「ペーパーレス化」という言葉を1度も聞いたことがないという人は少ないのではないだろうか。ペーパーレス化とは、電子化などによって紙の使用をなくすことを指す言葉で、特にビジネスにおいては、これまで紙で運用されていた文書・書類・資料などを電子化して活用することで、業務効率化やコスト削減を図ることを指している。

今回は「プリンター」という紙を扱う製品を主幹事業としながらもペーパーレス化を推進するための取り組みを社内外で展開するエプソン販売に伺い、ペーパーレス化の現状や重要性について、同社 販売推進本部 副本部長の福田雄一郎氏に聞いた。

  • エプソン販売 販売推進本部 副本部長の福田雄一郎氏

    エプソン販売 販売推進本部 副本部長の福田雄一郎氏

ペーパーレスの象徴は「年賀状」

ペーパーレスという言葉を耳にするようになって長い年月が経つが、未だに紙を使用する場面は多い。特にビジネスの現場においては、経理作業や名刺交換などの時に「ずっと紙を使用しているな」と感じたことがある人も少なくないだろう。

しかし、福田氏は「ペーパーレス化は間違いなく推進されている」と説明する。その象徴とも言えるのが「年賀状」の存在だ。

「年賀状は、昔、40億枚以上が刷られていた時期もあるのですが、現在はその半分以下に減少したと言われています。またビジネスシーンでも、モバイルPCの出現や環境に配慮するべきという考えが普及してからは大きく減少したように思います」(福田氏)

  • ペーパーレス化の現状を語る福田氏

    ペーパーレス化の現状を語る福田氏

確かに言われてみれば、筆者もここ数年で年賀状を受け取る機会は随分と減ったように思う。年賀状以外でも、結婚式の招待状などもデジタル上で配布するのが浸透しつつあると聞く。もちろんSNSの発達といった背景もあるかもしれないが、ペーパーレスへの配慮もあるのだろう。

このようにペーパーレス化の推進を感じている福田氏だが、「紙でのコミュニケーションがなくなることは絶対にないと思っている」とも語る。

「紙を使用した業務やコミュニケーションはなくならないと考えています。特に学校現場や医療現場といった業種では紙を用いての業務はマストになっていますし、職種に限らなくても、紙をまったく使わずに仕事ができるほどのデバイスが出てきていないということが大きいと思います」(福田氏)

確かに筆者も記者会見に行けばノートにメモを取るし、紙の資料を見ながら打ち合わせをすることも多い。反対に、書きかけの原稿の保存に失敗してPCの存在を恨んだことも1度や2度ではない。そう思うと、「紙をゼロにできるデバイス」は存在していないのかもしれない。

では、なぜエプソン販売はペーパーレス化を推進しているのだろうか?

エプソン販売の進める「紙に縛られない働き方への変革」

エプソン販売がペーパーレス化を推進する背景として、重要視しているのが「顧客はなぜプリンターを使うのか?」という部分だ。

元々エプソンはプリンターで紙文化に大きく関与していたが、働き方の変化や環境への向き合い方への変化などで「今の『働き方』『環境』でプリントは効率的なのか?」という問いに辿り着いた結果、プリントをしない方が効率的な業務もあるはずだという発想を得たのだという。

そして紙の削減を推進することを目標にするのではなく、業務効率化がもたらす「Well-Being(社員満足度)」と紙削減の当事者意識による「環境意識の向上」を目標に設定し、紙に縛られない働き方への変革を「紙削減プロジェクト」という形で2021年にスタートさせた。

  • 紙削減プロジェクトの目的

    紙削減プロジェクトの目的

「プリンターを販売している弊社がペーパーレス化を推進していることに違和感を持たれる方もいるかもしれませんが、プリンターの本質は、紙を使うことではなく『コミュニケーションの質を上げること』です。エプソン販売として、お客さまのコミュニケーションを質を上げるために、まず社内で自分たちが紙削減を推進していくことで、お客さまに寄り添った、より良い提案を行うことができるようになったのではないかと感じています」(福田氏)

社内プロジェクトの2つの柱

社内でのプロジェクトは、「無駄な印刷の削減活動」と「主管紙帳票の電子化」という2本柱で活動を進めているという。活動は全社事務局の下、各本部/部門/拠点に推進責任者を置いた体制を構築している。

  • 紙削減プロジェクトの組織図

    紙削減プロジェクトの組織図

具体的な2つの取り組みは以下の通り。

無駄な印刷の削減活動

  • 社員への印刷削減の意識改革を進めるため、印刷実績公開やポップアップなどさまざまな啓蒙活動を実施
  • 会議資料などはPDFで参加者に事前に共有し、紙での配布資料を禁止
  • 無駄な印刷の削減活動のイメージ

    無駄な印刷の削減活動のイメージ

主管紙帳簿の電子化

実際にエプソン販売が行った主管紙帳簿の電子化の手順は以下の6ステップ。

①「帳簿票のスクリーニング」:帳簿ごとに電子化の仕分けを行う
②電子化、廃棄する帳簿の優先付け
③電子化可否判断:電子化して問題がないかを確認する
④関連基準・規定類の見直し:電子化に伴い変更があれば修正
⑤適切な電子化方法の選定
⑥帳簿の電子化実施

  • 主管紙帳簿の電子化の手順イメージ

    主管紙帳簿の電子化の手順イメージ

同社は、これらの活動を通じて、2019年度から3年間で2025万枚の用紙の削減に成功したほか、紙削減によるCO2の削減も103.7tと大きく環境に貢献しているという。

また、乾式オフィス製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」で社内で排出された使用済みのオフィス用紙を再生している。さらに、低消費電力で印刷が可能な同社のインクジェットプリンターを使用しており、オフィスでの紙資源循環を実践している。

最後に福田氏に今後の展望を聞いた。

「1番大きな目標は、地球環境に対してしっかりと事業の中で寄り添っていくということです。また、紙が減らせないような業種において『問題なく紙を使える環境を提供する』ということも重要だと思っています。ペーパーレス化は印刷を我慢することではなく、あくまで『環境に対する意識を持つこと』と『業務の効率化を進める』ことが目的です。紙を使用するお客さまたちが気兼ねなく紙を使用できる環境をわれわれが責任を持って作っていきたいと考えています」(福田氏)