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。