リクルートマネジメントソリューションズが今年1月、新たに立ち上げた動画コンテンツシリーズ「マネジメント図鑑」は、業界問わずさまざまな分野で活躍する人材との対談を通じて、マネジメントに役立つノウハウを視聴者に提供するWeb番組だ。
第1回のゲストには、中日ドラゴンズで選手・監督を務めた野球評論家の谷繁元信氏が登場し、リクルートマネジメントソリューションズでマネジメント支援ツール「INSIDES」の事業責任者を務める荒金泰史氏と対談。谷繁氏は、これまでに所属したチームでの経験談を踏まえながら、マネジメント層が持つべき視点について語った。
選手・監督時代を振り返って
谷繁氏は、プロ野球選手としてのキャリアを横浜ベイスターズ(現:横浜DeNAベイスターズ)にてスタート。1998年シーズンには日本一も経験し、その後移籍したドラゴンズでも4度のリーグ優勝に貢献した名捕手である。
冒頭、荒金氏から「強い組織の条件とは?」と問い掛けられた谷繁氏は「強い組織は、まず個人が成長を目指して行動している。自分も、たとえチームの状態が悪くても、その状況を変えようと反骨心を持っていた」と回答した。
「ベイスターズ時代は、僕を含めた選手たちは、与えられた練習を消化するだけでなく、個人のレベルアップを意識して練習を積んでいました。同世代の選手とは、全体練習が終わった後も一緒に自主練習に明け暮れていましたね。ドラゴンズに移籍すると、勝利への貢献をより求められる環境になりました。チームには周りを俯瞰して見て、自分が何をすべきかを理解できる選手が多かった印象です」(谷繁氏)
チーム内の競争は熾烈を極め、それぞれが鍛錬を積んだものの、いざ試合が始まればチームが勝つために同じ価値観を共有できたという。これを聞いた荒金氏は「ビジネス界では勝ち方が一つではないと言われている。そうした中でも、チームが力を発揮するには個々が勝ちへの強い意識を持つことが必要」と共感を示した。
名将からの学びと、監督時代のマネジメント
選手時代は大矢明彦氏や落合博満氏など球界きっての名将の薫陶を受け、自身も選手兼監督として2年間ドラゴンズを率いた谷繁氏。かつてのエピソードを交えながら自身のマネジメントについて振り返った。
「落合さんは普段は何も言わないタイプでした。でも、自分が配球に悩みを抱えていた時や、チームでの序列が前後する際には必ずマンツーマンで声をかけてくれましたね。僕も、監督時代に選手に言いたいことがあれば監督室に呼んで個別に話をしていました」(谷繁氏)
こうした選手時代の経験から、谷繁氏は全体ミーティングでは会話の内容が選手に響きづらいことを知っていた。そこで、選手たちそれぞれのコンディションを細かく把握するようにし、異変や気になることがあればマンツーマンで対話をしたそうだ。
特に、ピッチャー陣のコンディションを見定めるために、各選手が調子が良い場合と悪い場合のフォームと球筋を頭に叩き込んでいたのだという。そして違和感を覚えた時、個別に向き合う時間を設けたのだ。同氏は、「レベルの高い選手は一声かけるだけで修正してくれることもあり、常にデータを頭に入れていた」と振り返った。
今どきの若手とどのように接すればよいか
続いて話題は、マネジメント層が頭を悩ませがちな「若い世代との向き合い方」に移る。マネジメント層と若手の間には年代や経験値の違いから価値観にギャップがあり、“昔のやり方”ではうまくコミュニケーションが取れないケースも少なくない。今どきの若手とはどのように接していけばよいのだろうか。
これに対して谷繁氏からは、自身の経験を踏まえて「昔の“良い方法”を取り入れながら、新しいことを試せばよい」とのアドバイスをマネジメント層に送る。
「“昔ながらの指導法”と言われることもあると思いますが、それを全否定しなくてもいいですよね。野球でも、基礎・基本の部分を叩き込んだ後に、発展した現代の新たな方法論を取り入れた指導をしています」(谷繁氏)
一方、若手に向けては、指導を受けながら基本を学べる時間の貴重さを説く。
「基礎を叩き込んでもらえる機会も限りがありますから、大事な時間として捉えてほしいです。先輩の見様見真似でも良いので、打ち合わせの後はすぐに御礼メールを送るなど基本の基を徹底してみると良いですね」(荒金氏)
また、マネジメントする上では、時には手厳しい指導をすることもあるだろう。しかし、どこまで厳しく言って良いものなのか。谷繁氏は、自身の見解として「叱ることと怒ることの区別が必要」とその勘所を語った。
「時には叱って指導することも必要です。ただ、感情的に怒ることとの区別は必ず必要ですよね。感情的に怒るのはよくありませんが、例えば、怒られると反骨心を持って頑張れる人材がいたとして、そこに意図的に怒るのであればいいと思います」(谷繁氏)
一つ一つの目標を叶えて大きな成長へつなげる
谷繁氏は監督時代に、選手が前の打席や登板よりも成長したと感じる瞬間に、喜びを感じていたそうだ。同氏は「一瞬一瞬の喜びや意味を感じられる人材が成功する」と話す。
「例えば、小学生が『大谷翔平を目指す!』と言ったら、少し考え直させた方がいいかもしれません。すぐ近くに叶えられる目標を持ちながら、それを達成する目標を味わって次のステップへ進むべきです。その先に大谷翔平レベルの大きな目標があってもいいんです。僕も18歳からプロ野球界に入って、45歳まで選手を続けられました。これは、1年後、2年後のような近くの目標を積み重ねたことが大きかったです」(谷繁氏)
荒金氏も谷繁氏の言葉に同意を示した上で次のように総括し、対談を締めくくった。
「個人は目の前のことを着々と叶えていくことが大事ということがとても深く理解できました。管理職は、社員に大きな目標を描いてもらうことも大事な一方で、目の前のこととのバランスをとる能力が求められますね」(荒金氏)