2023729日に、令和5年みどりの学術賞を受賞された2人の研究者とともにトークイベント「植物博士と一緒に歴史さんぽ ~DNAからわかる植物の歩み~」を実施しました。

トークイベントの様子

令和5年みどりの学術賞を受賞した研究者は、倉田のりさん(国立遺伝学研究所 名誉教授/総合研究大学院大学 名誉教授)と津村義彦さん(筑波大学 生命環境系 教授/山岳科学センター長)です。トークイベントのタイトルにもDNAという言葉がある通り、お二人ともDNAから植物の不思議を探る研究を行ってきました。三部制で行われたトークイベントでは、第一部では津村さんから、第二部では倉田さんからお話をうかがいました。そして第三部では植物座談会ということで、お二人の研究者が植物をどのように楽しんでいるのかを話していただきました。

第一部 日本の多様な気候に適応してきた樹木たち ~スギやブナの遺伝的地域性~

津村さんは様々な樹木の遺伝子をこれまで調べてきました。例えば同じ樹木の中にも、姿かたちやそれに関わる遺伝子が地域ごとに少しずつ異なる遺伝的地域性があることについて、基礎的な研究から遺伝的地域性を守るための普及活動まで行ってきました。このトークでは津村先生が長らく研究してこられたスギを例にいろいろ話してもらいました。

このトークのみどころは、地域によって異なるスギの実物を参加者の方々にも見比べてもらったパート(YouTube動画内4:33~)と、津村さんがスギの遺伝的な違いを詳しく解説されているパート(YouTube動画内34:44~)です! 下の写真に写っているスギの葉は、右側が屋久島産、左側が秋田産のスギのものです。よく見ると、左側の秋田産のスギの方が、トゲトゲした葉っぱの反りが小さいことがわかります。これは、冬に雪が積もる環境で生きるために、日本海側の地域に生息するスギが手に入れた特徴です。

秋田のスギ(画像左側)と屋久島のスギ(画像右側)の実物。秋田のスギの方がトゲトゲした葉っぱの反りが小さいです

トークでは、積雪のあるなしによる形の違いがなぜ生じるかの詳細を聞くことができました。さらに遺伝子にも違いがあることやそれを守ることの大事さについても、津村さんは話してくれています。同じ樹木でもこんなに違うのかという驚きを覚えること間違いなし、ぜひご覧ください!

日本各地のブナ林の様子を語る津村さん
第二部 ゲノムに刻まれた進化の歴史 ~イネの栽培化の起源~

倉田さんはイネの遺伝子を調べてきました。イネといっても倉田さんの研究対象は私たちがふだん食べているお米のイネだけではありません。ジャポニカ米やインディカ米など、人間が作物として育てているイネに加えて、自然に生えている野生のイネの遺伝子も調べてきました。その結果、栽培化の起源、つまり野生のイネが人間の栽培するイネになるまでの歴史がどこの地域から始まったのかを突きとめました。

このトークのみどころは、いろいろな野生のイネを知ることができるパート(YouTube動画内3:20~)や、どのようにしてイネの栽培化の起源を突きとめたのかが聞けるパート(YouTube動画内15:58~)です! たとえばOryza. rufipogonという学名の野生イネは今私たちの食べているイネの直接の祖先となります。皆さんがふだん見ているイネとは違う姿が印象的ですね。

野生のイネの紹介をする倉田さんと第二部ファシリテーターの青木

また、栽培イネにとって重要な特徴とはなんでしょう? 大きいお米が実ること?味が美味しいこと? トークでは、私たちのご先祖様が選び抜いたイネの栽培化において大切な特徴についても触れています。ぜひ動画をご覧ください。そして会場には世界各地の野生のイネの種子や原産地のマップも設置され、会場の参加者の皆さんはイネの奥深さにふれました。イベント終了後には倉田さんにもっと話を聞きたい参加者の方たちがマップやイネの前に集まり、倉田さんと参加者の皆さんで語り合う様子が見られました。

会場で展示された世界各国の野生のイネの種子と原産地のマップ
第三部 植物座談会

両研究者の研究内容に迫った第一部・第二部を経て、第三部では研究者の植物や自然に向ける視点について座談会形式で話をしました。この2023年は植物学者牧野富太郎をモデルにしたドラマが放映されるなど、植物学者の植物への接し方に注目が集まりました。植物の遺伝子に注目している研究者はどんなことを考えて植物を見ているのか、ざっくばらんにうかがいました。

話のテーマは「思わず写真を撮りたくなった植物や風景」と「変化を見守っている植物」、「『これは研究テーマになるかもな』と思った植物や森」の3つ。動画のなかで特に皆さんにも見ていただきたいのは、倉田さんが知りたがっていた植物の名前を、会場の参加者の方が教えてくれたシーン(YouTube動画内4:55~)! 会場にいるみんなで植物を探っていくことで生まれた一体感に、思わず感動しました。

倉田さんが変化を見守る植物についてお話しする様子

以上、各部のみどころを紹介しました! 令和5年のみどりの学術賞を受賞した2名の研究者の研究の魅力はもちろん、素敵なお人柄もわかるトークイベントになりました。



Author
執筆: 上田 羊介(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、生きものや地球環境問題を主なトピックとして、研究者や企業の人たち、一般の人たちなど異なる立場の人が交わる場づくりや情報発信に取り組む。これまで環境DNAを使って生態系への好奇心を刺激するワークショップの開発や、プラスチック問題に取り組む企業と来館者がアイデアを提案し合えるパネル展示の制作などを担当。

【プロフィル】
大学時代は農家さんのお手伝いや、野菜を食べるニホンザルの研究を行っていました。人と生きもののより良い関係性を考えたくて未来館へ。日々の仕事で色々な方と接するうちに、移ろう季節の中で日々変化する身近な自然を楽しむことが趣味になりました。最近は人にとっても生きものにとっても豊かな社会がホットトピックです。

【分野・キーワード】
生物多様性、環境問題、野生動物との軋轢(獣害)、景観生態学