アルマ望遠鏡は12月22日、宇宙が現在の年齢のわずか10%だったころ(十数億年)の時代において、赤外線で非常に明るい遠方銀河の1つであり、活発に星を作っている「BRI 1335-0417」内部の細かなガスの動きを調べた結果、同銀河の平坦な円盤構造に地震のように垂直に運動する振動波(銀震)が形成されていることを明らかにしたと発表した。

同成果は、オーストラリア国立大学の津久井崇史氏率いる国際共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。

宇宙初期の銀河は、現代の銀河と比べて星を形成する速度がはるかに高かったことがわかっている。そんな遠方銀河の1つであるBRI 1335-0417は、質量こそ天の川銀河と同等だが、その星形成速度は数百倍にも達する。この高い星形成率を実現するため、星の材料である星間ガスがどのように銀河に供給されているのか、そのプロセスを理解するには、銀河内のガスの動きや分布を解明する必要があるとする。

電波観測において、観測者に近づくガスが発する電波の波長は短くなり、遠ざかるガスからの電波の波長は長くなる(ドップラー効果)。そのため、波長の変化を分析することで銀河内でのガスの動きを調べることが可能だ。しかし、遠方銀河におけるガスの運動を詳細に測定することは、望遠鏡の感度の限界により一部の銀河でしかできなかったという。そこで研究チームは今回、BRI 1335-0417において、アルマ望遠鏡を用いて、近傍の銀河と同程度の詳細さで(銀河内のおよそ70の異なる場所で)ガスの運動を調べることができたとする。

まず、BRI 1335-0417の極めて質の高いガス運動速度データから銀河円盤の大局的な回転運動を差し引くことで、細かいスケールの微弱な運動が分析された。その結果、細かいスケールでのガスの速度が渦巻状のパターンを示し、ガスの分布が示す渦巻状のパターンと一致したという。これらの特徴は、数値シミュレーションで調べられた銀河円盤内を伝わる地震波現象と一致しており、ガスやほかの小さな銀河が円盤に激しく衝突していることを示唆しているとのことだ。なお回転運動は速度差が大きく、空間スケールが大きいため測定が比較的容易だったのに対し、地震波のような速度差が小さく空間スケールが小さい運動の測定は困難であり、遠方銀河で測定されるのは初めてのことだという。

  • (左)BRI 1335-0417のガス分布。(中央)円盤に伝わる地震波による小さいスケールのガス運動。(右)似た分布と運動が、地震波を再現した数値シミュレーションで確認された

    (左)BRI 1335-0417のガス分布。(中央)円盤に伝わる地震波による小さいスケールのガス運動。青い領域は地球の方向に近づく運動、赤い領域は遠ざかる運動が示されている。黒線は渦巻状のパターン。(c)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Tsukui et al. (右)似た分布と運動が、地震波を再現した数値シミュレーションで確認された。赤い領域は観測領域と同じサイズが示されている。(c)Bland-Hawthorn and Tepper-Garcia 2021(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

さらに研究チームがガスの分布を調べた結果、円盤に棒状の構造が存在することが判明。棒状構造は天の川銀河にあることはよく知られており、そのほか一部の銀河にも見られるが、BRI 1335-0417での発見はこれまで知られている中で最も遠方のものになるとする。ちなみに棒状構造は、銀河内のガスを撹乱して中心へと運ぶ役割を果たすことがわかっている。

また同銀河は、初期宇宙では珍しく、知られている中では最も遠い渦巻銀河でもある。今回の研究成果は、この渦巻構造が円盤内の垂直地震波と一致し、同じガスやほかの銀河の降着イベントがこの銀河の渦巻構造を作り出したことを強く示唆しているという。銀河における棒状構造と渦巻構造の起源はまだ解明されていないため、今回の研究成果は、初期銀河における渦巻構造の形成シナリオに関する新たな手がかりとなるとしている。

なお、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)もその解明に向けた探求を行っているといい、星の分布や運動を取得できるJWSTは、星の原材料となるガスを調べることができるアルマ望遠鏡のデータと組み合わせることで、BRI 1335-0417のような初期の渦巻円盤銀河の形成過程のさらなる理解の一助となるかもしれないという。

それらに加え、欧州宇宙機関(ESA)が運用するガイア衛星も最近、天の川銀河円盤において垂直方向の振動を観測したことが発表されている。同衛星は、天の川銀河の詳細な3次元地図の作製を目的としたアストロメトリ専用の衛星であり、同銀河内の約18億個もの星の正確な位置と動きを測定できる性能を持つ。

そしてその観測結果の理解を促進するため、研究チームのJoss Bland-Hawthorn氏とThorsten Tepper-Garcia氏がコンピュータシミュレーションを実施。それによれば、円盤垂直波とそれに伴う渦巻状構造が確認されたとする。この結果は、今回のBRI 1335-0417における観測で確認された特徴ともよく似ており、観測データの解釈において重要な役割を果たしたという。

  • Bland-Hawthorn氏とTepper-Garcia氏による円盤銀河のコンピュータシミュレーション

    Bland-Hawthorn氏とTepper-Garcia氏による円盤銀河のコンピュータシミュレーション。円盤が近くにある小さな銀河によって乱され、銀河円盤が垂直に振動する「銀震」が伝わる様子が見られる。(c)Bland-Hawthorn and Tepper-Garcia, University of Sydney(出所:オーストラリア国立大学Webサイト)

研究チームは、銀河の時間進化を観測することは不可能だが、物理法則と観測の両方に基づくコンピュータシミュレーションは、これらの現象の正確な起源と進化の解明に役立つ可能性があるとしている。