米国のIT企業のレイオフのニュースが目立つようになって1年以上が経過する。決算発表ラッシュの現在も、新たな削減が見出しを飾っている。米国経済は不調ではないのに、なぜなのか?
何が理由で米国ハイテク企業のレイオフが続くのか
米国のIT企業のレイオフが目立つようになったのは2022年終わりからだ。大きなショックとなったのは2023年1月、1万人という大規模なレイオフを発表したMicrosoft。好調に見える同社だっただけに首を傾げる向きも多かった。
その数日後、今度はGoogle(Alphabet)が1万2000人の削減を発表、Amazonも1万8000人規模、Metaも1万人規模をそれぞれ削減し、GAFAMではApple以外が大規模な解雇を発表した。それ以外でも、約10%の解雇を発表したSalesforceなど、およそ名前が思いつく有名どころはなんらかの形で人員削減を行なっていると言っても過言ではなさそうだ。
多くが、1回限りではなく、その後も追加の削減を発表している。米国では2024年1月、35万人以上の新規雇用があったのに、だ。
では、米国は不景気なのか?景気のサイクルは高速化してはいるものの、米国の実質国内総生産(GDP)は速報値では前年比2%以上の成長と報じられ、潜在成長率を上回る数字だという。なお、日本は1.9%増なので、数字の上では日本より成長している。
人員削減が特に集中しているのがIT分野だ。The Washington Postは「企業が投資家から収益改善を迫られているため」とその理由を分析する。2022年に投資家はIT株を売却する動きが続き「企業は投資家を呼び戻すために利益を増やすことに集中している」と同紙。
もう少し前に遡ると、コロナ禍でリモートでも仕事ができる、リモートでも会議ができる環境や機器を提供するとして、IT分野は好調だったことが思い出される。米国のIT企業は人材の取り合いで、過剰に雇用した後の調整という見方もされている。
収益性を追い求め、富の創造を突き詰めることは非情なこと
記事では、Amazon CFOのBrian Olsavsky氏の「われわれは常に何に投資するのかに注意しており、新しいもの、新しい分野、顧客の共感を得られるものへの投資を継続する」という言葉を引用し「これがアメリカの資本主義システムのやり方だ。収益性を追い求め、富の創造を突き詰めることは、非情なことでもある」というMoody's Analyticsの最高エコノミスト、Mark Zandi氏のコメントを紹介している。
景気動向、コロナ禍の需要増による雇用過多だけではない。2023年に入ると経済懸念が渦巻き、インフレの波が米国を襲う。
これにより、企業はソフトウェアやクラウドへの投資を減速させたとWashington Postは分析。D.A. Davidson テックアナリストのGil Luria氏は「2024年に向けた直近のデータでは、状況は悪化はしていないが、改善もしていない。企業は引き続き財布の紐を緩めないだろう」とコメントしている。
Washington Postによると、IT企業が集まるベイエリアの活気は衰えているという。「以前は技術系労働者は転職して今より高い給料、高額な株式報酬を勝ち取ろう考えていたが、パワーが部分的に消えつつある」という。
ストックオプションのために3~4年ごとに会社を渡り歩いた人は、現状維持にとどまっているとも。また、社食など待遇の良さで知られたGoogleやMetaは無料のランドリー、無料のマッサージ、フィットネス施設などの福利厚生を縮小されつつあるとのことだ。
AIも雇用に忍び寄る
記事では、実際に解雇された人の声も拾っている。Amazonを解雇された女性は、それまでMicrosoftを含むテック企業でソフトウェアエンジニア、データサイエンスとして勤務したほか、製造業でも経験を持つという。以前なら数日で仕事が見つかったが、なかなか見つからないと述べているそうだ。
解雇のターゲットの1つが、比較的報酬が高い中間管理職だ。記事によると、解雇された人の中にはマネジメントに戻るのではなく、コードを書く仕事に戻ろうとする人もいるそうだ。
しかし、そこにはAIが忍び寄る。「AI企業は労働者の生産性が向上し、企業の収益が向上すれば、成長と雇用の拡大につながると主張している」と同紙、しかし技術者もアナリストもそうは思っていないという。
前出のZandi氏は、「IT分野は今後、それほど多くの人がいなくても生産性と技術革新を続けることができるようになるかもしれない」と述べている。
「かつては華やかで高報酬、憧れの的だったIT関連の仕事だが、近年は安定性が低くなり、多くの人にとって魅力が薄れている」と記している。The Washington Postが「The U.S. economy is booming. So why are tech companies laying off workers?」という記事でレポートしている。