エンジニアリング大手の日揮ホールディングスは、DXを進めるにあたって人財・組織戦略を大切にしている。初代CDOとしてDXに取り組み、その後、人事の責任者としてもDXを支えてきた同社 専務執行役員 CHROの花田琢也氏が1月22日~25日に開催された「TECH+働きがい改革 EXPO 2024 Jan. 働きがいのある企業になるために今すべきこと」に登壇。これまでの取り組みの内容や、そこからの学びを紹介した。

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DX戦略の課題はスピード感と一体感

日揮ホールディングスは、1928年の創業から100年近くの歴史があり、世界トップクラスのエンジニアリング企業を傘下に持つ企業グループだ。グループのパーパスとして「Enhancing planetary health」を掲げ、産業や社会の基盤を支える存在として、エネルギーと環境の調和に常に取り組んできた。

同社が2021年に策定した「ITグランドプラン2030(ITGP2030)」は花田氏が中心となって作成したもので、「日揮のDXにおける羅針盤」だという。2030年に在るべき姿を描き、そこからバックキャストするかたちでロードマップを練っており、デジタイゼーション、デジタライゼーション、DXと進めていく方針だ。その過程で、AI設計、デジタルツイン、3Dプリンター・建設自動化、モジュール化と標準化、スマートコミュニティと大きく5つに取り組み、革新的なプロセス機器の自動設計、建設現場の工場化・無人化などの達成を目指す。

  • ITGP2030策定の流れ

2019年よりITGPの取り組みを進めていたが、2年ほど経過した時に課題を大きく4つに整理したと花田氏は説明する。

1つ目は、長期的なもの短期的なものとテーマによってモードが分かれ、スピード感が異なること。2つ目は、ITや管理系は言われたことをしっかり回す”天動説型”、事業・プロジェクト遂行部門は自分で回そうとする”地動説型”で、テーマを進めるスピードが異なること。3つ目は、自分のプロジェクトやテーマ以外には多くの関心を示さない”My Baby”文化。4つ目は、自分で燃える”自燃型”、誰かが燃えると自分も燃える”可燃型”、周囲が燃えても燃えない”不燃型”、燃えているのを消そうとする”消火型”と燃焼タイプが異なることである。

「1つ目と2つ目はスピード感、3つ目と4つ目は一体感の問題と分類できます」(花田氏)

加えて、管理職の粘土層、デジタルイミグラント(デジタルに後から触れるようになった)などの問題もあった。

そこで、同社は変革の“三種の神器”として挙げられるマインドセット、テクノロジー、メソドロジーの中から、企業にとってのメソドロジーといえる“組織変革”に取り組むことにした。

「デジタル系組織のティール化を進め、自律分散をしつつ、全体が包括するようなホリスティックな仕組みも強化した」と花田氏は語る。変革に向けた一体感という課題については、ガバナンスの強化、ヒト・モノ・カネの最適化のため、ITサミットというステアリングコミッティを組成した。さらに、各事業会社にデジタルオフィサー(DO)を設け、重要なものについてはCDOとDOで方向性を定めてITサミットに持ち込むという仕組みも整えたという。

これらの取り組みを説明しながら、花田氏は実感を込めて「DXのジブンゴト化が重要なのではないか」と呼びかけた。日揮グループでは”DXトーク”として、他社のCDOを招いたイベントを開催したり、雑誌を作成したりするなど”ジブンゴト化”を促進する策を展開しているそうだ。

戦略人事の船中八策とは

花田氏は2022年にCDOと兼務する形でCHROに就任、戦略人事を実践している。

「エンジニアリング会社の財産は人。ビジョンを達成するためには経営戦略と連動した人事戦略が最重要課題になる」と考えた花田氏はHROを任命し、俯瞰的な視点で全体を推進するHROコミッティを設置した。

そのHROコミッティが、”船中八策”として定めたのが、以下の8つの重点プログラムだ。

  • 1.人財ポートフォリオ策定
  • 2.人財採用戦略
  • 3.人財育成戦略
  • 4.グローバル人事制度
  • 5.タレントマネジメント
  • 6.サクセッションプラン
  • 7.リテンション戦略
  • 8.エンゲージメント戦略
  • 中でも人財ポートフォリオの策定は“一丁目一番地”。2021年に策定された長期経営計画「ビジョン2040」の目指す姿に対して、どのような人財がどのぐらい必要になるのかを長期的な視点からまとめたものである。人財については、今後のコアコンピタンスを把握しながら、どのようなタイプの人材が、どのタイミングで必要になるのかなどを考えて、ポートフォリオを作成している。

    エンゲージメント戦略は”パーパスジャーニー”として進めている。日揮グループのパーパスであるEnhancing planetary healthの裏側にある”Why”については「理解が早かったものの、Whyの次の”What”、”How To”がなかなか見えてこなかった」と花田氏は振り返る。

    そこで、パーパスをジブンゴト化するため、企業のパーパスと自分のパーパスをマッチングする取り組みを展開。それぞれはn次方程式で、それらを因数分解することで、双方でマッチングする因数が見えてくるのではという狙いからだ。具体的には、”My Tagline”として自分なりに言語化し、それを社内メールの署名欄に記述するようにした。そうしたところ、企業パーパスの納得度(5点満点)が研修前の2.57点から、研修後には4.13点に改善したという。

    このような船中八策を進める上で、重要なことは、「人事の施策は人事のためではなく、社員のためである」(花田氏)という認識だ。したがって、この取り組みは事業系のマネジメントが主体となり、現場のニーズやシーズを把握して検討し、実装段階でスピーディーに進められるように、人事系の若手や中堅メンバーが取り組みに積極的に参加することにしたそうだ。コンサルタントに依頼することも考えられるが、「(コンサルタントの)企画が出来上がった段階で、人事部の脚力がついていないことが多く、スピード感が落ちることになる」と花田氏は説明した。

    日揮ホールディングスでは、デジタル系のITGP2030とともに、人事面でも「人財グランドデザイン2030」を作成した。目指す姿は、「統合力で未来を切り拓き、やり遂げるプロ集団」とし、8つの重点プログラムはそれぞれがn次方程式で、最終ゴールに向けて因数分解して、成果のイメージを見える化している。