吴江浩・中華人民共和国駐日本国大使に直撃!「様々な問題をしっかりコントロールし、全体として良い方向にむけて日本側と一緒に努力する」

「両国の経済協力は緊密。下手をすれば一緒に損をし、逆に得をすれば一緒に繁栄する。両国の経済人はこの関係を継続させていくことが大事だ」─。このように語るのは中国大使の吴江浩氏。米中対立が続く中で日本人ビジネスマンが拘束されるなど日中間の懸念材料もある。しかし、吴氏は「中国の発展には世界が欠かせず、世界の発展にも中国が必要」と話し、グローバル時代における相互に交流拡大が必要と強調する。新しい時代における日中関係とは。

<世界が混沌とする中、日本の立ち位置は?> 答える人 前防衛大学校長・國分良成

得をすれば一緒に繁栄する関係

 ─ 駐日大使就任から約10カ月が経ちましたが、自らの使命をどう考えていますか。

 吴 今回は3回目の駐在となり、十数年ぶりに日本に戻って仕事をすることになりました。その間、中日両国とも大きく変化しつつあることを痛感しています。また、それよりも大きな変化は私たちのいる世界が激動していることです。

 中日関係は利益が緊密に結びつき、重要な発展のチャンスを迎えていますが、同時に国際情勢、特に外的要因によって著しく妨害され、新旧の様々な問題が絡み合い、際立っています。これはかつて経験したことのない新しい局面で、双方が新たな中日関係を考えて策定するのに新たな困難と試練を与えています。

 その中で私の使命は両国の関係を維持し、健全的に発展させるように努力することです。それが両国民の根本的利益に合致すると信じているからです。両国間に存在する課題を前に、私は一貫して中日関係には自らの「軸」があるべきだと主張しています。それは中日間で結んだ4つの政治文書が確立した諸原則です。

 昨年11月、習近平主席と岸田首相はサンフランシスコで会談し、中日間の戦略的互恵関係の全面的推進を再確認し、両国関係の方向性を明らかにしました。我々は日本側と協力しながら両首脳の重要な共通認識を導きとし、中日関係が正しい軌道に沿って絶えず改善・発展させ、新時代の要請にふさわしい建設的かつ安定した中日関係を共同で築いていきたいと望んでいるところです。

 ─ 外交や経済など様々な領域で摩擦が起こっています。経済人への期待はありますか。

 吴 様々な問題はしっかりとコントロールし、適切に処理していく。その結果、全体として良い方向に持っていくことが我々の基本的な考えであり、日本側と一緒に努力していきたい。

 一方の経済は中日関係で非常に大きなプラスの役割を果たしてきました。両国の経済協力は緊密です。お互いの利益が重なり合って、下手をすれば一緒に損をする。逆に得をすれば一緒に繁栄する。そういう関係です。両国の経済人は、この関係を継続させていくことが大事です。

日本のバブル崩壊時とは違う

 ─ 世界は不動産問題を含む中国経済に対し、日本のバブル崩壊を経験したことになぞらえて〝第2の日本〟になる可能性があるとも言われています。

 吴 そういった見方があることは知っています。ただ、日本のバブル崩壊と中国の今の状況は違います。当時の日本のレバレッジ引き下げは受動的かつ急速に発生したものですが、私たちは数年前から積極的にレバレッジ引き下げ措置をとり、不動産や地方債、中小金融機関などのリスクを防止し、リスクを発生させないように守りました。

 また、中国経済には6つの点で底力があります。

 1つ目は中国が社会主義市場経済で、市場経済と社会主義両方の優位性を兼備することで中国経済の長期的で安定した発展を守っていることです。2つ目は14億人の人口かつ4億人を超える中所得者層を持つ巨大市場があることです。3つ目は完備された産業システムがあることです。22年の製造業成長は全世界の約30%を占め、そこから生み出す供給面の優位性は中国経済に強いパワーを注いでいます。

