みずほ証券チーフマーケットエコノミスト・上野泰也の見方「誰もが口にする『トランプ返り咲き』の可能性」

1月9日、ブルトン欧州委員(域内市場担当)は討論会の席上、2020年1月のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に出席したトランプ米大統領(当時)がフォンデアライエン欧州委員長に対し、「われわれは欧州が攻撃されても決して助けに来ないし、支援もしない」「NATO(北大西洋条約機構)は死んだ。われわれはNATOから離脱する」と語ったことを明らかにした。

 それから4年。1月15日に始まった今年のダボス会議にトランプ氏は出席しなかった。だが、陰の主役はトランプ氏だった。米通信社によると、ダボス会議では「同氏の米大統領返り咲きの可能性を誰もが口にしていた」という。

 中央銀行サイドからも、「トランプリスク」への警戒が表明されている。1月11日にテレビ出演したラガルド・ECB(欧州中央銀行)総裁は、米大統領選でトランプ氏が勝利すれば欧州にとって「脅威」になると明言。貿易関税措置やNATOに対するトランプ氏の対応などに触れ、「トランプ氏が政権を担った4年間を振り返れば明らかに脅威」とした。

 トランプ氏は大統領在任中、FRB(連邦準備制度理事会)に利下げを要求する「口先介入」を何度も実施。昨年9月のインタビューでは、大統領に返り咲いた場合に同じことをする可能性を否定しなかった。パウエルFRB議長の任期は26年5月に満了するが、トランプ氏が大統領に復帰する場合、再任するつもりはないようである。

 会合開催から5年が経過し、18年に開催された米FOMC(連邦公開市場委員会)の詳細な議事録が1月12日に公表された。パウエル議長だけでなく他のFRB理事らも討議の場で「トランプ」とは全く口にしなかったことがわかった。中央銀行の独立性を十分念頭に置いた上で、議論が進められたのだろう。

 もっとも、大統領の強い要請をFRBがどこまで拒否し続けられるかという点のほかに、仮に利下げが妥当だという結論が出てそれを実行する場合でも外形的には大統領の圧力に屈した形になってしまうことや、大統領の利下げ要請を拒否する姿勢をなるべく前面に出したいがゆえに政策運営がタカ派に傾斜して失敗するリスクなど、難しい問題がある。仮に大統領選でトランプ氏が勝利する場合、そうした「もやもや」から逃れたいという願望が作用し、11月の選挙直後と12月のFOMCで前倒し的に利下げをしておく方向へとパウエル議長は傾きやすいのではないか。

 岸田内閣も、「トランプ返り咲き」に備える動きを見せ始めた。報道によると、トランプ氏とのパイプ役として、麻生自民党副総裁に首相は期待を寄せているという。

 選挙結果が「トランプ返り咲き」となる場合、日本の政治・経済・金融市場もまた、大きく揺さぶられることになる。