アマゾン ウェブ サービス ジャパンは2月1日、昨年11月末に開催された年次イベント「AWS re:Invent 2023」において行われた金融業界に関するセッションに関する記者説明会を開催した。

金融事業開発本部 本部長 飯田哲夫氏は、「イノベーション」「カスタマーエクスペリエンス」「データアナリティクス」「ミッションクリティカル」「レジリエンシー」という5つのテーマに分けて、金融業界のセッションの注目点を説明した。

以下、注目度が高い生成AIの活用を含む「イノベーション」、事例が増えている「ミッションクリティカル」、今回初めてカテゴライズされた「レジリエンシー」について紹介する。

  • アマゾン ウェブ サービス ジャパン 金融事業開発本部 本部長 飯田哲夫氏

  • re:Invent 2023 金融トラックのハイライト

イノベーション:生成AIの活用

イノベーションといえば、やはり生成AIの活用が中心となる。飯田氏は、生成AIについて講演を行った企業として、「NatWest」「Verafin (Nasdaqグループ」「Sun Life」を紹介した。

NatWest

NatWestは生成AIで顧客体験のハイパー・パーソナライゼーションを実現することを狙っており、LLM をコンテンツの生成、コンプライアンスチェックの両面で活用し、顧客ごとにパーソナライズされたメッセージを配信したという。

その結果、コントロールグループと比較して、4倍のメッセージ開封率、900%増の貯蓄口座申込みを達成したとのことだ。

Verafin

Verafinは生成AIを生かして金融犯罪に立ち向かっている。例えば、Amazon Bedrockで生成AIの活用に取り組むとともに、Tokenサイズの最適化によるコスト削減(83%減)、プロンプトエンジニアリングによるハルシネーションの抑制といった工夫が行われた。

また、生成AIを活用することで、単純マニュアル作業を60%から5~10%に削減することに成功し、調査担当者は、金融犯罪の抑止に関わる活動に注力できるようになったそうだ。

Sun Life

Sun Lifeは、生成AIによる社員の生産性向上を狙っており、 Amazon Bedrockを活用して、6カ月で14件の検証を実施。うち4件は2023年中に運用が始まるそうだ。

ちなみに、飯田氏は国内の動きについて、「金融のすべてのセグメントでAmazon Bedrockの活用が進んでいる。Bedrockはマネージドサービスなので、検証やその先のフェーズへの進み方など、初動が速い」と語った。

ミッションクリティカル

飯田氏は、今回はミッションクリティカルの事例が多かったとして、「利用者の目線でいかにサービスを継続させるか、アップデートを行うかといった取り組みが増えている。また、高度化の動きが出てきた」と述べた。

Fidelity Investments

Fidelity Investmentsは、複数のクラウドプロバイダーおよび環境におけるセキュリティ監視の実現を課題としていた。そのため、異なるセキュリティポリシーを持つ複数の環境に対し、2000を超えるシナリオから適切なセキュリティシナリオを自動的に適用し、監視・検出・対応・予防が実施できるスケーラブルなセキュリティ監視ツールを構築したという。

具体的には、コンプライアンスの証跡、リソースの稼働状況などを単一の画面で把握できるUIを実装することで、状況把握が容易になり、開発者を含め現場との情報共有も容易になったそうだ。

Coinbase

Coinbaseは、低レイテンシーの暗号資産取引所をAWS上に構築した。顧客との接続ゲートウェイ、オーダーマネジメントシステム、マッチングエンジンを低遅延で連携させるため、 Cluster Placement Groupを採用し、システム内処理時間1ミリ秒以下を実現したという。

Goldman Sachs

Goldman Sachsは、トランザクションバンキングにおいてゼロダウンタイムに取り組んでいる。

Blue/Green Deployment 戦略の実装により、Validation Timeが0時間から4時間に、土曜日のリリースは月間40時間削減、デプロイ時のAuroraのダウンタイムは1時間から0時間に削減されたという。

レジリエンシーの強化

飯田氏は、「クラウドで動くミッションクリティカルなワークロードが増えてきたことから、今回、初めてレジリエンシーをカテゴライズした。外部のシステムと連携することで、レジリエンシーの構築も変わってきた」と、レジリエンシーについて説明した。

Capital One

銀行業務とクレジットカード業務を行っているCapital Oneは、基幹システムを稼働させるためのレジリエンシーの実現に取り組んでいる。

同社は障害発生の兆候を捉えるため、ユーザーのアクセス状況や関連システム全体の動作をエンドツーエンドでモニタリング。オブザーバビリティを高めることで、障害の早期発見、自己修復を可能としているという。

加えて、あらゆるシステム障害を想定した障害テスト、カオスエンジニアリングを取り入れ、システム人材の知識や能力向上に努めているそうだ。カオスエンジニアリングとは、本番環境が障害などによる不安定な状況にも耐えられることができるという自信をつけるための方法論をいう。

Stripe

Stripeは、4万件のアラート・クエリーを設定しているが、継続的なオブザーバビリティ実現のためコスト最適化が必要だったという。

調査の結果、取得したメトリクスは20%以下しか利用されておらず、4万件のアラートは数十個のクエリーしか使用していないことが判明した。そこで、アプリケーションの分割により監視をしやすくしたり、クエリーの集約を行ったりして対策を行ったそうだ。

飯田氏は、「レジリエンシーもクラウドならではのやり方があり、クラウドを前提とした時に、レジリエンシーをどう構築できるかということが求められている」と述べた。

クラウドならではのレジリエンシーとは何か。オンプレミスでレジリエンシーを考える場合、特定のハードウェアが故障したらそれを修理すればよい。これに対し、クラウドはリージョンの下にアベイラビリティゾーンがあり、その中にサーバがある。「ハードウェアの障害が発生したら、顧客に影響を与える前に切り替えることができる」と飯田氏は語った。

クラウドにおいてレジリエンシーを踏まえたアーキテクチャを設計する時、リソースがあることを前提にし、クラウドのリソースを生かすことが重要だという。