 また、4つ目は質の高い労働者と起業家を多く有していることです。高技能人材は6000万人を超え、人材リソースや研究開発者の総数は世界トップです。5つ目はグリーン発展への転換による著しい成果です。中国は過去10年間、年平均3%のエネルギー消耗率で平均6.6%の経済成長を支えました。世界で最も速くエネルギー消耗の低減を実現している国の1つであり、「グリーン経済」はすでに採算の取れない経済ではなく、新たな成長源となっています。

 6つ目はイノベーション能力が絶えず進歩していることです。年間特許取得は92.1万件、ハイテク企業数は約40万社に増加し、ユニコーン企業数は世界第2位です。これらの理由で中国経済には自信を持っています。

 ─ 自動車の輸出で日本を抜いて世界第1位となる中、今後の中国の経済成長の点で注目している点は、どこですか。

 吴 自動車産業全体は日本が強いですよ。中国経済の将来については、「新しい生産力」というキーワードに注目してもらいたいです。つまり従来の経済成長方式から脱却し、新産業、新モデル、新エネルギーを生み出します。中国は新型工業化を力強く推進し、デジタル経済を発展させ、人工知能(AI)の開発を加速し、バイオ製造、商業宇宙開発などを戦略的新興産業にしていきます。また、量子や生命科学など未来産業の新産業も生み出し、スマートデジタル技術とグリーン技術も生かす考えです。

 これらの産業には高い成長性と強いエンパワーメントがあり、1兆元級の新産業の創出につながります。これを未来の中国経済発展のプロセスとし、中日経済協力の新たな成長ポイントにしていきたいと。中日双方が科学技術革新協力を強化し、両国それぞれの経済発展に新しいエネルギーを注ぐようになることを希望しているところです。

 ─ 民間レベルでの交流は欠かせませんね。一方でスパイ行為の取締り強化を目的にしたスパイ防止法で日本人ビジネスマンが拘束された事案が日本側に不安を与えています。

 吴 これは中国の法律に違反する行為を疑われたからです。中国で正常な経済活動をして、機密情報に手を出さない限り問題ありません。中国に行って街を歩いたら逮捕される、旅行して写真を撮ったら逮捕されることはあり得ません。

 中国は一貫して中日間の民間交流と協力を大いに提唱し、支持しており、この立場はいささかの変化もありません。個別な違法行為と正常な交流は全く別の問題であり、混同してはいけません。不法な行為に対して、引き続き法に基づき対処していきます。

 ─ ところで足元では米中対立が続いており、日本や世界の企業の脱・中国の動きが加速しているとも言われていますが。

 吴 市場経済の環境の中で外資企業の出入りは自然なことです。一部の外資企業は中国から離れましたが、それが基本的な流れにはなっていません。2023年の中国の外資利用額は依然として1632億㌦の高水準にあります。中国経済のモデル転換や中国企業の急成長、市場競争の激化などの理由によるか、自身の競争力不足による撤退は市場メカニズムの結果でもあります。

 データによると、昨年の中国での新設日系企業は前年比7.3%増の888社で、日本は中国第3の外資供給国でした。また、中国日本商会が会員企業1700社を対象に行ったアンケート調査によると、88%の日本企業がなお中国を重要な市場とみなし、中国市場の見通しは明るいとしています。日本企業にとって、中国事業の収益率は他国より遥かに高いわけです。

 中国の発展には世界が欠かせず、世界の発展にも中国が必要です。中国は高いレベルの対外開放を持続的に進め、中国式現代化によって世界により大きなチャンスを与えます。先般、李強総理は日本経済界訪中団と会見した際、「中国は最大の誠意、最大の努力によって、日本企業の中国事業のために公平、安全で、安定した環境を提供する」と言いました。我々は常に日本企業が中国に投資し、未来に投資することを歓迎しています。

なぜ米国大統領選挙で世界秩序が左右されるのか?

 ─ 世界で分断の動きが出ている状況をどう見ますか。

 吴 一番大きな原因は米国の一部の方が、中国のこれ以上の発展は許せないと思っているところにあります。その中で、同盟国を動員し、中米の問題を世界と中国の問題にしようとしています。残念ながら、日本もその中に巻き込まれているのです。このときの日本の判断が非常に重要になります。今は日米同盟原理主義のようなものがあると言われます。

 しかし一方で、中日の間では平和友好条約があります。この条約は双方の国会の了承を得てできた条約です。お互いにこれを守る義務があります。その意味では、中日関係には自らの「基軸」があるべきです。それはまさに冒頭に申し上げた4つの政治文書です。外の世界がどう変わろうとも、中日は一緒にこれを守っていく必要があります。

 ─ アメリカの大統領選挙があるため、情勢がより複雑になり、そこの折り合いをどうつけていくかですね。

 吴 ええ。日本の世論もアメリカ大統領選挙で世界の秩序が左右されるという言い方がありますが、アメリカ一国の問題で全世界が左右されるべきではありません。アメリカの内政がどう変わろうとも、世界は安定と繁栄を維持するためにも、中日関係がしっかりとした基軸を守るべきです。さもなければ4年に1度の米国大統領選挙に翻弄され続けてしまいます。

 ─ さて、いま喫緊の課題の台湾問題について、どう向き合っていきますか。

 吴 あくまでも台湾は中国の一部です。内戦の遺留問題として、両岸は統一ができないまま今に至っていますが、中国の統一を図る意思は、中国の一人ひとりが持っている考えです。これは統一しなければいけませんし、必ず統一するという強い意志を持っています。

「平和的統一、一国二制度」の方針は両岸の統一を実現する最善の方式であり、これはこれからも変わりがありません。ただわれわれも決して武力行使の放棄を約束しません。その対象は外部勢力からの干渉とごく少数の「台湾独立」分裂勢力およびその分裂活動です。台湾問題は中日関係の根幹に関わる問題であり、日本が中日の4つの政治文書の原則とこれまでの約束を誠実に守り、言動を慎み、中日関係に大きな衝撃をもたらすことを避けるよう希望します。

 ─ 最後に今後の日中間の経済交流・対話はどんな方向に向かうべきだと考えますか。

 吴 まずはパートナーとの位置づけを堅持すること。中国が発展し、その経済規模が日本を超えた今、双方は一部の分野で競争することが増えていますが、互いに発展のパートナーであるとの位置づけは変わっておらず、ウィンウィンの旗印を高く掲げるべきです。広範囲の協力によって、互いの発展を促進すべきだと思っています。

 第2に協力の分野を広げること。デジタル経済、グリーン低炭素、財政金融、省エネルギーや環境保護、医療介護など多くの分野でしっかりとした協力を行っていくことが大事です。科学技術のイノベーションや第三者市場協力などにおいても大きな潜在力を持っている。 将来を展望すれば、中国も日本もデジタルトランスフォーメーションやグリーントランスフォーメーションなど共通の課題に直面しており、人口減少と高齢化による共通の問題を解決しなければなりません。

 第3に開放的な世界経済を構築すること。中日両国が主要経済国として、グローバル経済ガバナンスに積極的に参加し、公正・合理かつ透明性のある国際経済貿易投資ルールシステムを構築し、貿易・投資の自由化及び円滑化を促進すべきです。それがグローバル産業チェーンとサプライチェーンの安定につながり、世界経済の更なる回復と発展を促進すると期待しています。昨年から中国は国際サプライチェーン博覧会という重要なプラットフォームを構築し、今年11月に第2回の大会が開催される予定です。すでに多くの日本大手企業が強い関心を示しており、より多くの日本企業が積極的に参加することを期待しています。

 最後に、日本の経済界が中日経済貿易協力に引き続き力を入れることを期待し、中国でより大きな成功を収めることを信じています。